第2話
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「今日に死ぬか。明日を苦しむか」
記憶のなかで、彼女は笑う。
戦火を背負い、それでも彼女は笑うのだ。この笑顔が本当の記憶か、それとも、そうあって欲しいと願うボクの夢か。
「どうしても……。そう言うんだね」
「お前にしか頼めない。こういえば、お前は頷いてくれるんだろう」
「君と死にたい」
「それは困る」
「君と生きたい」
「それはもっと困る」
「だとしても、君だけは生きてほしい」
「それはなおさら困ってしまう」
分かっていた。分かっていたんだ。
勝てないことなど分かっていた。それでも、ボクらは戦わなければいけなかった。戦うことでしか、あの日を生きることができなかったから。
「ボクは何年生きればいい。何十年待てばいい。何百年苦しめばいい」
「何年でも生きろ。何十年でも待て。何百年でも苦しめ」
「君のために」
「わたし達のために」
聞こえる静寂はまやかしだ。町を破壊する爆発音は止まらない。それでも、ボクと君との時間を邪魔する音があってほしくはなかったんだ。
「わたしだけのためは、ちょっとなぁ」
「無茶を言われても」
「いつか出会えるよ。わたし以上に波長の合う相手と」
「居るわけない」
「わたしの勘は外れたことがないんだぞ」
「じゃあ、これが最初だ」
そういう時代だった。
その言葉で片付けたのは後の歴史家だ。あのとき、迫害を受け続けているボクたちは、どうすればいい。どうすればよかった。人として生きていた。人として生きたかった。それを、否定されればどうすればいい。戦う以外の方法が、どこにあったという。
「この世界をどう思う」
「理不尽だ」
「ああ。生きるとは理不尽だ。わたしはね、受けた理不尽を呑み込んであげるほど優しくはない。他と違う。それだけを理由にわたし達を迫害するというならいいだろうとも。ああ、ああ、いいだろう。呑み込みはしないさ。呑み込んだりはしない」
彼女は笑う。
泣き疲れた彼女は笑うのだ。
後の世で、魔王と呼ばれる女が居た。
身丈に合わない大剣を振り回し戦場を駆けるその女を、人は恐れた。女は悍ましいほど強く、それでも、それだけの理由で勝てぬほどには数という差があった。
「探し出せ。わたし以上の逸材を」
勝てぬ戦いの最中、女はひとつの賭けに出た。
剣に姿を変えられる配下に命じる。次なる器を探せと。見つけ、導き、惑わし、堕とせ。
「わたしでなくてもいい。わたしである必要はない」
女は世界を愛していた。
愛していたはずだった。それを世界が否定するのであれば。
「受けた理不尽を、少しずつみんなに返してやろう」
狂うほどに愛するしかなかった。