嫌がらせカレー
「えー!月代さんって美容師やってるんですねぇ!」
「すごーい!今度私の髪もセットしてくださーい!」
「……予約して頂ければ」
仕事も終わって、いつもなら直帰する湊。だが今日は珍しく合コンというものに来ている
男女が異性との出会いを求めて開かれる会。なんと良いイベントだろうか。今の湊にピッタリだし、やっと相手を作る気になってくれたんだ!
……というわけではなく、今月のお給料5000円プラスを条件に、オーナーのお願いでついてきただけだった
「早速予約します!なんて名前のお店ですか?」
「メリッサってんだ。俺がそこのオーナーしててな」
「むぅ!アンタに聞いてない!私は月代さんに聞いたの‼︎」
「そうよ!アンタは髭剃って出直してきて!」
湊に狙いを定める2人は、オーナー相手に辛辣な言葉を吐きまくっている
「だははっ!元気だなぁ2人とも。おい湊。2人ともお前と喋りたいんだとよ」
特にショックを受ける事なく笑い飛ばしているオーナー。おそらくだけど、これはわざわざ湊のためにセッティングしてくれたものだと思う。だから別に痛くも痒くもない様子でいられるのだろう
「……メリッサです」
「月代さんはどの時間帯にいるの?」
「定休日と不定期に1日休みぐらいです」
「なら大抵はいるんだ!」
「そうですね」
長年一緒にいた私じゃなくても、湊がこの2人に興味がなく、早く帰りたいと心の底で考えていることが分かる
それでも素っ気ないながらも、ちゃんとアンサーを返している
その曖昧な優しさは、時に人を傷つけることを湊は知った方がいい
♢ ♢ ♢
「月代さん。今日はありがとうございました!」
「月代とご一緒出来て、私達楽しかったです!」
「……良かったです」
「あれ?俺は?」
合コンもお開きとなり、お会計は全てオーナーの自腹。この2人は支払いをしてくれたことに対してもお礼の1つもなかった
「あ、あの月代さん。良ければ連絡先交換してくれませんか?」
「わ、私も!」
ポケットから携帯を取り出し、連絡先を交換する準備をする2人
「ごめんなさい。連絡先は交換出来ません。それでは」
湊は足早にその場から立ち去った
「お、おい!ったく……じゃあお2人共。夜道に気をつけて帰りなよ!」
オーナーも湊を追ってその場から立ち去った
「なんか断られちゃった……」
「ねっ。超イケメンで声もいいけどドライな感じだったし、モテるから調子乗ってるんじゃない?」
「そうかも。予約取り消しとこ……」
湊と連絡先を交換出来なかった2人は、さっきまでの態度とは一変して悪口を言っている。
声だって湊と話していた時より1トーンぐらい低い。あれだけすり寄ってたというのに拒絶された瞬間に手のひらを返すように文句を垂れる。これは人間の怖い部分の1つだと私は思う
いつも通り彼女は出来ず。でも今日に限ってはそれでもいい。こんな手のひらクルクル女は、私としてもお断りだ
♢ ♢ ♢
「おかえりなさい。今日は珍しく遅かったですね?」
「まあ……色々あって」
初芽が当たり前のように湊を帰りを迎えた。まだ9時前ではあるが、直帰する湊にしては確かに遅い帰宅だ
「というかごめん。来るって分かってたのに連絡入れ忘れてて」
「あ、もしかして外食してきました?」
「うん……」
「まあいいですよ。今日はカレー作ってたんで!カレーは2日目が美味しいっていいますからね!」
確かに奥からカレーのスパイシーな匂いがする
「……それじゃあ今日は帰りますね」
「ああ。おくっーー」
「らなくていいです。毎回聞いてて疲れませんか?」
「疲れはないけど、断られるんだろうなって思いながら言ってる」
「もう聞かなくていいですよ。断る私も毎回心がズキンと痛んでるんですから」
「そっか。分かったよ」
何がズキンと痛んでるだ!24になってそんな擬音使うの痛いからやめた方がいいぞ‼︎……ってあおってやりたいところだけど、反撃が怖いので今日はやめておこう
「あ、バカ姉に供える料理作っておいたんで使って下さいね」
「あ、ありがと」
「いえいえ!それではまた!」
「お疲れ様」
次は合鍵で入れないように鍵穴変えてやろうかな……いや湊も入れなくなるから無理か
「遅かったですね」
「まぁねー。湊ってば合コンに無理矢理連れ出されて、暇そうにしてたよ」
「てことはまた相手は作らなかったと?」
「今回はいいよ。私のお眼鏡に敵わなかったし」
由布子さんのような良い子か、私ぐらいの美女でないとね
「……よし」
湊は小さめのお椀にご飯とカレーをかけて、仏壇の前の机に置き、湊は正座した
「今日のお供え物。カレーってお供え物としてどうなんだろうな」
私としてはカレーは大歓迎!久々に質素な物じゃないのを供えてくれてありがたい!
私達は人間の頃に必須だったことをしなくても問題ない。寝なくていいし、食べなくてもいい。というか食べられない。ある例外を除いて
私に対してのお供え物は食べることが出来る。樹里は私のお供え物は食べられない。そして私が食べたことによって現物が減ることはない。原理に関してはナトちゃんに聞かないと分からない
「まあ初芽ちゃんのご飯は俺と違って絶品だから、ゆっくり食べてくれ」
仏壇の前に置かれた私の遺影に向かって話している。残念ながら今は後ろにいるんだけども
「確かに美味いっちゃ美味いんだよなぁ」
私達が学生の頃、両親の帰りが遅かったので2人で分担して料理をしていたし、始めたての時から十分美味しかった。でも私の方がちょっと上手いかなぁ
「いいなぁ。私も食べたいです」
「こればっかりは無理だから諦めな」
早速私は1口食した
「……ん?」
1口目からいきなり違和感を感じた
「どうしました?」
「いや別に……」
「もしかして李華さんに邪魔されるお返しにマズく作られたとか?」
「いやそれなら湊にも被害いくから」
湊は私にお供えした物を後でちゃんと食べている。そのことを初芽が知らないはずないからマズいものは出せない。そもそも味は美味しい
でもこの私の幽体が拒否反応を示している。……まさか!
「これ……全部私の嫌いな食材だ」
タケノコにナス。ササミやカボチャなどなど……入っててもおかしくないのもあるけど、普通入れないだろってやつまで入っている
「李華さん嫌がらせカレーってことですか?」
「やってくれたなあの女……」
具材だけを綺麗にかわして完食した。残したところで実物を食べているわけじゃないので、誰にも迷惑はかからない
「今度来たらとっちめてやる‼︎」
「返り討ちに遭う未来が簡単に見えますね」




