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私の周りで、今日も息子が騒いでいる。
この狭い部屋の中を走り回り、薄い壁なんて気にせずに大きな声を上げる。
きっとまた文句を言わる、そんないつもの日常。
そして、いつもなら怒鳴りつけるのに、それすらもする気力が無い私。
どうして私はこんな事になっているのだろう?
ぼんやりとそんな事を考えていると、つけっぱなしのテレビから
聞き覚えのある名前が聞こえてきた。
「小田島誠一先生の個展は…… 」
テレビに映っているその人は私のよく知っている人物で
「嘘、いつの間に。そんな」
私はずっとテレビ画面を見ていた。
ビルのガラスで身だしなみを整えてから向かった個展会場。
初めて来る場所に息子は興奮して、当然のように騒ぐ。
失敗した。
周りの目が痛い。
ゆっくり絵を見るなんて事が出来る訳もなく、
息子を引っ張って出て来てしまったが、
それでもせっかく来たのだからと、係の人に誠一が居るのか訊いたら
今日は来ないという事だった。
それを聞いて私は名前を伝え、私が来た事を伝えてもらう事にした。