邪魔者
「み、湊さん?その女は……?」
仏壇に置かれてた写真の人と同じ……たまに私に話しかけてくる声と同じ
この人は湊さんのお嫁さんの李華さん……だよね?
「……あ、もしかして姉のこと知ってる人?」
「……え?」
「その遺影の人がここにいることに驚いてるみたいだったから」
「よ、よく分かりますね」
「何回かあったからね。同じことが。まあ私はその人の妹だよ」
妹!なら確かに説明がつく。双子でそっくりな人とかたくさんいるし、亡くなった李華さんが化けて出てきたのかと思った……
「だからドッペルゲンガーだとか、幽霊だとか、そんなオカルトな話じゃないから安心して」
幽霊は存在するんだよね……しかもお姉さんがそうだし
「いらっしゃい」
「湊さん!この女は誰ですか⁉︎」
「ああ……お隣に住んでる東雲由布子さんだよ」
「こここ、こんばんは……」
怒ってる……ってことは多分この人も湊さんが好きってことだよね?
「あっ、どうもこんばんは。月代初芽です。……じゃなくて⁉︎なんでお隣さんに膝枕されてるのか聞いてるんです‼︎」
月代……月代って湊さんの苗字だよね?
湊さんが李華さんの婿養子に入ったまま……だから苗字が一緒?
また色んな情報が入りすぎて頭がパンクしそう……
「……耳掃除してもらってたから」
「それなら私がやります‼︎私超上手いですから!」
「え……いや不安だよ」
「なんでですか⁉︎」
「君のお姉さんは耳掃除超下手だったから。耳の中から血まみれの耳垢出てきたりしたし」
「私をあんなポンコツと一緒にしないでください‼︎」
李華さんは妹さんから嫌われてるのかな?
「……はぁ。まあいいです。とにかくケーキを持ってきたので、食べませんか?」
「食べたいところだけど、由布子さんを差し置いて食べるのはちょっとね」
「そんなっ……!私のことは気にしなくていいですから!」
そんなこと気にする必要なんてないのに。私の好感度をどれだけ上げるんだろう?そろそろ上限値を突破しそう
「……種類を選んで貰うために何個か持ってきてるので、あげますよ」
「わ、私まで頂くわけには……」
「勘違いしないで下さい。あなたが食べないと湊さんも食べないみたいですから。湊さんに食べてもらうためにあなたにもお渡しするんです」
「じゃ、じゃあお、お言葉に甘えて……」
す、すごい!実際にツンデレ見たの初めて!綺麗な人がするとやっぱり破壊力がある!この人、新キャラのモチーフにしたくなる……
「ショートケーキにチョコレートケーキ。チーズケーキにモンブラン。元々お裾分けする前提で買ってきたみたいなんで、種類はたくさんあるので、どれ取っても良いですよ」
「これって……駅前にあるお店の?」
「そうです。ちょっと不気味な雰囲気の店ですが、味は保証しますよ」
外観は普通だけど、なぜか異様なオーラを放っていて、ちょっと気になっていたお店だ
「……」
「早く選んでもらえる?」
「ふぇ⁉︎わ、私からですか⁉︎」
「そうよ。早くして」
「み、湊さんはどれを取りますか?」
「ん?先選んでいいよ」
「そ、それは出来ませんよ⁉︎湊さん用に持ってきてくださった物なんですから、私が先に選ぶわけには……」
「どれも好きだから決めかねてるんだよ。だから選択肢減らしてくれた方が助かるんだよなぁ」
またこうやって私が断りにくい優しいウソをついてくる。
本当にズルいひとだなぁ
「……チィッ」
……私の聞き間違いじゃなかったら今、小さく舌打ちされた。私が湊さんに優しくされたことに気が立ってるんだ
「な、なら私はモンブランいただきます」
「初芽ちゃんはどれがいい?」
「あ……ショートケーキで」
「じゃあ俺はチョコを貰おうかな」
3人の手に、それぞれ選んだケーキが渡った
「「「いただきます」」」
私のも含めて通常のサイズより結構大きくボリュームがある……見た目も綺麗ですごく美味しそう
「……美味しいです!」
「そう。良かったわね。湊さんはどうですか?」
「うん。すごく美味いよ」
「そう言ってもらえると持ってきた甲斐がありました‼︎」
露骨に態度が違う……でも仕方ないよね。初対面の人だし、好きな相手の家にいるんだもんね
♢ ♢ ♢
「邪魔だなぁ……」
我が妹の強襲。まさかこの超いいタイミングで来るとは……
「いい雰囲気でしたからね」
「処すか……」
「妹相手に何言ってるんですか?というか多分処されるの李華さんの方ですよ?」
残念ながら否定出来ない事実なんだなこれが。相手が普通の人間なら、私が負けることなんてあり得ない話だけど
なぜか私の姿がくっきり見えて、右手に付けている128万7200円もするブレスレットのせいで私に触れる……ん?
「あのさあのさ」
「なんですか?」
「この前までブレスレットと柄が違うよね?」
「さあ?そこまで覚えてませんが」
この前見たブレスレットは、茶色で数珠みたいな見た目をしていたけど、今しているのはピンク色のチェーンのブレスレット
前のよりオシャレの為にしているだけのようにも見える
「……一個128万7200円もするようなブレスレットを何個も買えるわけない。ということはアレはただオシャレしてきたもの‼︎今日初芽に私を翻弄する術はないということ‼︎」
ウチは富豪でも何でもないし、真織も働きに出ているとはいえそんな高額出費をポンポンと出来るはずもない
「きたぞぉ……とうとう初芽に今までの仕打ちをやり返す時が‼︎」
「空回りしないといいですね」
さてさてどうしてやろうか……まずは軽く頭でも叩いてやろうか……それともくすぐってみっともない姿を湊に見させるか……
いや、それなら身体を乗っ取って恥ずかしいことをしてやればいい。例えば……口を大きく開けて欠伸をするところとか、コマネチとか。
あ、コマネチいい!コマネチにしよう!
早速仕返しの方法が思いついた。これが終わったら2人の時間を邪魔させないように何か作戦を考えよう。インターバルの5分のうちにね
「見てて樹里!初芽のはしたない姿を‼︎」
「……どうなっても知りませんよ?」
私は早速初芽に向かって突っ込んだ
背中を向けている初芽。止める術はない!さあ恥ずかしい姿を湊に晒すがいーー
「ぎゃぁぁぁぁぁーーー‼︎」
初芽の身体に触れる直前、この幽体に電流が流れた。それもとてつもない威力の電撃。人ならあっさり感電死してしまいそうなほどだ
「な、なにこれ……電撃?私の頭ボンバーヘッドになってない?」
「なってないですよー」
良かった。これからボンバーヘッドで生きていかないといけないかと思った……あ、死んでたわ
「李華さん」
「なによ」
「そういえば思い出したんですけど、最近ブレスレットの効果が全身に渡るようにするブレスレットを買ったって言ってましたね。221万4360円で」
「に、221万4360円っ⁉︎私を相手する為だけに221万4360円も散財したの⁉︎そんな……221万4360円もあれば、それなりの新車を買えるのに……それなのにブレスレットに221万4360円も……って221万4360円221万4360円ってうるさい‼︎」
「私は一回しか言ってませんけどね。李華さんの6分の1しか言ってませんけどね。てか、前もこんなこと言ってましたよね?」
前回よりも更に高額出費。金遣いが荒すぎてお姉ちゃん心配だよ
「……というか知ってて黙ってたよね?」
「そうですよ?」
「せめてしらばっくれてよ!」
やっぱり樹里は私をナメてると思う
「……また厄介な物買いよってー」
もう幽霊相手には無敵と言わざるを得ない。1番邪魔な存在なのに1番邪魔出来ないのが悔しすぎる
「……それで本題なんだけど、なんでお隣さんがこんな時間に、しかも耳掃除までしてもらっている……これはどういうことですか?」
いつもの声より少し低いトーンで圧をかける初芽
「えっと……」
「湊さん。私から説明します」
♢ ♢ ♢
由布子さんは一連の流れを初芽に話した
「ふーん……納得出来ない理由ですけど、実際そうならその編集担当者には叱らないといけませんね」
かなり強引な案だったし、初芽が怒るのもわからなくはない
私からすればシェイシェイ(中国語で「ありがとう」という意味)案件だが
「ということは今日も泊まって帰るんですよね?」
「そ、そうですね」
「……わかりました。では、私も泊まっていきます」
「えっ⁉︎」
「……なんですか湊さん。まさかお隣さんは泊めて、私は泊められないなんてこと言いませんよね?」
初芽はよほど2人きりにさせるのが嫌なのだろう
分かる……分かるよ……こんな可愛い子と2人きりで夜を明かすんだから、何も起きないわけないよね
……そう思いたいけど、何も起きないんだよなぁ
昔は肉食系だったのに……
「いいけど……明日仕事だったよね?」
「対して距離は変わりませんし、どちらにしてもここからなら、一度家の前を通るのでその時に荷物は回収します」
少しだけウソをつく初芽。対して距離は変わらないが、家の前は通らない。なんなら会社は湊の家の方面なので、ここからの方が少し近い
「……分かった。じゃあ初芽ちゃんは李華の部屋にーー」
「いえ。私は……お隣さんと一緒に寝ます」
「え、え、え?わ、私とですか⁉︎」
おそらく初芽は、由布子さんを潰そうとしている
湊に集る虫だと……そう認識しているに違いない
……これは私が由布子さんを守らないといけないな




