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思い出話



「お疲れ様でした」

「お疲れ様ー!蘭ちゃん。またよろしくー」

「はい。それでは」



今日もモデルの仕事を終えた蘭さん。熱愛報道が出てから1ヶ月近くが経ち、世間からの関心はかなり薄れていた



加えて蘭さんが所属する事務所が、蘭さんの事情に理解を示し、立原と会うことのないように計らってくれた



もう続報が出ない限りはこのままウワサは消えていくレベル。加えて執拗に張り付いていた女記者は、私との約束を守って蘭さんに張り付くことは無くなった



「あ……サングラスと帽子しなきゃ」



蘭さんはカバンから取り出し、ササッと装着した



「湊さーん」

「あ、えっと……蘭さん?」

「……確かに変装してはいますけど、すぐに気がつきませんか?」

「す、すいません……」



変装しているとはいえ、溢れるオーラは隠せない。何より声も聞き慣れてるだろうし、身長や身体つき、口元などなど判断材料はいっぱいある



「本当にそういうところ疎いですよね。湊さんの唯一ダメなところですわ」

「ほ、本当すいません……」

「……ぷっ!まあいいですわ。どうせこれが私じゃなく、由布子さんや初芽でも恐らく気が付かないのでしょうし。それより今日こそ2人でご飯に行ってくれるんですのよね?」



前の立原から助けた日の時の約束が、今日やっと果たされる



「もちろん。ちゃんと気兼ねなくご飯を楽しめるように個室の所予約してますよ」

「……そういう気は効くのに」

「なんか言いました?」

「別に何も言ってないですわ。それより早く向かいましょう!」

「はい」



♢ ♢ ♢



「……なんか、ずいぶんと高そうなお店にしましたね」

「普段食べるような金額で収まらないのは確かですね」



ビルの最上階にあるイタリアンを売りにしたお店。見える夜景も綺麗でプロポーズする場所としてはもってこい……も、もしかしてぷ、プロポーズしたり……⁉︎



なんてことはないのは知ってる



「な、なんでそんなところに……別に安いところで構いませんのに」

「まあ今日ぐらいはね」

「今日ぐらい?何かありましたっけ?」

「えっ?」

「えっ?」



2人してポカンとした顔で見つめ合う



「だ、だって今日誕生日なんでしょ?」

「誰が?」

「蘭さん」

「違いますわよ」

「えっ⁉︎」

「私は1月。もう過ぎてますわ」

「ま、マジかよ……」



蘭さんは熱愛報道で騒がれていたタイミングで22歳の誕生日を迎えていた



「それ誰情報ですの?」

「……初芽」

「まあ予想通りですわね。恐らくウソの誕生日を教えて、本当の誕生日当日を祝わせないことで、私からの湊さんへの好感度を下げようと考えたのでしょう」

「……帰ったら流石に説教するか」



多分今、初芽はくしゃみしただろうなぁ



「でも、遅くても誕生日を祝ってくれるというのは嬉しいものですわ」

「な、ならいいんだけど。あ、あとプレゼントもあるよ」

「本当ですの⁉︎」

「う、うん。高い物じゃないけど」

「……プレゼントって、価格も大事だと思いますけど、それ以上に贈る気持ちと、贈ることに意味があると私は思いますわ」



湊は手のひらサイズの小さな箱を出した



「わぁ……あ、開けていいですか?」

「ど、どうぞ」

「……ん?」



蘭さんの顔が強張った。中に入っていたのは10円ガムだった



「み、湊さん?さっき価格よりも気持ちってお話しはしましたけど……さすがに安すぎませんか?」

「……ごめん」



箱はちゃんとした物だけど、中身はさすがにプレゼントとは言えない代物。これは酷いと言わざるをえない



「ま、まあ私は湊さんからすればその程度ということですわよね……」

「その底、取れるから取ってみて

「……あ」



箱の底がやたら浅く出来ている。それに気がついた蘭さんはその箱の底を外した



「ぶ、ブレスレット?」



青く輝くブレスレットは箱の中に隠れていた



「ごめんなさい。こんなことするつもりじゃなかったんだけど初芽にこのジョークグッズ試してって言われたからつい……」

「……初芽。帰ったらしばきまわしてやりますわ」



多分初芽はまたくしゃみが出たと思う



「にしても綺麗ですわ!」

「本当は装飾とか服系はやめておこうかなと思ったんだけど」

「えっ?なぜですの?」

「蘭さんはオシャレだし、俺がプレゼントするより自分で買う方がいいかと。だから別の物を贈ろうと考えたけど、思えば俺は蘭さんの趣味だとか好きな物だとか全然知らないなって」

「そういえばそういった話をする機会がないですわね。……なら今日は私のことを知ってもらう機会にしますわ!」

「それいいっすね。色々聞かせてほしい」

「まあそれはそれとして……ブレスレットありがとうございます。一生大切にしますわ」



蘭さんは湊に渡された状態と同じようにブレスレットを下に置いて、その上から10円ガムを置いた



「それ入れるの?」

「貰った時の状態で置いておこうかなって。これはこれで思い出として甦りますわ」



なんかその考え方いいな。私も今度からそうしようかな……あ、死んでるからもう無理だったわ



「さて、料理が来る前に私の話を少ししますわ」

「お願いします」

「こほん。環凪 蘭。22歳。血液型はAB型で、星座はみずがめ座ですわ」

「22歳か……てことは由布子さんと同い年?」

「いえ。彼女は1つ上ですわ」

「そっか」

「ちなみに初芽は私より2歳()上ですわ‼︎」

「……なんで強調して言ったの?」

「別になんでもありませんわ。ただ私の方が2歳若々しいってことだけ覚えてもらいたいだけですわ」



他の2人よりも良いところを挙げて湊からのポイントを稼ごうとする蘭さん。その精神の強さは他の2人にはない強みだと思う



「あと私はお金持ちの家の生まれで、いわゆる社長令嬢ですわ」

「それはもう知ってるよ」

「そう()()()()なんです‼︎」

「だから知ってますって」

「私と結婚すれば、お金には困りません‼︎」

「は、はぁ?」

「それに美人で声も良い‼︎2人よりも若い‼︎優良物件だと思いません?」

「……む」

「胸の話はやめましょう」



次々と自分と付き合うことのメリットを並べていく



「えと……はい。素敵な女性だと思ってます」

「では私のこと、ちゃんと彼女候補として見てくれますか⁉︎」



蘭さんは身体を乗り出して湊に迫った



「改めて言われなくてもずっと見てますよ」

「ほ、本当に?そんな感じに見えなくて……」

「不安にさせてたならすいません。表情に出にくい人間だと昔から言われてるので。でもちゃんと3人のこと考えてますから」

「そ、それならいいですわ」



蘭さんありがとう……湊の口からそれが聞けて私は本当に嬉しいよ



「それよりも趣味とか教えてくれますか?」

「そうでしたわね。趣味はスポーツ鑑賞ですわ!バレーにサッカーにテニスに野球と色々見ますわ」

「へぇ。意外かも」

「私も実家にいた時は全く見る機会がなくて興味が無かったのですが、初芽の家に居候させてもらって、テレビを見るようになってどハマりしましたの。今では各スポーツに推し選手と推し球団があるくらいハマってますわ!」

「確かにすごい熱量じゃん」



私がたまに蘭さんの様子を見ると、張り付くようにスポーツをよく見てる。初芽から聞いた話では、実家では禁止されてたことが多く、自由が少なかったらしい。その反動が今来てるのかもしれない



「湊さんはスポーツは何も見ませんの?」

「野球は結構見るよ。あとサッカーは代表戦だけ見てるかな」

「……推し球団は?」

「この県の球団だよ」

「あー……私そのライバルの方の球団ですわ」

「えっ……」

「えっ?」



何やら不穏な空気が流れ始めた



「俺さ、その球団のファンの人とは関わり持ちたくないんだよね」

「え?え?」

「だからバイバイってことで」

「ちょ、ちょっと待って‼︎」



立ち上がった湊の腕を蘭さんは掴んだ



「あ……えと……あの……ふぁ、ファンやめるから‼︎その球団のファンやめるから‼︎」



涙を流しながら湊にそう宣言した



「あ、ごめん……冗談だから」

「へっ?冗談?」

「うん」

「な、なんだぁ……良かったぁ」



手を離して脱力する蘭さん



「まさか泣くとは思わなくて……」

「悪質ですよ‼︎」

「本当ごめん‼︎でも本気で好きなんだなって思ったよ」

「そりゃあもう大好きですわ‼︎」



目をキラキラさせてる。かなり入れ込んでないとこうはならないだろう



「……それより、湊さんって私をからかいすぎじゃありません?」

「そうですか?」

「初芽にはちょくちょくしてる気がしますけど、由布子さんにそんなことしませんわよね?」

「うーん。まあそうですね」

「なぜですの?」

「由布子さんはほら。繊細だから」

「それは私が繊細ではないと言いたいのですか?」

「由布子さんに比べればそうですね」

「……まあそれは認めねばなりませんわね」



確かに心の強さに関しては蘭さんが3人の中では1番上になると思う



「あとは……蘭さんが1番李華に性格が似てるからですかね」

「妹の初芽ではなく?」

「あんまり似てないですよ。李華と違ってしっかりしてるし」



おい。これでも元生徒会長ぞ。我は



「李華の変なところを取っ払ったのが蘭さんって感じで、だからからかいやすいのかも」



えっ?湊から見て私どう見えてたの?

てか変なところなくなった私ということなら、蘭さんは私の完全上位互換じゃん



「……私は李華さんのことを何も知りませんわ。だからこの際ですし、色々聞かせてもらえません?」

「いいですよ。何を聞きたいですか?」

「なんでも良いですわ。思い出とかでも」



面識のない蘭さんにとって、私は初芽の姉と湊の元夫というポジションの私に興味が湧くのは当然のことだ



「じゃあ……この思い出話をしましょうか」

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