カセットテープはまだ返せない
部活終わりの帰り道。電車のホームで君と二人、椅子に座って電車を待つ。
夕焼けはまだ沈みそうにもないけれど、君と私の電車は反対方向だから、もうすぐお別れの時間なんだ。
「なあ、昨日のラジオ聞いたか?」
「うん、聞いたよ。好きなバンドの新曲でしょ」
君が好きだっていうから何度も聞いているうちにすっかり私も好きになったりして。昔はロックなんて何にも知らなかったのにね。
「そうそう、スッゲーかっこよかったよな。特にあのギターさ、多分なんだけど、こんな感じでギュイーンって!」
「わ、急にはしゃがないでってば、びっくりしちゃうじゃん!」
無邪気に話す君の肩が触れるたび、私は君のことを意識しちゃうのに、君は何にも気づいていないのが少しムッときちゃう。
「またバイトして買うの?」
「当たり前じゃねーか。何がなんでも手に入れてやるぜ。買ったら貸してやるよ」
好きなバンドのためにバイトなんてしちゃったりして。カッコつけてる君にすっかり見惚れている自分がちょっと恥ずかしい。
「でもその前に、この前のカセットテープ返せよな」
「ギクッ」
そう、私はカセットテープを借りている。
私の大好きな君から、しばらくの間ずーっと。
「まあ、すぐじゃなくてもいいけどさ。いつ返すんだよ」
「ええっと、もう少し待ってくれないかな」
実は、カセットテープの裏面には君への告白を録音しているんだ。直接は恥ずかしくて言えないけれど、きっとこれなら言えるから。でもまだ勇気がなくて、返せずにいる。
「あれまだ裏面使ってないんだからな」
「あー。……裏面、使っちゃった」
まさか、告白するために使ったとは思ってもいなんだろうけど。
「マジかよ。まあ、爪を折ってないならいいけどさ」
カセットテープの爪を折ると、もう上書きができなくなるんだよね。私の告白が消えなくなって、君に届いてしまうんだよね。
だけどさ、まだ爪は折っていないんだ。私の心が折れてしまうかもしれないから。君に振られて、君とのこの毎日がなくなっちゃうのがやっぱりまだ怖いから。
「うん、まだ折ってないよ」
でもいつか、私の心がはっきりした時、私がもう折れない覚悟ができた時に、それを折って、そうして君に返そう。私のこの想いを、君にちゃんと届けよう。
「またこんど、ちゃんと返すからさ。絶対に返すから、もう少し待っててほしいな」
いつかきっと返すから、まだ今はこのままでいさせてくれないかな。
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