旅立ち
「バケノジョーよ、すまなかった。いままで、煙たがっていたからの」
「気にすんなって!その煙のお陰で、いいサンマが焼けたバケケ!」
「……」
ありゃりゃ!?なごませようとしたのに…ドンマイバケノジョー。
「そうだ。さっきのおいらのあの光は、なんじゃらほい?」
「ふむ、話す時が来たようじゃ。あれは、何年前じゃったかの」
村長、思い出して、思い出して!
あれは、百年前じゃったわしが、まだ現役のイケメンだった頃。
「ある嵐の夜に、一人の超美人のねーちゃんが、ヤミノモノに追われておったのを、ピチピチのわしが、バッタバッタとこらしめてな。
この子を、お願いしますと言って、わしが口説く前にドロンしたのじゃ」
じーさん、婆さんがにらんでるバケ。
「今、思えば女神様じゃったのかも…ムフフ……イテテ!」
だらしない顔をしてるから、婆さんに頬をつねられるバケ。ドンマイ!
「と、ともかく超美人が連れていたのが、お主じゃ!」
「いや~、それほどでも」
「そのお化けは、超明るくて、村のわしらまで明るくなって来てな。
ヤミノモノに見つかってはいかんと、暗いじめじめを、演じておったのじゃ」
バケノジョーの照れを、スルーして、そんなことを言う。
「でもそうか、おいらのために、演じておったのかバケ。
ありがとう、みんな…で、おいらの光については?」
「その感じからして、光の巫女に関する力かも、しれんのう」
何か、絵本で読んだ気がするな。ヤミノモノの王を封じたとか何とか。
思い出そうとするも、バケノジョーは、愉快なことを考えたりしてしまうので、頭の中はハッピー。
「…お兄ちゃん」
気まずそうなバケミ。そうか。本物の妹じゃなかったことを、黙ってたからな、気にしてるバケ。
「…お兄ちゃん、わたし」
「甘いなバケミ。おいらがそんなこと気にすると思っているのか?
ずっと、一緒に暮らしてたんだバケ。おいらたちは、家族バケ!」
「お兄ちゃん」
よいよい。泣くな妹よ。おいらたちは、幸せなんだから。
妹の頭を、なでなでして上げるバケ。
あら、アバレお化けも泣いているバケ。
「湿った話しより、明るく行くバケ!」
おいらのノリに、大抵な奴は、ついてくるバケ。
誰かが、ドンドコドンドコ、太鼓を叩く。
「ふぅ」
「ひゃっほう!」
今日は、朝まではしゃぐバケ。
なわとびしたり、キックベースをしたりして、
みんなと騒ぐのは、当分出来なくなるからな。
見上げた夜空は、いつの間にか星が瞬いていて、キレイバケ。
人魂のテンションが高い時見たいバケ。
そして、みんなが寝静まった丑三つ時。
バケノジョーは、静かに旅立とうとしていた。
妹の寝顔を見てると、小さい頃の思い出が、よみがえる。
黙って旅立つにーちゃんを、ゆるしてちょ。
バケノジョーの明るさ?光の力が、ヤミノモノをおびき寄せるから、ここにはいられない。
静かに躍りながら、村の出口へ行くと、あんれまあ!
みんなが先回りしてる。バレバレに苦笑する。
「やあみんな、うらめしや~」
「うらめしや…じゃなくて!お兄ちゃん、黙って行こうだなんて、分かりやすい!」
「まあ、それほとでもあるかな」
「ほめてない…てか、小刻みにリズムをきざまない!」
「えへへ」
照れてるバケノジョーに呆れながらも、みんなにねぎらいの言葉をかける。
ちなみに、うらめしやは、お化けにとってのあいさつバケ。
「お前との決着は、着いてないんだからな。ちゃんと、帰ってこいよ」
「バケノジョーよ、帰りを待っているぞ」
「村長、ありがとうバケ。みんなでまた、大玉転がしでもするバケ」
何を言ってるんだこいつ。そんな顔をする。
「みんな、いいお化けになれよ」
「お兄ちゃん、他人を振り回さないでねー!」
いやん、ブンブン、振り回しちゃうバケ。
こうしてバケノジョーは、特に悲しむでもなく、のんきに旅立った。
さて、ヤミノモノが、追っかけてこない場所はないだろうか。
ーつづくー