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雑草と戯れる少女。

私が初めて彼女の姿を認識したのは

彼女が庭の片隅に咲いた小さな雑草の花を手にし、それを愛しげに見詰めていた姿だった。

………くだらない物に、くだらない事をしている。


それが彼女の第一印象だった。





私は今、この世界に魔王と呼ばれて君臨している。


魔王と呼ばれてはいるが、あるかどうかも分からない魔界から来た者ではなく、普通の人間だ。


ただ膨大な魔力を持っており、その力を試したいが為に戯れに国をひとつずつ攻め落としていった。

私の生まれ育った国の王は、自国には強い魔導師が居るからと増長し、この私を自身の所有物のように言った。


私は国王を殺し、その国を自分の拠点として他の国々を攻め落としていった。


何か目的があった訳ではない。

私を殺し、止められる者が現れるならばそれでも良いと思っていた。


ただ、それが誰にも成し遂げられる事がなく、私は世界の国を全て攻め落としてしまい、この世界の頂点に君臨する存在となってしまった。


私は、何かが欲しくて国を攻め落とした訳ではないので、降伏した国々をそのまま放置している。


戦争により土地は荒れ、多くの者が死んだが、私の支配下にある国の民として、生き残った者達には今までと同じ生活をしてもらっている。


やがて、私に反旗を翻す者が現れるならば、それでも良い。


私の支配下に落ちた国々からは、忠誠と服従を誓う証として多くの宝飾品や、美姫が貢がれてくる。


全て興味が無い私は、宝飾品は回りの者にくれてやり、女達には私に自ら関わって来ないのであれば、好きにしろと言った。


女達は、私を色香で籠絡するよう言われた者や、閨を共にして私の命を狙うよう言われた者も居る事だろう。


だが私は女達に近付く事はなく、女達もどうしたら良いか分からないようだ。


美しく着飾り、離れた場所から声を掛けてくる者は無視をする。

私に触れようと、しなだれ掛かるように近付く者は怪我をしない程度に弾き飛ばした。


そんな女達の中では異色の存在の女がいた。


声を掛けて来るでもなく、私に近付く事もしない。

どの国から貢ぎものとして来たかも分からない。


そんな女が一人、雑草と戯れている。

頭がおかしいのだろうか。



全ての国を支配下に置いてしまい、する事が無くなった私は新しい魔法や、薬品を作る事にした。

どんな、何の為の、かは自分にも分からない。


ただただ…そうやって時間を費やしていく。



「陛下。」


今まで、多くの者に声を掛けられて来たが、私はそれらに反応した事は無かった。


此度、私が呼ばれて声のする方を向いてしまったのは

声を掛けて来たのが、雑草と戯れていた女だったからだ。


客観的に見て、私が拠点としている城の中に居る美姫達からは見劣りする外見。

地味…と言うのか、着飾るという事をしない。


己を知って、私に声を掛けて来ないのだと思っていた。


私の予想を外した彼女の行為に、私は少し興味がわく。


「……雑草。何の用だ。」


私は、この城に居る者の名前を誰一人知らない。

だから私は、彼女を雑草と呼んだ。


「素敵な名前を頂戴致しましたわ。」


女は満面の笑顔を浮かべる。

その表情は、嬉しいと言うよりは、皮肉を含んだ挑戦的な笑顔だった。

私は、私の中にある「女というものは」を少し外れた雑草女に僅かばかりの興味を持つ。


「わたしは、この場にある目的を持って参りました。その目的の為ならば、この地に骨を埋める覚悟で来たのです。」


この雑草女は…何を当たり前の事を言っているのだ。

私に貢ぎものとして差し出された女達は、それぞれが全て目的を持って私の元に寄越された筈だ。


私を籠絡するよう言われた者、暗殺するつもりで来た者、何かしらの情報を得る為に私に近付く者……。


自分だけが、違う存在かのように語る雑草女に侮蔑の眼差しを向ける。


「もういい、不愉快だ。私の前から消えろ。」


私は、雑草女に手の平を向け、衝撃波を放つ。

私に近付く鬱陶しい女達は、いつもこうやって弾き飛ばした。

怪我をさせて五月蝿くなるのも面倒なので、飛ばした後は空気のクッションに身体が落ちるようにしてある…のだが……


「……不愉快なのは、お互い様よね。」


雑草女は、私の放った衝撃波に耐えた。

いや、耐えられる筈がない…!

なぜ、よろめきもせずに立っていられる?


「わたしは、この地から起こったある事象の原因を改善、あるいは排除する為に来たの。その為に、時間を掛けてでも貴方に気に入られようと思って…従順な女を演じつつ、時間を掛けて貴方の好みを探ろうとかしていたのだけど……。」


雑草女の言う事の意味が分からない。

ある事象?原因?改善?……排除?

その為に私に気に入られたいと?

愚かな考えだ。


「期限付きになったみたい!わたし、一年しかここに居られないの!骨を埋める覚悟で来たのに!……腹立つわぁ…!」


私は、うるさい雑草女をもう一度弾き飛ばしてやろうと手の平を向ける。

雑草女は、私の差し出した手の平に、自身の手の平を合わせると交互に指を交差させ私の手を握った。


放った衝撃波が雑草女の手の平に吸い込まれるように消える。

どうなっている?彼女にも私と同じように強大な魔力があるとでも?


「もう、素のわたしでいる!一年間、わたしがこの地から消えるまで!わたしの憂さ晴らしに付き合って貰うわ!ちなみに先に言うけど、一年間はわたし、死ぬ事も出来ないから殺してしまおうとしても無駄よ?」


互いの手の平が合わさり、指を交差させた状態で手を握られたまま、雑草女が私に顔を近付ける。


他人の顔を、こんなに近くで見るのは初めてだ。

雑草女は、長い黒髪に青い瞳をしていた。


「憂さ晴らしに付き合えだと…?そんなくだらない事に一年も費やせるか。お前一人で勝手にしていろ。」


「貴方のせいだもの!責任とって貰わなきゃ!一年間、わたしがこの地で、恋人か、夫になったかも知れない貴方と、したい事をする!!」


………意味が分からない。恋人…では絶対に無い。

この城に居る女の誰一人とて、恋人にも妻にもする気は無い。


「それよりお前…衝撃波をどうやって消した?お前も私と同じだけの魔力を持っているのか?」


雑草女は笑っている。

今までの人生の中で見てきた笑顔の中では、初めて見るタイプの笑顔だ。


ニヤニヤとした……。


「それは簡単には教えてあげらんないわよ、ダーリン。」


ダーリン…?それは、愛する人を呼ぶ時の………ふざけた女だ。

私は雑草女の手を振りほどこうとするが、振り解く事が出来ない。強く握り締められた手の平が、じっとりと汗ばむ。


汗ばむ?……私は……焦っている……のか?

この女は、私を違う者に変えてしまおうとしている。

危険な存在かも知れない。

無抵抗で敵意の無い女を殺すのは忍びないが、私の存在を脅かす者だ。死んで貰おう。


雑草女の首を目掛けて、空気の刃を放つ。

首を切り落とすつもりで。


「だーかーらー死ねないんだってば。」


空気の刃は女の首に触れた瞬間、消失してしまった。


「な…!そんな馬鹿な事があるか!」

「お!初めて感情を出したわね!面白い面白い!そうでなくちゃね!」


生まれて初めてかも知れない驚きの声をあげた私は、一体どんな顔をしていたのだろう。

遠巻きに私達を見ていた、城の者達が目を見開いている。


「まずは仲良くお散歩しましょう!初めてだものね、城内の庭でも見て回りましょう!」


女は手を繋ぎ直す為に一度私の手を解放した。

私はすぐ、その場から離れようとしたが雑草女にすぐ、手を繋ぎ直された。


「馬鹿が!離せ!」


庭を見て歩いて何が得られるというのか。

私は、この国の国王を殺してこの城を奪ったが、庭を維持しよう等とは考えもしなかった。

庭は荒れ、雑草が生えまくっている。


「こんな荒れた雑草だらけの庭を見て、何が楽しい。」

「楽しいのよ!緑が美しいわ!その中に、ちらほら鮮やかな色が見えるじゃない?」


色が付いていようが無かろうが、それも雑草だ。

女は鮮やかな青い花を手に取った。

女の瞳と同じ、青い花。


「初めて本物を見たわ!何て可愛くてキレイな花!名前だけ残念だけど!」


女は繋いでいた手を、前後に揺らしながら弾んだ声をあげる。

お前はガキか!


…………自分の思考に少し驚いた。ガキ…なんて表現を口に出さなかったとは言え、自分が思ったりするとは…。


「……名前だけ残念……雑草であるという存在ではなく…か?」

「あら、興味持ってくれたの?嬉しいわ!」


女は前後に揺らしていた繋いだ手を一旦離し、すぐに腕を絡めて隣に寄り添うように立つ。


「な…!くっつくな!」

「大きな声じゃ言えない名前なんですよ、ダーリン。この花の名前はオオイヌノフグリと言いまして。」

「フグリ……まさか……」

「そうです、可憐な青い花を咲かせる、こいつの名前はデカイ犬のキ◯タマです。」


ブフオッ!!思い切り噴き出してしまった。

名も無い雑草だと、目にも留めなかった小さな花に、そんな名前があるとは…。


「笑えるでしょ!?本物は、こんなに美しいのにね!あははは!」


女は花と同じ青い瞳を細めて、大きな声を出して笑う。

私はつられるように口角を上げた。


「驚いたが、女が口にするような言葉じゃないな。」


私は笑った記憶が無い。笑いかたを知らない。

だが、喉の奥からこみ上げるようにクツクツと声が漏れる。


「驚いたのはわたしもだわ!まさか、貴方がそんな俗な言葉を知っていたなんて!キ◯タマ。」


再び噴き出してしまった。

何だ、この女は……。











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