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ピーチクパーチクさえずるコトリとタンポポポ。

城に着くと、料理長が私を出迎えた。


「陛下、お帰りなさいませ!軽食の準備が整っております。その……仰せの通りに食堂に…。」


「ああ。」


この城の者達は、普段の食事を私室で取らせている。

私は陛下と呼ばれこの城の主として此処に居るが、王ではない。

この城に居る者達も、先代国王の頃から勝手に居るだけで私の部下だと言う訳でもない。

勝手に仕事をしてくれるならば対価は払うが、私に仕えて貰っている訳ではない。


家族どころか、部下だと言える者すら居ない。

そんな私が誰かと食事を共にする等考えも及ばない。


よって、この城の食堂は放置状態だった。


その放置状態だった食堂を整えさせ、女が好きであろう見目美しい菓子を作らせた。


そしてこの城に居る、私に差し出された美姫達を食堂に呼んである。




物置のようになっていた食堂が綺麗に整えられ、真っ白なテーブルには雑草ではない花が飾られ、それぞれの席の前には切り分けられたケーキが並ぶ。


「女達が支度をして食堂に来るまで、あと一時間後位か…。私も着替えて来るか。」


ずぶ濡れの雑草女に抱き付かれたせいで私の衣服も濡れており、砂まみれだ。

私は着替える為に私室に向かい、中庭に面した城の廊下を歩き始めた。


「新参ものが、大きな顔をしているんじゃないわよ!」

「陛下が迷惑がっているの分かってらっしゃらないの!?」

「何処の国から来たのよ!」


荒れた中庭の片隅で、女達が雑草女を囲んで責め立てている場面に出くわした。

恥ずかしげもなく大きな声で複数の女が一人の少女を責め立てる姿を見た私は…かつての自分の姿を思い出した。


生まれつきの白い髪、赤い瞳、長生きは出来ないだろうと親によって町を外れた森に捨てられた私は、魔法使いと呼ばれる老婆に拾われた。

老婆は魔法使いとは呼ばれていたが魔力などさほど無く、彼女もまた、厄介者として町から追われた者だった。


魔法使いと言うよりは薬師に近い彼女は、作った薬を町に売りに行く。

彼女に連れられ、町に行く私は迫害の対象になった。


醜い、呪われている…そんな罵詈雑言を浴びせる。

……なら近寄らなければ良いだろう?


なぜ、寄ってたかって私をいたぶるのか…。

ボロくずのようになるまで。

なぜ…なぜ…何もしていない、この姿で生まれただけで…





「ダーリンは貴女達の所有物じゃないのだから、わたしが声を掛けて何か悪いの?」


雑草女はシレッと答える。

彼女の声に、思い出した過去の自身の姿に囚われつつあった私はハッと我に返った。


「まぁぁあ!」と女達の、怒りを越えた呆れ声が響いた。


「自分達だって、声を掛けりゃいいじゃない。無視されるなら飛び付いちゃえば?」


雑草女よ…私に飛び付こうとすれば、私はすべて弾き飛ばす。

私の魔法を無力化して私に飛び付けるのは、お前だけだ。


少し離れた位置から中庭に居る女達の様子をうかがう。


雑草女は相変わらずで、不遜な態度は変わらない。

よく、こんな女が2ヶ月も目立つ事無く大人しくしていられたもんだ。


「何処の国からって聞いたけど、わたしの居た場所には国なんてないわ。」


「国でない!?どんな辺境の地から来たのよ!田舎者もいいとこだわ!!」

「あなた、魔界から来た魔物ではなくて!?気味が悪い!」


雑草女は、ボケーっと女達の話を聞いて…いや、聞き流している。


「魔界なんて、無いわよ。存在が証明されてないもん。……ピーチクパーチク…うるせ。コトリか。……コトリって何だろう。」


雑草女が自分の呟きに疑問を持ち、宙を見つめている。


「うるさい小鳥ですって!?小鳥って何なのよ!!」


女達がみっともなく声を荒げる。


「言ってみたはいいけど、何なのか分からないから調べてるわよ!コトリ…小鳥!?種類多いわ!ピーチクパーチクうるさいのはどれだ!」


私は吹き出してしまった。

女達は小鳥が何かを聞いた訳ではないだろうに、雑草女は小鳥の種類を聞かれたと思っているようだ。

吹き出してしまった私の存在に気付いた女達の顔が青ざめる。


「へ、陛下…!わたくし達、この方を責めていたのでは…!」

「そ、そうですわ、わたくし達…教えて差し上げていたのですわ!ここでの事を…!」


「気にしなくていい、食堂に菓子を用意してある。私も着替えて向かうから、先に行っていろ。」


中庭から女達がゾロゾロと去って行く。

一人残された雑草女は、納得いかない顔で宙を眺めていた。


「……雑草、小鳥とは小さな鳥すべてを表す言葉で、ピーチクパーチクはそんな小鳥達がやかましくさえずるように、お前らもうるさいわボケ、という意味だ。どの種類の鳥がとかは関係無い。」


「そうなんだ!ダーリンは物知りね!」

「お前が知らなすぎるだけだ。変な知識だけはあるのにな。」


中庭に面した廊下から、中庭に立つ雑草女に声を掛ける。

雑草女は、女達が踏み潰した雑草の花を手に取り唇を当てる。


「……何をしている?汚いだろう。」


「唇を当てるのはキスじゃない?キスは親愛の表現でしょう?わたしは、この花を愛している。タンポポポと言うのよ…。」


「ポが多いわ。タンポポだ。アホ。」


喉の奥から笑いが込み上げる。クツクツと声を漏らしながら、私は私室に向かう。


魔界から来た魔物だろうが、何だろうが構わない。

あの女は面白い。

あの女の言動すべてが私には未知で、あの女のすべてを私は知りたい。


それこそ、あの女の身体を引き裂いてでも、肉体の内側の全ても見尽くしたい。本当に人間ではないのか?


私の所有物として、壊し尽くすまで……


「一年……以内にか。」


知的欲求と言うのか、知りたいが故にどす黒い感情が芽生えかけたが……どうやって?


そもそも雑草女、死なないし。

引き裂いてもクソも、攻撃一切効かないし。

遺体にして解剖。いや、そもそも死なないし。

なんだそりゃ。詰んでるじゃないか。


「あははははは!」


私室に着いた私は大声をあげて笑った。

この世に生まれてから、初めてかもしれない大笑いをした。





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