初邂逅
湊さんが淹れてくれたコーヒーを頂き、書斎に戻った私。
さっきの声の人の言う通りなら、声が聞こえてくるはずだけど……
「ゆーうーこーさん‼︎」
「ひぃやあああああ‼︎」
突然の出来事に思わず大声を上げてしまった
「ど、どうしました⁉︎」
またしても湊さんがわざわざ心配しにきてくれた
「窓に虫が引っ付いててビックリしてしまったって言いなさい」
「へっ⁉︎あ、ま、窓に虫がくっついてたんです……それに驚いてしまって……」
「ああなるほど……確かにそれはびっくりしますね」
「ご迷惑をおかけしました……」
「いえいえ。またなんかあったら呼んでください」
「あ、ありがとうございます……」
今日は何から何までお世話かけっぱなしだなぁ。絶対湊さんの中で私の評価下がってるよ……
というか肩触られたよね?本当に幽霊なのかな……透明人間説もある気がしてきた
「はぁ……」
「よく出来ましたー。あ、時間ないからまた5分後に話しかけるね!その間、お仕事ファイトー‼︎」
「ふぇ?ちょ、時間ないってどういうことですか⁉︎」
また返答がなくなった
「……考える事多すぎて頭痛くなってきた」
いろんな事が起こりすぎて、作品の続きが全く浮かび上がらない
信じたくないけど多分幽霊という非科学的な存在が私に話しかけてきているんだ
私はこういうオカルト系の話は信じない人だったけど、信じざるを得なくなっちゃった
「……ゆっくり待とう」
私は一旦、布団に入って休憩を取ることにした
♢ ♢ ♢
「由布子さーん」
「……はい」
携帯で時間を確認していたけど、本当に5分ぐらいでまた声が聞こえてきた
「時間を置くのって何か理由があるんですか?」
「うん。30秒話すごとに5分空けないといけないから、この後また5分待ってもらうことになるかな」
「……そうなんですね。なら早めに会話しないといけませんね」
「そだねー。不便だけどこればっかりはねー」
「な、なら端的にお聞きしたいんですけど……あなたは何者ですか?」
聞きたいことは山ほどあるけど、まずはこれだけは絶対に知っておきたい
「言わなくてもわかってるんでしょ?」
「……確証がないので聞いてます」
「そうですか。まあ多分予想通りだと思いますが……私は湊の元妻の月代 李華です」
「やっぱりそうでしたか」
タイミングがタイミングだったから私の予想通りだった
「はい。やっぱりそうでした。急に現れてすいませんね」
「いえ……それは別にいいんですが、わざわざ私に声をかけたってことは……何か用があるんですか?」
「すっごーく大事な用事があります。よく聞いてくださいね?」
「は、はい」
「……と思ったんですが、時間がないのでまた5分後で」
「えっ?あ、はい……」
……さすがにちょっと頭の整理がついたし、ちょっとは書き進めておこう
♢ ♢ ♢
「さて、さっきの続きを話しますね」
「ひょわっ⁉︎は、はい!」
時間を見てなかった……悪気はないんだろうけど毎回唐突に声が聞こえてくるから心臓に悪い……
「……どこまで話しましたっけ?」
「えっと、大事な話があるってところです……」
「あー!そうだった!そうだった!じゃあ率直に言うね?」
私の肩に手が置かれた感触がした
「湊と結婚して、幸せにしてあげてほしいんです」
それは耳を疑う言葉だった。だって私はさっき、由布子さんに謝るつもりだったから
(由布子さんの旦那さんを好きになってしまってごめんなさい。……でも諦めたくないので湊さんにアピールすることを許してください……)って。そういう話を一方的につけるつもりだった
「湊さんを幸せに……なぜ私にそれを言うんですか?」
「ん?だって私が見るに湊を幸せに出来るのは由布子さんかなって。あと由布子さん……湊のこと好きでしょ?」
「す、好きですけど⁉︎」
「おー。意外とあっさり認めるんだ」
「……でもそもそも湊さんは、私のことをただのお隣さんだと思ってるでしょうし、そんなお願いされるほどのことは出来ません」
ただ隣人として5年過ごしただけ。女として意識されていないと思う
「李華さん……?あ、時間切れ……」
返事がないってことは多分30秒過ぎたんだ
……30秒って結構短いんだなぁ
♢ ♢ ♢
「お待たせー。じゃあ話の続きね」
「はい」
今回はちゃんと時間を見てたから、何となくタイミングが分かって驚くことはなかった
「とりあえずさっきの話は冗談でもなんでもなくて、心の底から思ってることなの。由布子さんが良ければ、湊を貰ってほしいな」
「……逆じゃないですか?私が貰って頂く側です。それに……私は良くても湊さんが困りますよ」
「なんで?」
「なんでって……こんな冴えなくて暗くて頭も良くなくてブスでポンコツな私なんて……」
「ずいぶん自分のこと卑下してるね……」
私は自分に自信がない
もっと自分に自信があれば、湊さんに積極的になれたのかな?
「大丈夫!暗くて頭も良くなくてポンコツかもしれないけど、冴えてないことはないし、断じてブスではないよ!あなたは可愛い!」
「や、やっぱりポンコツに見えるんだ私……」
「あ、ポンコツが1番ダメージデカいんだね」
客観的に見られても、私はポンコツ人間らしい
「だ、大丈夫‼︎確かにポンコツーー」
……この後のセリフは擁護してくれるんだろうけど、すごいタイミングで切れたせいで私の心にダメージが入った
♢ ♢ ♢
「さっきはごめんね!でも大丈夫!マイナスを補うほどの余りあるプラスが由布子さんにはあるから!」
「……だといいんですけど」
慰めてくれて優しい人だなぁ……ウソでも
「それで、湊のお嫁さんになってくれる?」
元々そうなりたいと、この人に宣言するつもりだったんだ。だから自信を持ってハイと言え……るなら私は5年も燻ってなんかいなかった
「……好きな気持ちにウソはないです。でも……自信ないです」
「好きなら応援するよ。ただ覚えていてほしいんだけど、少なくとも現時点で湊のことを狙っている女は由布子さん合わせて3人はいるからね」
「さ、3人だけですか?」
そのぐらいじゃ済まないような気がするんだけど……
「まあ本当はごまんといるよ?でも私的に見て現状湊と結婚出来そうなのは3人かな?」
「わ、私もそのひ、1人なんですか⁉︎」
「そうそう。あと個人的に私は由布子さんを応援してるから!湊に猛アタックして、アピールして!そして結婚だ!」
私が……私なんかが?
「……今、私なんかがって思ってるでしょ?」
「へっ⁉︎そ、それはその……」
「長年見てたから卑屈なのは知ってるけど、湊の元嫁の私が太鼓判を押してるんだからもっとじしーー」
言葉が途切れた。また時間が来たみたい。 締まらないなぁ
でもちょっとだけ自信がついた。可能性があるんだって
「……ありがとうございます由布子さん。私、頑張ってみます!」
聞こえてるのかな?聞こえてたらいいな。私の人生史上1番ポジティブなセリフだったから
♢ ♢ ♢
「いい意気込みだったよ由布子さん‼︎」
「あ……ちゃんと聞こえてたんですね」
「触ることと、生きてる人達に声が聞こえるようにするのに力を使うだけだから、他は大抵何でも出来るんだよー!」
「大抵……なんでも」
あれ……もしかして……
「もしかして最近たまに意識飛んだりしてて、その間に勝手に物事が進んでる事象があるんですけど……李華さんのせいですか?」
「……」
……返答が中々返ってこない。まだ時間は残ってるはずだけど
「そ、そんなことあったんだー。知らなかったなー」
少し間が空いて、李華さんの声が聞こえてきた。時間が空いたのは、何かトラブルでもあったのかな?
「……それのせいでたまに周りに迷惑とかかけちゃってて……何か心当たりとかありませんか?」
「あ、悪霊の類じゃないかなぁ?」
「本当ですか?李華さんが何かしてるんじゃ……」
「そそそそんなことしないしない‼︎私が出来るのはー、こうやってちょっとの間喋ることとー、触ることだけだから!」
「そう……ですか……」
これだけ否定してるし、呪いの類とかじゃなくて何かの病気なのかな……ちょっと不安になってきた……
「知らないなら大丈夫です。ありがとうございました」
「うん……あ、最後に私から一つ。湊に私の存在はバラさないでね?」
「はい。分かってます」
あからさまに湊さんを遠ざけてたし、そうなんだろうなって思ってた。理由は明確じゃないけど、理解は出来る
「頑張ってね!期待してるかーー」
また言い切る前に声が途切れた
未だに夢なんじゃないかって思うような体験をしたと思う。幽霊が喋って触れて、しかもその幽霊の正体が私の好きな人の元妻の人で……
また話しかけられたりするのかな?
今度時間さえあったら、私の知らない湊さんの話を……じっくりと聞いてみたい




