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私の能力



「ごめんね由布子さん。悪いようにはしないからちょっとの間だけ()()()()()()()



私は由布子さんの身体に近づき、そして……身体の中へと入り込んだ



「はぅ⁉︎」

「……よし!上手くいってる‼︎」



床を踏む感触、椅子に座る感触。約7年ぶりに味わうこの感覚が懐かしいけど、今はそれどころじゃない



「着替え……たいけど絶対間に合わないし……やばっ!それより早くしないと()()がっ!」



よりによって全身ジャージ姿の由布子さん。オシャレな服に着替えたいが、そんな()()()()()()()()()



私は玄関にある中で目についた1番可愛い靴を履き、外へと飛び出し、湊の住む家のチャイムを鳴らした

そしてインターホン越しに湊の声が聞こえてきた



「……はい」

「あ、()さん?ごめんなさい。図々しいお願いがあるのですが、今日の晩御飯をそちらで頂いてもよろしいですか?」

「え?随分と急ですね。まあ別に構いませんが……」

「ありがとうございます!」

「少し待ってて下さい。今、開けますので」



湊はインターホンを切った



「ふぅ……ってわわわ‼︎」



私は誰かに引っ張り出されるかのように、由布子さんの身体から追い出された



「……んっ?あれ……え、え?な、なんで私外に出て……」

「お待たせしました。どうぞ」

「え……つ、月代さん⁉︎」



いつの間にか外に出ていたことに戸惑う由布子さん。

そして目の前には湊がいる。

状況の掴めない由布子さんは顔を手で覆いながらあたふたしていた



「……とりあえず入りますか?」

「あ、え、あ、う、……は、はい……お邪魔します……」



由布子さんは現状を理解出来ないまま、湊の家へと入った



「よしよし。あとは……」



私は由布子さんの家の鍵を、内側からガチャっと閉め、壁をすり抜けて湊の家に戻った



「まさか身体の乗っ取りですか?」

「すごいでしょ?便利でしょ?」



この能力が、多分1番有効的に使える物だと思う。

ただこれもさっきみたいに使い所を誤ると大変なことになる。注意しないとね



「でもこれも時間が30秒しか持たないんだよね。あともう一回この能力を使うには5分置かないといけないの。さっきと同じでね」

「インターバルがあるということですか。それでもないよりはマシになりましたね」

「うん。飛躍的にね」



今までは、指を噛んで見守ることしか出来なかったけど、これからは多少の援護?は出来るようになった。

出来ることは少なくても、絶対に湊には新しいお嫁さんを作ってもらう!



その一環としてまずは、由布子さんに犠せーーゴホンゴホン‼︎生贄になってもらおう!



「訂正してからの方が悪化してますよ」

「あれ⁉︎声に出てた⁉︎」

「声には出てませんが、顔に出てましたよ」

「すごっ……顔からそこまで読み取れるなんて人間やめてるでしょ?」

「やめてますよ」



そうだった。私達は人間やめて幽霊になったんだった



♢ ♢ ♢



「ごめんね。来るって分かってたら、もっと豪勢な物作ってたんだけど」

「お、お、おお気遣いなく!十分豪華ですから!」



湊と由布子さんは、対面になるように椅子に座っていた。湊が作った料理はカツ丼。十分に豪勢な料理だ



「麺つゆ持ってきたから、味が薄かったら入れて」

「は、は、はい。ありがとうございます」



我が元夫ながらこの気遣いの素晴らしさに感服する

私は湊のこの優しさに惚れたんだ

……イケメンだからってのもあるけどね



それよりも由布子さんのテンパり具合が気になる。元々引っ込み思案でおとなしい子に、いきなりこの状況に追い込んだことは申し訳なく思っている。



ただこれぐらいしないと湊は女の子と関わろうとしない。多少無理矢理にでも交流を持たせないと



「いただきます」

「い、いただきます……」



由比羽さんはカツを箸で切り、小さい口に運んだ



「……美味しい!」

「そう?薄くなかった?」

「い、いえ!丁度良い味で、すごく美味しいです!」

「そっか。なら良かったよ」



お腹を空かしていたのか、箸を止めることなく小さな口でカツ丼を食べる由布子さん



今は夜の9時だが、由布子さんは夜ご飯を食べていなかったことは確認済みだった。というより、習慣的に由布子さんは、夜の10時頃にお惣菜かカップラーメンを食べるという生活をしていることは知っていた



元夫の1番の嫁候補の人だから、それぐらいはちゃんと確認済みだ。

あとついでに健康状況の改善も望んでいる



「2人ともあまり会話してませんね。気まずいのかな?」

「……いいんだよ。これで」



確かに2人の間に会話は少なかったが、いい雰囲気なのは感じ取れた。2人の空気感は、これぐらいが丁度いいのかもしれない



♢ ♢ ♢



「ごちそうさまでした。美味しかったです……!」

「口に合って良かったよ」



湊は由布子さんの分の食器も重ね、キッチンのシンクに運んだ



「あ、洗い物は私がやります。ご馳走になったお礼です」

「え……お客さんにそんなことさせられないよ」

「だ、ダメです!月代さんはリビングでテレビでも見て休んでいて下さい!」

「……じゃあお言葉に甘えて。あ、洗い終わったらそこのラックの上に置いてもらえますか?」

「こ、ここですね……分かりました」



2人のやり取りを見て、ニヤケが止まらない



「何ニヤケてるんですか」

「えー?だって今の会話夫婦っぽくなかった?」

「由布子さん敬語でしたけどね」

「そうなんだよねぇ。それを除けば夫婦だったのにー」



まだまだ先は長そうだが、暗雲立ち込めてた状況にいきなり光が差し込んだ気分だ



♢ ♢ ♢



「きょ、今日は本当にありがとうございました」

「うん。またいつでも食べに来ていいからね」

「い、いつでも⁉︎」



由布子さんは動揺してるけど、湊は意識して言ってないんだろうなぁ……



由布子さんを玄関前に出て見送る湊。隣に住んでるというのに律儀なことだ。まあそれが湊の良いところなのだが



「そ、そそそれではま、また!」

「うん」



由布子は自分の部屋の玄関に手を掛けて引っ張った。だが鍵が掛かっていて開かない。ポケットを弄るが、当然入っていない



「あ、あれ?」



そう。まだ私の作戦はまだ終わっていない。以前までの私なら、ご飯を一緒に食べただけで満足していただろうけど今は違う!この能力をフルに活用して、1分1秒1コンマでも多く湊と共に過ごしてもらう



「……鍵無くしたの?」

「そ、そうみたいです……」



必死に探す由布子。まあ私が内側から鍵を掛けたし、家に居る時に身体に鍵なんて常駐させているわけがない

よって、由布子さんは追い出された形になるのだ



「うーん……管理人さんはこの時間もう寝てるだろうし……」



このマンションはそれなりにいいマンションで、管理人もちゃんと存在するし、エレベーターもある。ただ、管理人はお年を召した方で、もう既にグッスリと眠っている時間帯だ



「……今日はネカフェにでも泊まります」

「お金はあるんですか?」

「あ……」



無一文どころか携帯も持たずに出てきた為、ネカフェに泊まるどころか、今から知り合いの家に行ってお邪魔するということも難しいだろう



そしてこの状況で湊が由布子さんを放っておくはずもない



「良かったら今日はウチに泊まっていってください」



私の望んだ言葉が湊の口から聞くことが出来た



「そ、そんな大丈夫です!ただでさえご飯を頂いたのに、その上寝泊まりなんて……」

「構いませんよ。空き部屋もありますし、お客さん用の布団もあるんで」

「い、いいんですか?本当に……」

「ええ。問題ないです」

「じゃ、じゃあお言葉に甘えさせてもらいます……」



由布子さんは、顔を真っ赤にしながら、湊の家へと戻った



「よし!よくやった湊!客用の布団じゃなくて、自分のベッドで寝かせれば尚goodだったけど!」

「何がgoodですか。人の家の鍵勝手に掛けて閉め出すだなんて、人間の所業じゃないですよ?」

「だって人間じゃないもん」

「あ、そうだった……人間やめたんだった……」



非道なのは分かってるけど、これぐらい強引にいかないとね



「身体の乗っ取りのインターバルも解除されたしー。触ることも出来るしー。どうやって進展させよっかな!」

「え……まだ由布子さんに迷惑かけるんですか?」

「だってだって‼︎こんなチャンスはないと思わない?由布子さんは積極的にいくタイプじゃないじゃん?オドオドしてて遠慮がちなタイプじゃん?まあそれが由布子さんの可愛い所なんだけどさ!」



猶予も短くなってしまったし、行動は早ければ早いほどいい

どれだけ迷惑かけようが関係ない!どうせバレやしないし!



「身体を乗っ取って、湊を押し倒しちゃおうかなぁ?それとも物を触れる能力使って、由布子さんの背中を押して、湊の方に倒れかかるっていうラッキースケベ的展開にしようかな?」



私の中で妄想が広がる。こんな便利な能力貰えて、ナトちゃんには感謝しかなーー



「ぐっ‼︎あ、あれ⁉︎か、身体が……」



手足が全く動かないどころか、その場から動くことすら叶わない。今までこんな感覚になったことなんてなかった



「な、なんで身体動かないの⁉︎今から良い所なのに‼︎」

「おお。本当に止まってるよ」



身体を動かせない私を、樹里は舐め回すように見てきた



「助けて樹里‼︎何でかわかんないけど身動きが取れないの!」

「ああー。そういえばさっき李華さんが由布子さんの部屋に行ってる最中にタナトス様がここにいらしたんですよ」

「ナトちゃんが⁉︎なんで⁉︎」

「「李華はバカだから暴走列車状態になるかもしれないから、樹里に李華を押さえ付けるための能力を付与しておく」って、この能力をくれましたよ」

「バカとか酷くない⁉︎てか、誰がトー○スだ‼︎」

「いや……トー○スは暴走列車じゃないですからね?怒られますよ。多方面から」



本当に余計なことをしてくれた……感謝の言葉は撤回。今度会った時に、酢を飲んだら身体が柔らかくなるっていう迷信を教えて飲ませてやる‼︎



「で、でもこの能力ずっと使えるわけないでしょ?私の能力に制限があるように、樹里の能力にも制限があるはず!」

「確かにありますよ。私の意思でしか解除出来ない所とか」

「え?その言い方だと、樹里ちゃんに解除されない限りずっと効果あるみたいな……」

「あります」

「……ずるくない?」



私なんて30秒しか出来ないのに?あまりに理不尽だ



「あとは、解除してからのインターバルが5秒ぐらい擁するとか?」

「短っ!ほぼ制限ないみたいなものじゃん‼︎」

「まあとりあえず、今日はもう能力の悪用はさせません。さすがに由布子さんが可哀想すぎです」

「ヤダヤダヤダ!解除してよ!」

「ダメです」



身体の前で×マークを作る樹里。ちょっと可愛いのが腹立つな



「というかこの体勢で身動き取れないと、私スカートだから下からパンツ見えちゃう!

「どうせ見えませんし、見られても元夫さんなんだから問題ないでしょう?」

「くそー‼︎これじゃ以前とほとんど変わらないじゃんかー‼︎」



今私の願いを叶えるにあたって、1番邪魔な存在は樹里かもしれない……

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