アンタの言葉は聞かない‼︎
「李華!ここにいるんだな‼︎」
「……っ⁉︎」
桑名の言葉に私は咄嗟に桑名から距離を取った
「なんでバレた⁉︎ど、どうしてバレた⁉︎」
1番嫌だったことが現実になってしまった
「焦らないでいいです。返事をしなければ良いんですから」
焦る私に、樹里は的確なアドバイスをくれた。確かにその通りだ。私の存在を認知する術を持たないのだから、返事をしなければ、ただの勘違いだったと考えてくれるだろう
「……分かる。俺には分かるよ。李華が俺に一生懸命言葉を伝えようとしてくれてること。でもそれが幽霊になってるせいで俺に聞こえなくなってるんだよな?」
「……鳥肌立ったんだけど」
「本気で気持ち悪いことを言われると、鳥肌って立つものなんですね。てか、幽霊でも鳥肌立つんだ……」
桑名の言っていることは全部的外れ。私のことなんて1ミリ足りとも理解していない
「自分の存在を俺に気がついてほしくてしてたんだろう?だから気づいてやったぞ!あの字は李華の物だってな!」
「……聞いた?今の」
「はい。適当ばっかり言いますねこの人は」
残念ながら、張り紙の字は全て樹里が書いた物だ
樹里は物には触れないが、私には触れる。字体でバレる可能性を考慮して、能力でペンを持った私の手を持って書いた物だ
私は昔に書道を習っていたので、比較的キチッとした字に対して樹里は女の子らしく丸みのある字体で、並べて見なくとも違う物だと素人目でも分かる
「そりゃあモテないわけですね。話したこともないけど嫌いになりました」
「まあそうだよね」
この男ほど女に敵扱いされる人間は珍しいと思う
「なぁいるんだろって?紙とペンあるから、ここに書いてくれよ!俺への想いをさ!」
書いてやりたい……殴り書きで溜まり溜まった文句を
「……分かった。事情があって書けないんだな?じゃあ俺の想いだけでも、お前に伝えてやろう」
「全力でいらないんだけど」
「まあまあ聞いてあげましょうよ」
「私は興味ないから樹里が代わりに聞いとーーうえっ⁉︎お、おい‼︎」
樹里は能力を使って、私を拘束した
「じゃあ私は興味無いんで、本人の李華さんがしっかり聞いてあげて下さいねー」
「ふざけんなー‼︎解除しろ!頼むから解除してください!後生ですから‼︎」
「ダメでーす。2、3分後にまた来ますねー」
「ふーざーけーんーなー‼︎」
私の叫びも虚しく、部屋に取り残される私。なんでわざわざ聞かされなければならないんだろう……聞いても得どころか損でしかないのに……
「李華……俺はお前のことがずっと好きだったんだぜ?」
始まってしまったよ……聞きたくもない愛の言葉が
「来る日も来る日も下駄箱に入れた俺のラブレター。何度も読み直してくれたと思う」
毎日この男からのラブレターをゴミ箱へ捨てるのが、私の学校に来て最初に行う、いわばルーティーンみたいなものになっていた。しかも1枚たりとも読んだことはない
「一緒に居られる時間が欲しいから、生徒会にも立候補したんだぜ?」
学校設立史上初の0票だったやつね
「李華の高校の頃の思い出ってなれば、必ず俺の話題が出ると思う」
悪い意味でな
「それなのに……ごめんな。あのクソ湊から救い出してやれなくて」
もう何度も聞いたその言葉。そしてその言葉を聞くたびに私は……
無性に腹が立ってしまうのだ
「……相変わらず私をムカつかせるのが得意なんだな」
「り、李華?」
私は我慢の限界を迎え、能力を使って桑名に私の声が届くようにした
「この声は李華なんだな!やっぱり俺のことが忘れられなくて、俺の側にーー」
「アンタの言葉は聞かない‼︎私は話すのに時間制限があるんだ!だから私はアンタの無駄な言葉に割く時間はない‼︎この時間はアンタに文句を言う為だけに使う‼︎だから喋んな‼︎」
私の威圧に押されたのか、引き攣った顔をしながら黙り込んだ
「いいか⁉︎私の大事な男の邪魔。そして私の大切な妹を傷つけたアンタを私は許すつもりはない!これ以上、湊とその他周りの人間に迷惑かけるようなら私はアンタを殺してやる‼︎もう絶対に近づくな‼︎」
声にあらゆる感情を詰め込んだ
怒り。憎悪。怨み。嫌悪。軽蔑。殺意
これら全ての感情を込めた私の言葉だった
「は、はは……み、湊に言わされてるのか?」
「……自分の意志だ。私の存在は湊にはバラしてない。だからもしバラしたりしたら、その時は分かってるな?」
と、ここでタイムアップを迎えてしまった。もう話すつもりはないが、再使用には5分のインターバルが必要になった
「……はぁ」
「結局、バラしちゃったんですね」
樹里が戻ってきて、私の制限を解除した
「……まだ2分経ってないけど?」
「李華さんの怒鳴り声が聞こえてきたから戻ってきたんですよ。……冷静さを失った口調の荒さでしたね」
「いいの。冷静でなんていられないし、口調を荒くして喋らないと、この男に本気で物事を伝えることなんて出来ないんだから」
ちょっとでも優しさを見せれば、勘違いしてつけあがる。
だからそんな勘違いさえ起こせないようにしないといけなかった
「……これで絡むのをやめてくれれば万々歳ですね」
「……うん」
「でも……悪手ですよ。これ」
「分かってる。でも止まんなかったんだもん」
荒々しい口調で文句は言った。頭とか叩いてたから、実害を与えられることも証明した上で、ほぼ殺害予告みたいなものも出した
ただこれでも……この男は辞めないだろうと私は考えている




