天然
「お待たせしましたー!」
初芽が我先にと1人で湊のいるリビングに姿を現した
しかも頭に注射器の刺さったナース姿で
「似合いますか?」
「その注射器重くないの?」
「へっ?あー、重くないですよ。全く」
「そうなんだ」
「で、で?似合いますか?」
「注射器リアルだなぁ。自作?」
「これはそういうコスプレグッズを販売してるところで買って……って湊さん⁉︎はぐらかすのやめてくださいよ!」
「……まー似合ってると思うぞ」
「あ……ありがとうございます……」
トマト並みに赤くなった初芽。認めたくはないけど、やっぱり可愛いのよなぁ。私に似てるから当たり前か
「ったく……初芽。抜け駆けは無しって言ったのに」
「ごめんごめん!」
「……それで湊さん。私のコスプレ衣装に何かコメントはありますか?」
蘭さんはウィッチ。三角錐の形をした帽子と竹箒を持った魔女のコスプレだ
スタイルの良い蘭さんの着るウィッチコスは可愛さもあるが、それ以上にカッコいい。見習いとかじゃなくて、歴戦の魔術師って感じだ
どちらにしても眼福。私がオスの獣なら2人共抱いている
「2人共似合ってると思う」
「可愛いですか?」
「うん。可愛い」
ピンポーン
2人を褒める湊を抑止するためだと思わせるようなタイミングで、家のチャイムが鳴った
「もしかして……由布子さんですか?」
「多分……一応先に確認しとこう」
私は桑名の可能性も考慮して、先に玄関をすり抜けて扉の前に立つ人物の確認をした
「本当にこの格好で来た……」
残念ながら私の提案したバニーコスではない。バニーコスで湊にインパクトを与えるのが良いと思っていたけど、違う意味でインパクトがある
天然な子……だけどそれが私にとってはかなりの加点だ
と、ここで玄関の扉が開いた
「はい……誰?」
湊でさえ、困惑した表情を浮かべた。あまり湊のこういう表情はみられない
「あ、わ、私です。東雲です」
「ゆ、由布子さん?」
声がないと判断が出来ない。なぜなら由布子さんは……カボチャの被り物をしているのだから
コスプレではなく、着ぐるみの由布子さん。私の求めた身体の露出は皆無。全身着ぐるみで覆われているので、肌が1%も出ていない
「と、とりあえず入ってください」
「お、お邪魔します……」
ガタンッ ガタンッ ガタンッ
由布子さんは顔を扉に何度も当てながら、なんとか入ることが出来た
そして前に歩を進める由布子さんだったが、視界不良で気が付かなかったのか、段差で足を引っ掛けてしまった
「危ない!」
湊は咄嗟に着ぐるみの由布子さんを支える形を取った
「あ、ありがとうございます」
由布子さん。多分顔真っ赤だろうなぁ……今めっちゃ良い雰囲気なのに……着ぐるみのせいでその雰囲気も台無しだ
「もしかして視界悪いですか?」
「そ、そうですね。目の位置が若干高くて、下はほぼ何にも……」
「じゃあ手を貸しますね」
「あ、はい……ありがとうございます」
着ぐるみの由布子さんの手を取って、ゆっくりとリビングへ案内する湊。やはり私の元夫は気が効く良い男だ
「遅かったですね。湊さーー」
由布子さんの着ぐるみを見た3人は同時に固まった
「ら、蘭!豆投げて!」
「わ、分かった!」
「落ち着いて2人共!今日は節分じゃないから!」
あまりに想定外な物が来たせいで、2人共困惑した様子だった
♢ ♢ ♢
「それでそんな格好をしてたのね」
「……はい」
「……由布子さんって案外バカ?」
「はぅ……うぅ……」
蘭さんの無垢な言葉が、由布子さんの心を貫いた
「あー!蘭が由布子さんを泣かせた!」
「ええっ⁉︎ご、ごめん‼︎まさか泣くとは思ってなくて……」
「いくら由布子さんが可愛くて妬ましいからって、そこまで酷いことを言う人だとは思わなかったわ」
初芽は被り物だけ外した由布子さんの背中を摩りながら慰めた
「まあどうせ……あのバカが変な入れ知恵したんでしょうけど」
やっぱりバレてた……でも着ぐるみのアドバイスはしてないからね⁉︎
「あのバカって誰のこと?」
「……私と由布子さんの共通の知り合い。言っても誰か分からないわよ」
「ふぅん。……でもまあその人も相当バカね」
蘭さんの言葉は私の心をも貫いた。違うの……私だって着ぐるみ着てこいなんて言ってないんです……
「さて由布子さん。さすがにその衣装は動き辛いし、私達が薄着で寒いせいで暖房をつけてる。そんな中で着ぐるみは暑いと思うから、私が予備で持ってきた衣装を貸してあげる」
「い、いいんですか?」
「ええ。大丈夫よ」
「初芽。アンタ予備なんて持ってきてたの?」
「結構持ってきたよ?1着だと飽きられちゃう可能性もあるから、何度も色んな衣装に着替えようってね」
「狡賢さだけは一丁前ね……」
「そりゃどうも。というわけで、2階の一室に紙袋置いてあるから、その中の衣装ならどれでもいいから着てきなよ」
「……分かりました」
由布子さんは被り物の頭を手に抱えて、2階へと上がった




