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私はまた個展会場に来ていた。
今度は息子を連れずにだ。
私は誠一に会いたかったのだ。
「あのー」
見知らぬ女性に声をかけられた、どうやら係の人のようだが
「はい、何か」
「えー椎名さん、椎名清子さんですよね」
「そうですが」
何故か私の名前を知っているその人は
「今日は小田島に会いに来られたのでしょうか? 」
そんな事を聞いてきた。
前来た時にでも居たのだろうか?
そういえばあの時、名前を教えていた事を思い出す。
「まあそうですが」
「では、こちらに来てもらってもよろしいでしょうか」
私は言われるがまま、後をついて行く。
たどり着いたのは近くの喫茶店で、
ただ会いに来ただけなのになんだか悪いとは思いつつも、
何か特別な感じがして気分がいい。
「何か頼みますか? 」
私はお言葉に甘えて、ミルクティーを頼んだ。
そして、頼んだミルクティーが運ばれてくると同時に彼女は話し出す。
「その、今日はどうして来たんですか? 」
「どうしてって、絵を見にきたのよ、誠一の」
当然ではないか、何を急に言い出すんだこの女は。
「そうですか、それならいいんですが。
それで小田島には会わないでもらえませんか? 」
何故かそんな事を頼まれる。
「何でよ、あんたには関係ないでしょ」
どうして、私が誠一と会う事をこの女は嫌がるのだろう。
私は女を凝視する。
「私、誠一君と結婚するんです。 だから椎名さんには会って欲しくないんです」
突然の告白に私は驚くが
「何よそれ、そんな事関係ないじゃない。
どうして誠一に会うのがダメなのよ」
結婚とか、その事と私が誠一に会う事が何が関係するのか分からない。
「誠一君はずっと椎名さんの事が好きだったんです。
でも、椎名さんは江崎君たちと…その…付き合ってたじゃないですか。
それで、誠一君は傷ついて……それで」
話が急展開過ぎて分からない。
そもそもどうしてそんな事この女が知っているんだ。
「どうしてそれをアンタが知ってるのよ、
誠一がそんな事まで言ってたの! 」
「ち、違います! それは、誠一君はそんなことは」
慌てて否定する女、尚更分からない。
「じゃあどうして知ってるのよ! 」
「あの、私、林純子です」
「林? 」
何故か自己紹介をされる。
「はい、覚えていませんか? 同じ中学で、同じクラスだった事もあります」
私は思い返していた。
そう言えばいたような気もするが、はっきり思い出せない。
「だからって、会うくらい何だっていうのよ! 」
いろいろと面倒臭くなって怒鳴りつける。
「そりゃあ、椎名さんは綺麗で、みんなからチヤホヤされて
思い通りに生きて来た人達には分からないんです。
私みたいな地味な人間がやっとつかんだ幸せを
貴方達は簡単に壊していくんです」