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魔女のロリポップ  作者: 紺野優月
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第2話 「仲」

チカはルナを家まで案内した。

チカの家は築20年ほどの小さな一軒家で、赤い屋根が印象的だ。

中に入るとそこには綺麗に整理された玄関が、さらに奥に進むと居間がある。十畳程の居間には壁に沿って薄型テレビが置かれ、その反対の壁には白いソファ。そしてその二つの間にちゃぶ台ほどの机がある、いたってノーマルなお部屋だ。

「チカ。」ルナが話しかける。

「私が言い出しておいてなんですが、初対面の相手を部屋に上がらせるのは警戒心がなさすぎですよ?」

「確かにね。だけど、あなたも魔女なんでしょう?きっと悪い人でないって分かるわ。それに…。」

「それに?」

「私は魔女について何も知らないの。自分が魔の者に狙われていて、それに対抗する手段がこのロリポップということくらいしか。」

オレンジ色の丸いロリポップをルナに見せる。

「取り敢えず改めて自己紹介しよう!」

「私はチカ。宮本チカ。自在に変形してくれるおっきな棒付きキャンディーが主な武器だよ。」

「私はルナよ。貴女のバディに…。」

そうじゃなくて!とチカは先ほど聞いた話を止める。

「その腰の銃とか気になる。」興味津々そうな顔でルナに問い詰める。怪訝そうな顔でルナは答える。

「…この銃は“ムーンリヴァー”。二丁でセットの魔力を発射するショットガンです。…む?」目を光らせながら自分を観察するチカにルナは気付いた。はぁ、とため息を吐きながら三日月型のイアリングを捻る。忽ちルナの体は光に包まれ、光が収まった頃にはそこには中学生の様な見た目の女の子がいた。

「か、かわいい!」一層目を輝かせたチカを見て、変身解除は悪手だったことを悟るルナ。黒髪で前髪を眉の辺りでぱっつん、変身前二つあったお団子は後頭部で一つ可愛らしく付いている。先程までは変身後の豪華な服装のため気付かなかったが、元の顔は整っておりチカ以外の誰が見ても可愛いと納得する容貌だった。

「ルナは中学生なの?」ルナの身長と着ている制服から推測するチカ。

「はい。近くの中学校に。」

それはそうと、とルナ。

「失礼ですが、ご両親は?」

「父さんは連日仕事で滅多に帰ってこないよ。母さんは…分からない、私が物心つく前から帰って来てないらしい。父さんに聞いても知らないとしか言ってくれなくて。」

「そうですか。やはり…。」

「やはり?」

「えぇ。魔女の力は突発的に現れる物ではありません。必ず両親のどちらかが力の血を受け継いでいるはずなんです。チカが魔女に関して無知でお母さんが居ないとなると、血を受け継いでいるのはお母さんの方だと思われます。」

「なるほど…。そうだったんだ。」

「魔女のことなら全員名簿で管理されていますから、あの方に会いに行きましょう。」

あの方?と聞き返すチカ。

「そう、この世の魔女を統べる魔女協会の会長の所へ。」

「そこに行けばチカの母さんのことが分かる筈です。」と続ける。その時玄関の扉が開く音がした。音を立てた主はそのままチカたちがいる居間へ入ってきた。

「よぉ。」ガラガラな声が部屋に響く。

「あ、父さん。おかえり。」

部屋に入ってきたのはチカの父であった。だらしなくメガネを掛け、少し太り気味の体にスーツを纏っている。

「ただいま。…ん、なんだい、お友達か。お前が家に友達呼ぶなんて久しぶりじゃあねぇか。」そうチカに言いながらルナの姿形を注意深く観察する。親子だなぁと思いながらルナはじっとしていた。

チカが喋りだす。

「ねぇ父さん、母さんのことなんだけど、本当に何か知らない?」

父はあからさまに不機嫌な顔をして答える。

「またそれか。母さんのことは本当に知らねぇ。…顔も、名前すらもな…。」隠してるわけじゃあないんだよ、と付け加える。

ルナが反応する。

「名前すらも?会ったことがないのですか?」

「いや違う。確かに俺は…。」言葉に詰まるチカの父。

チカが口を挟む。

「父さん、この子も私と同じ魔女だよ。母さんのこと、調べれば分かるかもしれないって…。」

「ちょっと!」ルナが焦ったように無理やりチカの話を止める。その時ルナはチカの頬を叩いてしまった。気まずい空気が流れる。

「…あ、ごめん…。」ルナが直ぐに謝る。

「…今日は帰ります。お邪魔しました。」走って家を出るルナ。

「ルナ!待って、何があったの?」どうして話を遮ったのか訊こうとしたチカだが、ルナはそのまま走り去っていった。

「とても大人びているけれど、やはり中学生だねえ。チカ、今日はもう遅い、追いかけて送ってやりなさい。」チカの父が言う。

「うん、ってあれ?ルナが中学生ってどうして知ってるの?」

「あー……見た目からかな?」

盗み聞きしてたんだな、とチカは察したが言及しないでおいた。

「じゃあ追いかけてくる!」

そして言葉を付け足す。

「あと…。」

数分後、気を落としながら街中を歩くルナをチカは見つけた。

「ルナ!」

声をかけられてルナは振り向く。

「チカ、ごめんなさい。いきなり出て行ってしまって…。あと、頬も。」

「ううん、大丈夫だよ。それより、どうして?」

ルナは俯きながら答える。

「魔女であることは誇りよ。だけど同時に、無闇矢鱈に他人に正体を明かすべきじゃない。」

ルナは続ける。

「レイカの事は、ごめんなさい。少し精神を魔法で弄ったわ。もう解けているころだと思う。彼女の魔女に関する記憶は残ってない。」

「つまり、父にルナの紹介をしたのが駄目だったってこと?」チカが確認する。

「えぇ。確かに魔女と関わりがある人だけれど、この御時世よっぽどの人じゃない限り魔女であることは隠した方がいい。」

ここでルナはある事を思い出す。

「そうだチカ、バディについてまだ何も話してなかったね。魔女協会に行って改めて詳しく話すよ。」この御時世にも関係がある話だからね、と付け加える。

それを聞いた途端チカは持ち前の好奇心を引っ張り出す。

「わかった!今から行こう。」

「ほ、本気?父親にはもう伝えてあるの?」

何日かは掛かるよ、と説明する。

「うん!さっき帰りはきっと遅くなるって伝えておいた!」

チカは楽しそうに言う。

「さあ、出発だ!」

「それよりも、ルナ、敬語じゃなくなってる。堅いのなんていいからさ、このままタメで話してよ。」

チカに指摘されてルナは顔を赤らめる。

「慣れないことはするものじゃないね…。」

「改めてよろしく、チカ。」

日はとっくに沈んでいたが、2人を照らす街灯が、その一帯だけ特に明るく灯している様に見えた。

ちょっと遅れてしまった…。

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