卯
どうも、星野紗奈です!
新しい公式企画が追加されて、とっても楽しみにしていました!
今後は春の推理と冬の童話で参加していけたらいいなあ……なんて思っています♪
と、いうわけで。
今回は推理小説なるものに手を出してみました。
ただこういったジャンルはあまり書かないのもあって、かなり苦手でして……クオリティは保証できません(笑)
なんでも大丈夫だよ! という方だけお進みいただければと思います!
それでは、どうぞ↓
犬も歩けば棒に当たるように、人が歩けば死体に出会える街、それがバーニーズ・タンド。ローファード・ハウスは、そんな狂気が散在する街の中にある、しがない探偵事務所である。現在のメンバーは三人。事務所代表の一見頼りがいのなさそうなおじさん、グレイ・リバース。探偵見習い兼雑用係のお人好し、リオード・カロン。そして、愛くるしい容姿に残虐なナイフを隠し持つ少女、ジム。彼らは依頼を果たすため、バーニーズ・タンドという混沌とした街――――を抜け出して。
「ようこそ、桜殷島へ!」
「……ずいぶん呑気な場所だな」
東の海の観光地、桜殷島へやって来ていた。
「ローファード・ハウスの皆さん、お待ちしておりました!」
「アーシャ、元気だったか?」
「グレイさん! 自分はこの通りピンピンしてますよ」
グレイに犬のように懐くこの男こそ今回の依頼人、アーシャ・シッピーである。なんでも、グレイとは旧知の仲だとか。
「おい、グレイ。なんで私まで来なきゃならなかったんだよ」
「まあまあ、ジムさん。こうしてお出迎えしてもらっている人の前で言わなくても……」
着いて早々に不満を垂れ流すジムを、リオードは必死に宥める。しかし、グレイはいつものようにへらへらと笑いながら、こう返した。
「仕方がないだろ? ジム一人置いて行ったら、戻って来た時に事務所が崩壊しているに違いない」
「なら、カロンも一緒に置いて行けばいいだろ。一応あれでも私の監視役なんだし」
「ははっ、いつも振り回されているリオード一人でジムを止められると?」
「……分かってるならその役目外してやれよ」
「あいにくうちは晩年人手不足なんだ」
グレイに言いくるめられてしまったジムは、悔しそうに短く舌打ちをした。一連のやり取りを見ていたアーシャは、満面の笑みを浮かべている。
「ずいぶんにぎやかになりましたね」
「ああ、二人が入ってからアーシャに会うのは初めてだな。こっちの細くて弱そうなのがリオード・カロン。んで、ピンクブロンドの狂犬がジムだ」
「弱そうって……」
「誰が犬だって?」
しょんぼり肩を落とすリオードと対照的に、ジムは今にもグレイに噛みつきそうなほど苛立ちをあらわにしている。
「改めまして、今回依頼を送ったアーシャ・シッピーです。どうぞよろしく」
二人のオーラに気圧されず自己紹介を進めるあたり、きっとアーシャもグレイと同じような気質の持ち主なのだろう。
「さて、立ち話もなんですし、店に入りませんか? おすすめのところがあるんです」
「ああ、そうだな。早速依頼内容も聞かせてもらおうか」
「えっ、依頼内容も知らずに来たんですか⁉」
揃って歩き出した二人の後ろで、リオードは驚きの声をあげた。確かに、リスクも測らずに依頼を受けるのは、面倒ごとを避けたがるグレイには珍しい行動だった。
「まあな。友人だから、今回はちょっと特別扱いしてんのさ」
「なるほど」
ジムはそんな会話を聞き流しながら、見失わない程度にのんびりと歩き出した。
桜殷島は、その名の通り、ぐるりと海に囲まれた島である。見渡せば、潮風に負けない立派な桜の木がいくつも象徴的に咲き誇っている。海上にぽつんと存在するこの島には、昔から多くの人々が様々な訳あって流れ着いていたらしい。そのおかげで、多種多様の文化が入り混じり、やがてそれが島特有の一つの文化として築き上げられているのである。
そういう訳で、この島は観光地として有名なのだが、他にも人気の理由がある。それは、住人たちの人格である。基本的に穏やかで親切な人ばかりで、非常に滞在しやすいと評判だ。言ってしまえば、バーニーズ・タンドと違って、島全体が殺人事件などはなから知らないような雰囲気を醸し出しているのである。ジムが桜殷島を「呑気な場所」と表現したのも、そういうことだった。
「おかみさん、四人席空いてるかな」
「ああ、空いてるよ。今お茶を持って行くから、先に座ってな」
「ありがとう」
ジムが歩きながら思考に耽っているうちに、四人は目的地にたどり着いたようだった。そこは、和やかな雰囲気の茶屋だった。アーシャに案内され、四人で席につく。
「何か食べますか? 自分的には、このお団子のセットがおすすめです」
「じゃあ、そうしようかな。リオードとジムは?」
「僕もそれを」
「私はあんみつ」
アーシャのおすすめを一瞬でぶった切ったジムに、リオードは内心冷や汗が止まらなかった。しかし、アーシャはそれを面白がってみているようで、特に何も口を出さなかった。店主がお茶を持って来ると、アーシャは注文をすませ、グレイの方へ目をやった。
「それでは、本題に入りましょうか」
表情は変えず、声色だけやや落ち着かせて、アーシャは依頼について説明し始めた。
「ここらは拓乃町と呼ばれる地域なのですが、最近ボヤ騒ぎが多発しているんです。幸い大事には至っていないのですが、特に乾燥している時期でもないし、普段しっかりしている人の家までそうなっているものですから、何だか怪しくって。町の人は、専ら桜花伝説の噂でもちきりです」
「桜花伝説?」
グレイは顎に手を当てながら、アーシャに尋ねた。
「はい。この地域の真ん中には桜の大樹があって、それに関する伝承があるんです。そうそう、こんな歌まであるんですよ」
そう言うと、騒めく店の中で、アーシャは柔らかい歌声を響かせた。
村の優しい夫婦の子 桃色頬の桜の子
すくすく育って贈り物 かんざし一つあげましょう
時が流れて高嶺の子 見目麗しき桜の子
数多の男寄り添えど 愛すべき人見えません
ある日夜中に散る火の粉 家から出て来ぬ桜の子
夫婦光で導いて 一人桜へ帰りましょう
微笑みもたらす夫婦の子 二度と帰らぬ桜の子
不死の桜を見上げれば かんざし一つ見えましょう
「よっ、兄ちゃん。いい声してんな。さぞモテるこった」
「ははっ、それほどでも」
アーシャが歌い終えると、偶然聞き入っていた近くの男性がそう茶化した。少し照れ臭そうな表情ではあったが、アーシャはそう言った会話には慣れっこのようだった。ちょうどそこへ、注文の品がやって来た。まだ話が続いていそうなので、とリオードは遠慮してまだ口をつけなかったが、ジムはそんなことはお構いなしにマイペースに甘味を堪能し始めた。
「まあ、こういう伝説がありましてね。ここで歌われている『桜の子』を怒らせたから、火事が起きているんじゃないかと、そういう噂です」
「なるほどなあ。まあ確かに、火という条件が重なってはいるが……今回依頼がまわってきたってことは、オカルト案件じゃなさそうってことだよな?」
「そうですね。自分が調べた限りだと、火が出るのは毎回夜七時くらい。その上、暗闇で何かが動いていたという目撃証言もありますから、放火の可能性が高いかと。ただ、自分はあくまで一般人なので、いくら伝手を辿ってもこれ以上は深入りできそうになくて」
「それで本業の俺の出番ってわけね」
「はい。町の人も不安そうなので、早く解決できればいいんですが……」
アーシャはこちらの反応を窺うように眉尻を下げた。すると、グレイはジムの方へひょいと目を向けた。
「なあ、ジム。何日かかると思う?」
「は? なんで私に聞くんだよ。計画くらい自分でしろ」
「予測通り帰れたら一日バーガー食べ放題」
「最長三日。早ければ明日の夜にでも終わる」
食べ物につられたジムは、間髪入れずにそう答えた。
「三日って……アーシャさんがわざわざ依頼してくるようなことを、たった三日で⁉」
「ああ見えて、ジムの予測はめったに外れないんだよ。ましてや、あれだけやる気になっていればな」
グレイがちょっぴり悪い笑みを浮かべているのを、リオードは見逃さなかった。ジムはそれを知ってか知らずか、あんみつを食べ進める手は止めず、アーシャに話しかけた。
「で、アーシャ、だったっけか。最初の手がかりくらいはくれるよな?」
「もちろんです。放火の説で町の人から最も疑われているのは、ある少年です。何でも、桜の大樹に通って一人で話しているようで」
「気違いだからやりかねないだろうって?」
「おいおい、アーシャが折角言葉を濁してくれたんだから暴くなよ」
「へいへい、すんませんね。遠回しなのは嫌いなんだよ」
グレイの指摘に、ジムは悪びれる様子が微塵もない言葉を返した。グレイは、毎度のことではあるものの、呆れてため息をつくしかなかった。
「んじゃ、行くか」
いつの間にか器を空っぽにしていたジムは、すくっと立ち上がった。そして引きとめる間もなく店を出て行ってしまった。
「えっ、あっ、ジムさん⁉ 僕のこと置いて行かないでくださいよ!」
「まあまあ、リオード。今日はいいよ。たまには休暇ってことでさ」
「でも……」
心配そうな表情を浮かべるリオードの方に、グレイはぽんと手を置き、ゆっくりと力を込めて座らせた。
「ジムは三日で帰るって言い切ったんだ。わざわざそれをのばさなきゃならないような面倒ごとは起こさないはずさ」
「……わかりました」
グレイにうまく言いくるめられて、リオードの表情はやや和らいだようだった。二人の話がまとまったところで、アーシャは両手をぽんと合わせて笑みを浮かべた。
「じゃあ、今日は男三人で観光ってことですね!」
「なんだ、むさくるしいってか? ならアーシャが華を用意してくれよ」
「そんなまさか! グレイさんに紹介できるような女の子はいませんよ」
「ちぇっ、つれないなあ」
「あっ、でもリオードくんなら大歓迎ですよ。ここら辺はちょっと暑苦しい男が多いから、控えめな方が人気があるとか」
「よかったな、リオード」
「ちょっと、なんでそんな話になるんですか……」
年上の男性二人に話の手綱を握られてしまい、リオードは翻弄される側になったことを悟った。そして、今回ばかりはジムの存在を拝んでおくべきだったかもしれないと、少しだけ後悔したのだった。