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家出



「前からずっと申し上げていますが、お断りさせていただきます」



私が断りを入れると、父と母は困っている様子だ



「またか……蘭よ。いつまでそんなわがままを言うつもりなのだ?」

「わがままを言っているつもりはありません。相手は私が決めますし、そもそも私はまだ22歳です。結婚を急がないといけない年齢ではありません」



私は親が勝手に持ってくるお見合い話を断っていた



環凪家は由緒正しき家系。環凪家に取り入ろうとする輩もかなり多い



そして私はそんな一家の1人娘。そりゃあ恋愛に自由なんて与えられるわけがない



昔から習い事だの、作法を覚えろだのと散々親のワガママを聞いてきた

モデルの仕事がしたいって言った時だって猛反対されたけど、私が無理矢理にゴリ押しだからこそどうにかなった



「はぁ……蘭が会社の跡を継いでくれるなら、私達だって結婚を急がせたりなんてしないのよ?それなのに蘭ったらモデルなんてしてるから」



モデル……なんか……



自分のやりたい事がバカにされ、激昂しそうになったが、なんとか抑えた



「……もう自室に戻りますわ」

「まあ待て。今回ばかりは絶対にお見合いをしてもらわねば困るのだ」

「嫌だと言ってますわよね?」



耳が詰まってるのか、それとも取れているのか知らないが、全然私の話を聞いてくれない。父は自分の都合が悪いことには耳を貸さない。私なんかよりよっぽど子供だ



「今回のお見合い話を断るというなら、こっちにも考えがある」

「……なんですか?」

「この家から出て行ってもらう」



この発言に、私よりも隣に座っていた母の方が驚いた様子だった



「そ、そこまでする必要があるの⁉︎」

「ある。今回の相手は今までとは格が違う。我が家と同等の格式高い家柄なんだ」



環凪家と同等……私の中で当てはまる人間が1人いた



「……鳴海(なるみ)家の長男坊の、蓮斗(はすと)さんですか?」

「そうだ」



……なるほど。どうりで今回のお見合いに父がこだわるわけだ



「だったら尚更お断りします。私はあの人が嫌いなので」

「いいのか?出て行ってもらうことになるが」



……そんな真顔をされたって分かっている。私が出て行くだなんて選択肢を選ばないということを



仕事も増えてきて安定してきたとはいえ、まだまだ貯蓄に不安があるし、何より1人暮らしもしたことだってない

家事だってメイド達がしてくれるからしたことがない

頼れる友達だって、私にはいない



それらを踏まえて、ここから追い出されることを拒むと父は踏んでいるんだろう



でも……



「……わかりました」

「そうだ。わかればいいんーー」

「この家から出ていかせてもらいます」



そんな不安なんかどうだって良くなるぐらい、私は……自由が欲しくなった



♢ ♢ ♢



「さて、どうしましょうか……」



私がモデルの仕事で貯めたお金が全部入った通帳と、部屋から服などの必要そうな物を数点、キャリーバッグに押し込んで外へと飛び出した



……のはいいんだけど、外はもう真っ暗。当たり前だ。もう23時なのだから



「……とりあえず寝床を探さないと」



といってもこの時間から部屋を貸してくれるホテルなんてないだろうし……頼れる友達もいない



だが私はとある情報を聞いたことがある。この街には、カプセルホテルという、すごく狭いが格安で入れるホテルがあると



携帯はあるし、とりあえず検索してみよう。最悪コンビニの前で夜が明けるのを待てばいい



「……一応近くに今から泊めてもらえるホテルがないか調べてみようかな」



念の為だ。もしかしたら泊まれる場所があったのに、みすみす逃したとなればショックも大きいからね



「……あ、ここら辺に一件だけホテルがある。えっと……ラブホテル?」



愛のホテル?響きからして、お客に優しそうなホテル名だ

愛のホテルというのだから、泊まる場所がなくて困ってる私を助けてくれるかもしれない



私は愛のホテルへと向かった



「……すっごい眩しい部屋ね」



こんな夜遅くからでも部屋に案内してもらえた。ただ受付の人が、何故か不思議そうな表情をしていたのが気にはなった



にしてもすごく眩しい部屋だ。ピンク一色の部屋。たまたま空いているのが、この特殊仕様な部屋だけだったのか、それとも全部屋こんな感じなのか……



お風呂はなぜかガラス張りだったし、用途が全く分からないおもちゃ?みたいなのもタンスの中にあった

天井にはミラーボールも付いている。パーティ専用部屋なのかな?

それならば、1人でそんな部屋に泊まろうとしているのだからおかしく思われても仕方ないのかな?



「とりあえず今日の寝床は確保出来たし、早めに寝ようかな」



明日からのことも考えないといけないけど、今日は疲れた……

明日はお昼からモデルの仕事が1つ入っている。お金は節約したいから、美容室に行くことに躊躇いはあるけど、手を抜いているって思われて、今後に影響したら元も子もない



「……の前に、一報入れとかなきゃね」



私は湊さんのアドレスに、明日の朝に伺うことを書き、送信した



「これでよし。……って早っ」



送って5秒以内に返信が飛んできた



「お待ちしております……か。早すぎでしょ……全く……」



私は携帯に充電器を差し、そのままベッドの上で眠った



「よしよし!思わぬチャンスが来た!」



湊に対してだけ恋のキューピットと化すこの李華が、蘭さんと湊の距離を近づけるチャンスを見逃すはずはない!



蘭さんが親と喧嘩して家を出たところからずっと追跡してきた。そして明日は湊と会う予定……



私のIQ180の脳が、完璧な作戦を思いついた



「よーし!明日が楽しーー……頭痛っ……」



以前、樹里と検証した時に、男女がとある行為している時に匂うあの臭いのせいで頭が痛くなることがわかった

ましてやここはラブホテル。それ目当てで入ってる人だらけだ



「さっさと離れよ……うぇ……き、気持ち悪っ……」



私は急いで、この場から離れるのだった

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