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「おー、あそこか」


 野生の勘を頼りに、というのは冗談で、ジムは屋根に上って桜の大樹を探していた。この島の建築物はそれほど高くないといえど、路地裏を練り歩いて探すには限界があると気付いたのである。というのも、ジムは最初から大樹の場所を知らなかった。聞かれなくても教えてくれればよかったのに、とジムが内心悪態をついたので、アーシャはグレイとリオードを案内しながらくしゃみを一つしていた。

 ジムは少し先に桜が散っているのを見つけると、そのまま屋根の上をひょいひょい移動しながら目的地を目指した。そして、十分に距離を詰めた位置でまた路地裏へ降り立ち、何でもないような顔をして大樹の下へ近づいて行ったのだった。

 店が立ち並ぶにぎやかな場所からやや距離があるからか、大樹の周りは不思議な静けさが保たれていた。ジムが歩いて行くうちに、アーシャの言っていた通り、少年の話し声が聞こえて来た。


「ほんと、あの店の団子はうまいんだぜ」


 しかし、ジムが聞き取った話し声は、一人分ではなかった。


「いいなあ、私も食べてみたい」


 それは、別の少女の声らしかった。二人が親し気に会話を交わしている中へ、ジムはためらいなく踏み込んでいった。

 ジムが大樹の前へ姿を現すと、二人は珍しそうに顔を向けた。その直後、風がざあと拭いて、少年の髪を撫でながら桜の花びらをさらった。

 すると、ジムは急にしかめっ面になって、ため息をついた。


「……何が『オカルト案件じゃない』だよ」


 突然やって来たジムの言葉を聞いて、少年は少女を守るように、ジムと対抗する形で立ちはだかった。


「なんだよ、お前」

「ああ、お前が例の放火犯か」

「違っ、それは俺じゃなくて」

「放火? 玲くん、そんなことしてたの……?」

「してない! 絶対! 断じて!」


 純粋無垢な顔で質問した少女に、玲と呼ばれた少年は必死に弁解した。少女はそれを聞いて安心したような表情を浮かべると、少年の隣に並んでジムに話しかけてきた。


「こんにちは、お姉さん」

「私としては『こんにちは』なんてしたくないんだがな、ゴーストさんよお」


 ジムが面倒そうにそう言うと、少女は驚きながらもなんだかうれしそうな笑みを浮かべた。


「えっ、もう気づいてたの?」

「髪が揺れない、影もない。おまけに私は『一人で喋っている気違い』と聞いていたんだ。これだけ条件がそろっていて気づかないって言うんなら、相当な馬鹿しかいねえだろ」

「すごい! 私、百花。お姉さんの名前を教えて?」

「ジム」


 不愛想な返事にも関わらず、百花はぱやぱやと笑った。さっさと事を進めたいジムは、玲の方へ向き直った。


「で、お前は放火犯じゃないんだな?」

「違うって。ていうか、やっぱり気違い扱いされてんのかよ」

「私のせいで……?」

「違う、百花のせいじゃないって。あー、もー、そんな顔すんなって」


 不安げに問いかけた百花を、玲は慌てて宥める。見ているぶんには面白いな、とジムは退屈な気持ちが少しだけ紛れた感じがした。


「放火犯って疑われてることは知ってたのか」

「まあな」

「んじゃ、質問だ。商家の芹、俳優の上川、神主の御形、歌人の箱辺、食堂の仏野、酒屋の半田。この六つが被害を受けたらしいんだが――」

「……百花、どうした?」


 ジムが言葉を紡いでいる途中、百花は妙な表情を浮かべた。それを見逃さなかった玲は、心配そうに声をかけた。ジムは何かを感じ取ったのか、潔く話を止めた。


「いや、ただ、知り合いばかりで心配だなって、思って……」

「まさか、全員知っているのか?」

「うん」


 百花の返事を聞いて、手間が省けたとジムは内心ガッツポーズをした。ジムが視線で促すと、百花は被害を受けた人々について語り始めた。


「その、自分で言うのは恥ずかしいんだけど……皆、私に告白してくれたの。勿論、その人たちに好意はなかったから、丁重にお断りしたんだけど」

「あんた、最近死んだのか」

「うん、火事でね」

「告白してきたのはさっきので全員か?」

「いや……確か、鈴城さんという人もいたよ。鮨屋をやってるの」

「なるほど」


 ジムが一通り聞き終えると、タイミングを見計らって玲が言葉を発した。


「なあ、姉ちゃんは放火犯を探してるのか?」

「ああ、不本意だがな」


 玲の質問に対し、ジムはため息交じりにそう答えた。


「ならさ、俺もついて行っていいか?」

「足手まといはいらないんだが」

「姉ちゃん、海の向こうから来たんだろ? なら、俺が案内役になるよ。あと、泳ぐのも得意だから任せて」


 玲の言葉を冷たく叩ききったジムだったが、玲は諦めなかった。その様子を不思議に思ったジムは、気まぐれに玲にこんなことを聞いた。


「なあ、なんでそんなに放火犯を見つけたいんだ? さっきは疑われてることなんか気にしちゃいなかっただろ」

「それは……」


 玲はぐっと唾をのんで、思い切ったように話した。


「俺が疑われてるのは、別にいいんだ。だけど、うぬぼれかもしれないけどさ、このままじゃ百花がずっと俺のこと心配しちまうかもしれないじゃないか。あと、百花が成仏できない理由かもしれないことは、解決しておきたいし」

「ふうん、彼女に成仏してほしいのか」

「そう。俺さ、やっぱり百花のことが好きなんだよ。好きだから、ちゃんと成仏してさ、生まれ変わって来てほしい。それでさ……早く抱きしめたいんだ」

「玲くん……」


 少しの間、玲と百花は見つめ合った。いわゆる良い雰囲気になったのである。それを眺めていたジムは、とうとう耐えられなくなっていつものように場をかち割った。


「おいおい、お前らの青春甘すぎだろ。ここはドラマの中かっての」

「べっ、別にいいだろ。あんたもまだ若いくせに爺臭いこと言うなよ」

「悪かったな。あいにく、硝子の少女時代はもう終わったもんでね」


 ジムとの茶化し合いが一段落すると、話を持ち直すように例はコホンとせき込んだ。


「で、今日はどうするんだ?」

「今日はもうしまいだ」

「は?」


 ジムの返答に、玲は驚きの声を洩らした。玲が理由を何も理解していないことを悟り、ジムは一応説明を補ってやることにした。


「何だよ、もう日が暮れるんだぞ。良い子はもう帰る時間だ。だから私はもう帰る。んで、お前らも帰る」

「ちょっ、待っ……」

「んじゃ諸君、明日の昼前にまた会おう」


 ジムはそれだけ伝えると、反論の余地も与えず踵を翻した。去り行く背中に向かって、玲は慌てて叫んだ。


「あーもう、先に進めたりしたら起こるかんなー‼」

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