22ヶ月
「なんじゃ。正体バラしよったのか」
赤髪の神様。リビティーナからプリンと新作スイーツを預かった私は、ナトちゃんの元へとやってきた
樹里はリビティーナの作った異臭の原因を2人がかりで処理するために、現世に残っている
そしてナトちゃんは目の前で、美味しそうなプリンを、美味しそうに頬張っていた
ただ、普通のプリンとは違い、少し薄い赤色のプリンだった
「うむ!相も変わらず絶品じゃわ!さすがはリーナといったところじゃな」
「リーナ?」
「奴のあだ名じゃ。リビティーナじゃと長いからの」
「なるほど」
神様同士でもあだ名付けたりするんだ……
「お主も食うか?美味いぞ」
「え、いいの⁉︎いただきます!」
霊体になっても、食事を摂ることが出来る私。味と食感を感じることが出来るだけで、その食べ物は無くならない。プリンに目がないナトちゃんが、私にお裾分けしてくれたのには、そういった理由があった
「美味しい!でも赤いからイチゴの味がすると思ったけど、そんなことなかったなぁ。意外と渋みがあるというか」
「何を言っておるんじゃ。これは人の血じゃ」
「ぶーっ⁉︎」
私は口の中に入ったプリンを勢いよく噴射させた
「汚いのぉ‼︎何しとるんじゃ‼︎」
「ひ、人の血なんか入った食べ物を元人間の私に食べさせるな‼︎」
「生き血ではない。死んだ者の血じゃから問題なかろう」
「あるわ‼︎まだ生き血の方がマシだったわ‼︎」
人の血入りのプリンが美味しいと思ってしまった……人として失格かもしれない
あ……人辞めてるから大丈夫か
「うるさいのぉ。……それより進展はあったのか?例の愛しの旦那様の」
「なくはないよ。新規で出会いがあったわけじゃないけど、全体的に湊から相手への好感度は上がった……はず」
顔に出ないし、態度に出ない。私の勘違いかもしれないし、実は私の考えより好感度が上がってるかもしれない
「そんな調子で大丈夫なのか?あと21ヶ月しかないぞ?」
能力を頂いた日。つまり私の幽霊としてのリミットが定まった日
あれから3ヶ月が経ってしまった
「まあちょっとずつ前進してるから大丈夫……大丈夫……?うん。多分大丈夫」
「不安しかないのぉ」
事実私も不安である。お付き合いだけじゃなくて、ちゃんと結婚するところまで見届けたいから、少なくとも1年は猶予を残して誰かとお付き合いしてくれないと私の願いは届かなくなる
「……にしてもやっぱり光はいらなかったのではないか?お前達には役立つだろうが、生者には意味を成さんのじゃから」
「うん……てか眩しすぎて私達にも役立たないんだよね」
「光の強さを調整すればいいじゃろ」
「え⁉︎調整出来るの⁉︎」
「出来るぞ。光っている指の第二関節部分を押してみろ」
私は光る右手の人差し指の第二関節を押した
「うわっ!本当だ!」
「なっ?出来るじゃろ?」
「……それでも使わないなぁ。それになんか改造人間みたいになってなんか嫌だ」
「人間じゃないじゃろ」
「あ……改造幽霊みたいで嫌だ」
どちらにしても、湊に影響のないものを貰ってしまった。本当に勿体ないことをした
「儂から能力はもう授けられんが、リーナなら付与してくれるやもしれないぞ?」
「え?リビティーナさんが?」
「そうじゃ。まあリーナは恩を受けた者以外にそういったことはせぬ。しかもハードルが結構高い恩だけの。だから難しいとは思うが」
「よし!今から行ってくるよ!」
私は天界から人間界へと下った
「お、おい!恩がないと受けてくれないぞ⁉︎」
「それがあるのー!命を救ったっていう大きい恩がさー‼︎」
私はナトちゃんに手を振って、天界を後にした
「神の命を救ったってどういう状況じゃ……」
♢ ♢ ♢
「リビティーナさん!貸しの分の返し貰いに来ましたーーって……あれ?」
リビティーナの店に着いた私。だが、物音一つなかった
これは、最初にリビティーナさんの店に来たときと同じ雰囲気だ
「……まさか」
私は例の部屋へと急いで向かった
「リビティーナさん!樹里!」
相変わらずの臭さ。こんな臭いを店の外に出せば確実に評判が落ちて、このお店は閉店に追い込まれる。そんなレベルで臭かった
「臭っ⁉︎なんかさっきよりさらに臭くなってるような……」
私はここで、奥に突っ伏す2人の姿を見つけた
「ま、また奥で倒れて……ってか樹里までこの状況は……」
さっきは樹里に手伝ってもらったおかげで部屋から出すことが出来たが、今回は樹里も伸びてしまっている
「とりあえず樹里を外に出さなきゃ」
樹里を外に出すのは簡単だ。幽霊だから軽いし、何より壁を貫通する。1番近くの壁から、樹里を放り出せばいいだけだ
問題はリビティーナだ。今回はもう身体をズリズリと這わせながらでも引きずるしか方法はない
「……いや待てよ?もしかしたら使えるかもしれない」
私はとある方法を思い付き、実行することにした
これでダメなら引きずって外に出すしかない
「……よし!行くぞ!」
私は息を止め、リビティーナの元へと向かい、そして目の前で私の能力の一つである、指先から光を出した
「んっ……ま、眩しっ……」
「リビティーナさん息止めて!そしてこの部屋から抜け出して!」
リビティーナは現状を理解し、勢いよく部屋から飛び出した
「……また助けられたわね」
眩しさで目を覚まさせることが出来た。使い所は今までで1番良かった
「臭いが増してましたけど……何したんですか?」
「消しきれないから、臭いを変えてしまえばいいと思って……いい匂いのミントを大量に入れたんだけど、鼻にスーッと抜ける激臭が出来ちゃって死にかけたんだよね」
そりゃ殺傷能力が増す訳だ……
「そういえば樹里はどうした?」
「あ、外に放り出したままだ」
私は異臭の放つ部屋を迂回して、樹里を拾い、そして同じように光で目を覚まさせた
「はっ!ここはどこ?」
「起きたねー樹里」
「李華さんの姿が見える……そうか……私は死んじゃったんだ……」
「とっくの前に死んでるよー。というか、生前の私達は面識ないでしょうが」
「……そうでした」
異臭の影響で、樹里の頭も少しおかしくなっているみたいだ
外に放り出した樹里を迎え、リビティーナの元に戻った私達
そして私はリビティーナさんに用件を伝えた
「なるほど……能力ですか」
「お願い出来ませんか?」
「うーん……気が進みませんが恩が恩なので仕方ありませんね。ただし1個だけですよ?」
徳を積んでおけば自分に返ってくるというが、まさにその言葉通りだ
「何つけるか決めてるの?」
「ふふん。実はもう考えてあります!」
私はリビティーナさんに、新たな能力をお願いした
♢ ♢ ♢
「本当にアレで良かったんですか?」
外に太陽の光が差し始め、私達はリビティーナさんのお店を後にして帰路についていた
「アレって?」
「貰った能力ですよ」
「あー。私は良いと思ったんだよね。まあしばらくは使い道ないけど」
「もうちょっと有益なものにした方が良かったんじゃ……」
「あんまり深く干渉しすぎておかしく思われても困るし。これぐらいでいいんだよ」
まあ湊に声を聞かせたり誰かの身体を乗っ取って、私は李華だと言わない限りは何をしようが私の存在を気が付かれることはないんだろうけど
「本当は対初芽用に何か欲しかったんだけどなぁ」
「あ、この前また新しく仕入れたって言ってましたよ」
「はい⁉︎」
初芽は完全に私のアンチと化したようだ




