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料理対決



「今日は俺が料理を振る舞うから、2人は待っててくれ」

「だ、ダメですよ!私今日休みでしたし、仕事で疲れてる湊さんに頼めません!」

「そ、そうです!」



1日仕事で疲れているところを無理言ってご飯に付き合ってもらうのに、ご飯の用意までさせられない



「あ!いいこと思いつきました!由布子さん!私と勝負しませんか?」

「しょ、勝負ですか?」

「そうです!2人で料理を作って、どちらが湊さんに喜んでもらえるか競うんです!」



初芽さんはこちらを向いて、一度ウィンクをした

初芽さんの意図と合うかは分からないが、多分湊さんの負担を減らすための作戦なんだと思う



でも安易に受けて大丈夫かな……私もたまに自炊しているとはいえ、初芽さんは湊さんの家に度々料理を作りにきてるらしいし……



優しい湊さんのことだし、私がこの話に乗らなかったら自分が作るといって聞かなそうだし、逆にこの話に乗れば湊さんの負担は減るけど、初芽さんとの勝負に負ければ私の好感度が下がる



後者の方が私にとっては悪い選択肢だけど……元からこの答えは1つしかない



「わ、分かりました。う、受けて立ちます」



♢ ♢ ♢



と意気込んだのはいいものの……



作る料理すら決まってない。それに対して初芽さんは鼻歌を鳴らしながらお鍋で何かを煮ていた



「あれあれー?由布子さんいいのー?早く何か作らないと、私もう作り終わっちゃいますよ?」

「ううぅ……」



1つだけ頭に浮かんでいる料理がある。それは一時期私がハマりすぎて毎日のように作っていた料理

でも人によっては食べるのを()()()()()可能性もある……



「み、湊さん!」

「はい?」

「あ、明日はお仕事お休みですか?」

「え?あ、うん。休みですね」



それならまずは大丈夫。もう既に隣から美味しい香りがしている。私の1番得意な料理じゃないと勝ち目はない!



「その確認取るってことは、ニンニク関連ですかー?」

「そ、そうです」



湊さんは接客業に当たる美容師なので、明日のことにも配慮しないといけない。私がこれを毎日のように食べていたのは、家での仕事で他の人と接するタイミングが少ないからだった



冷蔵庫にあったニンニクを手に取って、皮を剥いて潰して細かく切った



「あれ。意外と手際がいい……勝手にあんまり料理しなさそうなイメージ持ってました」

「そ、その通りです。でもこれはたくさん作ってきたのでそれなりに出来るだけです」



1人暮らしを始めてから結構経つのに、まだこの体たらくぶり……お母さんが知ったら実家に連れ戻されそう……



「私出来たんで先机に並べておきますよー?」

「わ、私も急いで作ります!」



ちょっとゆっくり作って、初芽さんの料理をぬるくしたら美味しさが下がらないかな?……なんて少しでも考えてしまった私は性格が悪いなぁ



今までも料理の勉強をしようと思っては、いつのまにかやらなくなってが何回もあったけど、今回は本気で勉強しようって心から考えてる

……とかいってまた忘れそうだけど



何にしてもまずは美味しいって言ってもらえるように頑張ろう!



♢ ♢ ♢



「お、お待たせしました。ペペロンチーノです」

「おおー。美味しそうですね!」

「でもすごい匂いね……ニンニク相当入ってるんじゃない?」

「まあ……はい」

「部屋に匂いつきそうね」



一応キッチンの換気扇を回したままにしたけど、それでも部屋中にニンニクの匂いが散乱した

仕事に影響出ないならヨシと思ったけど、部屋の配慮までするの忘れてた……



「別に大丈夫ですよ。それに俺、ニンニクの独特な匂い好きなんで」



気遣いが心に染みる……



「私はクラムチャウダー作りました!アサリと野菜がたっぷり入ってます!」



匂い、見栄え共に完敗。食べる前から勝負が決してしまいそうなぐらい料理のクオリティーに差が見える



「こっちもすごい美味しそうだ!」

「まあ当然ですけどね!」



夏場とはいえ、疲れた身体に温かくて優しい味わいのクラムチャウダーは身体に染み渡ると思う

対してたっぷりとニンニクが入ったペペロンチーノは、お世辞にも身体に優しいとは言えない



料理の質どころか気遣いの面でも負けてる……なんか涙が出そう



「じゃあまず由布子さんの方から頂きます」



湊さんはフォークで綺麗にパスタを巻き取り、口に運んだ



「うん!味がしっかり効いてて美味しいよ!」

「お、お世辞は大丈夫です……」

「なんで?本当のことしか言ってませんよ?」



その言葉が本心だと証明するかのように、湊さんはそのまま食べ進めた

良かった……意外にも評価は悪くなくて



「初芽ちゃんのクラムチャウダーも相変わらず美味しいよ」

「当たり前です!」



私も初芽さんが作ってくれたクラムチャウダーを食べた



「……美味しい!優しい味わいで身体に染み渡ります!」

「そ、そうでしょう?ゆ、由布子さんのペペロンチーノも美味しいわよ。……すっごい匂いキツいけど」

「あっ!」



完全に頭から抜けていた。湊さんは休みで私は在宅ワークだから明日のことを考えなくていいと思って作っちゃったけど、初芽さんの明日の予定を知らない



「……大丈夫よ。私も休みだから」

「よ、良かった……」



本当に気遣いが足りないなぁ……私も初芽さんみたいに気配り上手な人になりたい……



♢ ♢ ♢



「ごちそうさまでした。2人とも美味しかったよ」

「ごちそうさまでした。……それで湊さん。どっちの方が美味しかったですか?」

「どっちも美味しかったからどっちも勝ちで」



湊さんの優しさ。温情の査定をいただいて何とか引き分けに持ち込めた



「……はぁ。まあ湊さんならそう言うだろうなとは思ってましたけどね」

「よし。2人は料理振る舞ってくれたし、後片付けは俺がーー」

「それも言うと思ってました。だけどダメです!食器は私と由布子さんで洗うんで、湊さんは大人しくテレビでも見てて下さい!」

「そ、そうです!」



湊さんは少しだけ不満そうな表情をしつつも、最後は「はぁ」と一息ついて「分かった」と返事を返してくれた



「あっ、み、湊さん。食後のコーヒーはいりますか?」

「ううん。今はいいかな」

「そ、そうですか……」



ちょっとでも気が効くアピールしたかったけど失敗に終わった



「由布子さん。食器運んでもらえる?」

「は、はい!」



私と初芽さんで食べ終えて空いた食器と、調味料類を直してスポンジで磨く



「意外と美味しかったよ。ペペロンチーノ」

「あ、ありがとうございます」

「何か他に作れるものとかあるの?」

「他……ですか?」



考えてもペペロンチーノ以外に出てこなかった



「作れないことはないんですけど、ひ、人に出すってなったら無いかもしれません」



水の威力がちょっと弱い……もう少しだけ強くしよう



「ふーん。それだと湊さんと結婚したら迷惑かかっちゃうね」

「け、結婚⁉︎」



ビシャァ!



「うわっ‼︎」

「ひゃっ‼︎」



初芽さんの言葉に動揺して蛇口を強く捻りすぎたせいで初芽さんと私はたくさんの水を被ってしまった



「冷たぁ」

「ご、ごごごごめんなさい‼︎私のせいで!」

「別にこれぐらい大丈夫よ」

「2人とも大丈夫か⁉︎」



私達の悲鳴に湊さんが駆けつけてくれた



「大丈夫です。ちょっと濡れただけですから」

「ご、ごめんなさい湊さん……私のせいで床が」

「そんなのは全然大丈夫だから、2人で風呂に入ってきな」

「お、お風呂にですか⁉︎こ、これぐらいなら大丈夫ですから!」

「ダメだよ。いくらまだ暖かくても冷水浴びたままじゃ風邪引いちゃうから」

「湊さんの言う通りですね。じゃあ由布子さん。私と一緒に入りましょう」

「ふえぇ⁉︎」



初芽さんにお風呂場まで腕を引っ張られた



まさかこんなことになるなんて……

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