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私達の存在



今日もまた()()()の1人や2人を持ち帰らずに帰ってきた我が夫。

いや……正しく言うならば元夫。このすれ違った女子全員が振り向いてしまうほどのイケメンである私の元夫、月代 湊は私が死んでから約7年間。1度たりとも女の子を連れ帰って来たことはない



ホテルでやることやってるのかなぁ?って思ってたけど、仕事の飲み会や買い物以外は仕事場から家まで直帰。女の影すら見えなかった



「また普通に帰って来たよこの人は……」



帰宅してそのままお風呂に入っていった湊。

私はリビングの机に頬っぺたを当てて、ぐだーっとする。幽霊なので触れてないんだけどね



「本当に女の子の影もないですね」



幽霊である私と会話が成立するこの女性。生前の名前は朝比奈(あさひな)樹里(じゅり)。この人も……もう人じゃないか。私と同じで幽霊である

生前に面識はなく、同じ幽霊同士だからと仲良くなった友達だ



「……約束。果たす気あるのかな……」



私と夫の生前に交わしたとある約束



それは「私が死んだら……ちゃんと次の可愛いお嫁さんを貰うこと」。



私が死んだのは22歳の頃。湊は私と同い年だから、湊も22歳だ

そんな人生まだまだこれからっていうのに、死んじゃう私に縛られて欲しくないからと、私は渋る湊を相手に強引に約束を取り付けたのだ



だが、さっきも言った通り7年経っても彼女どころか女の気配すら全くない。

私が生きてたら、ストレスで肺が爆散していたかもしれない



もう少しで湊も三十路になる。なんとかならないものか……



「やっぱりまだ李華さんのことが忘れられないとか?」

「……やっぱり私が足枷になってるのかな?」



顔はイケメンだし、声はカッコいいし、性格は優しいしで超優良物件の湊

逆ナンされるところも何回も見てるし、出会いがないわけないから、やはり私の存在が湊の邪魔になっているのは間違いない



「……こんなことになるなら結婚しなきゃ良かったなぁ」

「李華さん……」



私もこんなに早く人生リタイアすることになるって知ってたら結婚なんてしてなかった

夫には本当に申し訳ない気持ちでいっぱいだ



「元気出してくださいよ‼︎まだまだ時間はあるじゃないですか!」

「……それがね。この前ナトちゃんに言われたの」

「な、ナトちゃん?」

「タナトスちゃんのこと」

「あ、あなた‼︎()()のことあだ名で呼んでるんですか⁉︎」



衝撃のあまり、私のことをあなた呼びする樹里。

まあ驚かれても仕方ない



タナトスはこの世界の死を司る神様。私はタナトスに無理を言って幽霊をさせてもらっているのだ

理由は至って簡単。湊が私の約束を果たすまで成仏出来ない(したくない)からだ



「幽霊始めて7年目だけど、ナトちゃんに言われたんだよね。7年も幽霊として存在したのはお前が初めてだ‼︎って」

「まあそうでしょうね」

「それでね?悪霊とかの存在と違って、前世の記憶を持ったままの幽霊ってナトちゃん自身の力を消費して、存在を維持するらしいの」

「なんか急にファンタジーみたいな話になりますね……てことは7年間ずっとタナトス様は李華さんに力の一部を割いてるってことですか?」

「うん。で、力を使い過ぎだー‼︎って怒られちゃって……期限があと2年近くにされちゃったんだよねぇ」

「まだ追加で2年待ってくれるんだ……優しい神様だなぁ……」



ちなみにだが樹里も前世の記憶を持って幽霊をしてるので、タナトスちゃんの力の一部を貰ってる。ただ、まだ幽霊になって半年ぐらいだから何も言われていない。



タナトスちゃん曰く、樹里と私と同じようにまだ成仏したくないと頼み込んでこの世界に留まっているらしい。

だけどその理由は頑なに話してくれない。あまり知られたくないみたいなので、一度聞いたきり私もその話題には触れなかった



「でもあと2年ですか……長いようで短いですね」

「すごーく短い。だからね?私ちょっと無茶言ってきた」

「無茶?」

「うん!このまま見てるだけじゃ埒が開かないことはこの7年間で証明されたし、多分約束が果たされないまま私は成仏しちゃうことになると思って」

「確かにその可能性は高いですね」

「でしょ?だから、ナトちゃんから4つ能力貰ってきちゃいました!」

「の、能力⁉︎」



異世界ファンタジーか⁉︎と思われるかもしれないが、そんな大層なものじゃなく、ちょっと出来ることが多くなった幽霊程度の能力だ



「そんなの貰ったらまたタナトス様の力を消費するんじゃ……」

「だから代わりに幽霊の期間が減ったの。私が何もせずに長々と見てるだけより、時間が少なくても私が多少の援護をする方が進展がある気がしてね」



実際、7年間何の変化もなかったのだから大博打だとは私自身は思っていない



「そう聞くと確かに一理ある気がしますね」

「そうでしょ?」

「でも能力って一体何を貰ったんですか?」

「百聞は一見にしかず。聞くより見る方が早いってね」



私は貰った能力の一部を樹里に紹介することにした



「まずはこれ‼︎よーく見てて!」



ちょうどいい所に置いてあったティッシュ箱を持ち上げた



「おおー!すごー!」

「この能力使ってる間は30秒間この世の物に触れるようになったの!制限時間が過ぎると勝手に透けちゃうけどね」

「それでも便利ー!」

「でしょー!」



持ち上げたティッシュ箱をブンブンと振り回した



「ほらっ!こんなに激しく動かしても問題なし!」

「おおー!もっとスピード上げてー!」

「うおおお!」



手をブンブンと振り回す。ティッシュ箱はものすごい速さで回っている



すぽっ



「……あ」



持てる制限時間が過ぎてしまったせいで、手からティッシュ箱が放り出されティッシュ箱は宙へと浮いた

その瞬間……風呂から上がってきた湊が宙へと浮かんだティッシュを目撃してしまった……



ガコッ……



「……今、ティッシュ箱が空飛んでなかったか?」



床に落ちたティッシュ箱を拾い、不思議そうな表情で見つめる湊



「どどどどうするんですか⁉︎完全に見られちゃいましたよ‼︎」

「あああ慌てないで‼︎大丈夫!私達の姿は見えてないから!」

「それが問題なんでしょ⁉︎」



まさか披露して早々、こんなピンチに陥るだなんて思いもよらなかった



「……まあいいか」



湊はティッシュ箱をテーブルに置いて、冷蔵庫の飲み物をコップに注いだ



「……大丈夫だったでしょ?」

「私は湊さんが大丈夫じゃないと思います」



元妻の私でも心配になった。見事にティッシュ箱が空へと放たれた瞬間を見たというのに、「まあいいか」で済ませる湊。

普通なら「幽霊だ!」「事故物件だ!」って騒いでもおかしくないのに……

抜けてる……で済ませてはいけない領域だ。これは



「ちゃんと使い所には気をつけて下さいね!」

「樹里が乗せるからああなっちゃったんじゃん……」

「ぐっ……と、とにかくこの能力は慎重に使って下さい!」

「はーい」



樹里はまるで私のお母さんだ



説教されている私の横で、湊は自炊を始めた。

私が死ぬ前は、包丁も握ったことさえなかったのに、今ではプロ顔負けの手つきで淡々とこなしていく



「それで?他の能力はなんです?」

「……」

「こらっ!湊さんの料理が美味しそうなのは分かるけど、今は私の質問に答えて!」

「ああっ、はいはい」



あまりに美味しそうなので目を奪われてしまった。



「とりあえずあと3つあるんだけど」

「今使っても問題ない能力を教えて下さいよ」

「うーん……あるけど……()()()がないなぁ」

「実験台?」

「うん……あ、そうだ‼︎」



私は良いことを思いついた!湊は今料理を作ってるしタイミングとしては最高かもしれない!



「樹里。ちょっと待っててね!」



私は壁をすり抜けて、隣の部屋に移動した

幽霊だから、壁をすり抜けられるのは当然。これは能力じゃなくてデフォルトだ



「この時間帯だと絶対に家にいるはず……いたいた!」



私は隣の部屋に勝手にお邪魔した。

幽霊だから不法侵入にはならない……はず



そして部屋には、長い黒髪の女性がパソコンで作業をしていた。

彼女の名前は東雲(しののめ) 由布子(ゆうこ)。実はこの由布子さんは、私的に湊に相応しい女性No.1だと思っている。

理由?理由は可愛くて良い子だからだ。それ以外はない



前髪も目にかかっていて、いかにも暗い雰囲気の彼女だがとにかく胸が大きい。

髪を上げた姿を一度見たことがあり、かなり可愛い!私と同等ぐらいの可愛さをしている。胸も大きい

そしてなによりも胸が大きい。私は湊にこの女性と結婚してほしいと思ってる



そんな由布子さん相手に、私は今から貰った力の1つを使うことにした



「ごめんね由布子さん。悪いようにはしないからちょっとの間だけ……」



()()()()()()()

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