対策
「わざわざありがとうございます」
「全然大丈夫だよ」
初芽の仕事場に、湊が迎えに来ていた。この前の話に出た対策の一環だ
初芽の仕事は今が繁忙期で、湊よりも帰宅時間が遅い。冬のせいで日が落ちるのも早く、帰る際は真っ暗になる
なのでしばらくは迎えに行くと湊自ら申し出た
他にも対策としては、由布子さんは外出する機会はないけど、ゴミ捨て場が外にあるため、湊と同じタイミングでゴミを出しに行く。あと時雨さんにも事情を話して、外に引っ張る際には車での移動にするように頼んである
蘭さんも所属する事務所にストーカー被害を受けていると相談して、しばらくマネージャーの人が車での送迎をすると決めたそうだ
一応各々安全面は確保され、対策は出来始めたが肝心の解決策はない
分かっていることといえば、どこからか監視をしていること。湊が3人の女性と親密な関係であることを知っているということ。
湊の家の場所と由布子さんの家の場所。恐らく私の家でもある初芽の家も知っていること。
蘭さんが簡単に投げ飛ばせたところを見ると、格闘技経験はないこと。幽霊対策のグッズを初芽以上に持ち合わせていること
そう何回も襲ってくるようなことはしないだろうけど、警戒を強めておいて損はないはずだ
「毎回迎えにくるの大変じゃないですか?」
「そんなに遠い距離じゃないから全然平気だよ」
「……今ほど自分が車の免許が持ってたらなぁ……って思う時はないでしょうね」
「俺も買い直そうか迷ってるところだよ」
3年ほど前までは車を所持していた湊。だけど、遠出することもほぼなく、維持費が高いために車を手放していた
「何か欲しい車種とかあるんですか?」
「いや特にないかな。普通の軽自動車でいいよ」
「色は?」
「それも別にこだわりはないけど、まあ無難に白かな」
「湊さんってあんまり車に興味示さないですよね」
「そうだな。乗れたら良いって思ってるからさ」
湊は興味のないものにはとことん無関心なのだ
「ならファミリーカーとかどうですか?」
「なんでファミリーカー?」
「だっていつかは誰かと再婚するんですよね?」
「そ、それはそのつもりではあるけど……」
「ならもう買ってもいいんじゃないですか?私は安産型ですし」
「あれ?初芽ちゃんと結婚することになってる?」
私的には出来れば他の2人と結婚して欲しい
「逆に私以外に選択肢あります?」
「いやあの2人とか……」
「あんなイロモノ2人より私の方がいいですって」
2人がイロモノ枠であるのは否定しにくい……
「家事全般出来ますよ?見た目から声まで可愛いですよ?この歳の割に結構稼いでますよ?車の免許も一応持ってますよ?優良物件だと思いませんか?」
「優良物件なのは知ってるよ。ずっと一緒にいるんだし」
初芽は顔を赤くして手で顔を覆った
「きゅ、急に恥ずかしいこと言わないでください!」
「ええ……自分で言ってたんじゃん」
「それはそうですけど……はぁ。調子狂うなぁ」
私は嫉妬で狂いそうだ
嫌悪感なんてものはない。ただ毎回言ってるけど、初芽が湊の隣にいるとどうしても自分と姿を重ねて見てしまう
初芽が悪いわけじゃない。私の気持ちの問題なんだ
でももう邪魔はしないと決めた。湊が初芽を選ぶならそれでいい。ただ私的には蘭さんか由布子さんのどちらかが選ばれて欲しいと思っている
「あ、そうだ。はいどうぞ」
初芽は手を差し出した
「……なに?」
「んっ」
「だから何?」
「もう!察しが悪いですねえ……手を握ってって意味ですよ!」
「いや分からんて……」
湊よ……それは湊の察しの悪さが原因だよ
「いいですか湊さん?今私達は誘拐される可能性があるんです」
「うん」
「その時に手を繋いでいた方が連れ去られる危険性が減ると思いませんか?」
「……確かに。そっちの方が安全だな」
「ですよね」
うんうんと頷く湊。確かに言ってることは間違いないけど、目的は絶対それじゃないことは分かる
「じゃあ手錠にしとこう。こっちの方が確実だし」
湊はカバンの中から手錠を取り出した
「なんで手錠持ってるんですか⁉︎」
「いざ襲われた時に使えないかと思ってさ」
「……湊さんも大概変人ですよね」
でも備えあれば憂い無しと言う。何も準備しないよりは全然良いだろう
「あ、あともう一つ言いたいことがあったんですよね」
「なに?」
「この前蘭と2人でご飯行ったんですよね?」
「行ったな」
「蘭だけずるくない?」
「ずるいって言われてもな」
「私とも2人で行って」
「蘭さんは誕生日だったし、それにその理屈なら由布子さんとも行かないといけなくなるよ?」
「由布子はいいの。行かなくて」
「えぇ……」
なんて横暴なことだろうか
「2人でいる時間なら初芽ちゃんが1番多いって」
「そ、そんなことないし!と、とにかく蘭だけずるい‼︎」
駄々をこねる23歳。みっともないことこの上ない
「……分かったよ」
「や、やった!じゃあちょうど行きたいと思ってた店があるんです!」
「ならそこにしようか」
「はい!」
2人は帰路から逸れて、お店に向かった
今のところアイツの姿は見当たらない。前と違って暗くないから、ある程度察知は出来ると思うけど……
さすがにそう何回も現れることはないか。あの使い捨てのお札もかなり高額な商品だって初芽も言ってたし、そう何回も使えるものじゃないと思う
みんなの危機管理意識も大事だけど、まずは私がしっかりしないと……
私が3人と湊を守らないと