はじまり.3
そして、放課後。チャイムが鳴り一気に騒がしくなる。
私は、鞄を持ち、さりげなく教室から出ようとすると、つむじに袖を引かれた。
「な、なにかな、つむじ?」
「お掃除サボっては駄目なのです」
「……てへ」
ああ、駄目だ。猫のジッと見つめる視線には耐えられない。
それは、猫も猫族も変わらないのね。
「うー、やるよー」
「それでいいのです」
「……て、つむじはなんで、帰ろうとするかなー」
「あの、駄菓子屋のタイムセールがあるから、二人もサボっては、残る方が大変なのです」
「こら、つむじ!」
ミルクちゃんが、毛を逆立てるので、シュンとするつむじと一緒に、箒を取りに行く。
なにも警戒せずに、ロッカーを開けたら、なにか黒い影みたいなのが、逃げていった!?
「きゃ!?」
「なんですかいまの!?」
騒がしくしてると、ユウくんが駆け寄って来た。
「どうした?大丈夫か!?」
「う、うん」
今見たのを説明すると、顎に手をやり考えだす。
「音楽室に出たのと同じ奴か?」
鼻息の荒いブータくんが、鼻息でゴミを端っこに寄せている。まあ、器用だこと。
「見に言ってみる?」
「ハコちゃん…でも」
「大丈夫、みんなで行けば怖くないよ」
にっこりと言われると、断りづらいか。ハコちゃんには、怖いのバレバレだね。
「ならば、僕も行かないとね」
サトケンが、ぞうきんがけをするたび、マントがはためく。
「まあ、掃除してからにしよ?」
他の子達に申し訳無いもんね。
放課後。生徒がほとんど帰り、静けさが支配する。
音楽室は、四回にあるので、みんなで慎重に警戒しつつ上がる。
「聴こえないのです。しからば、早く駄菓子屋に行くのです」
「慌てなくても、駄菓子は逃げないにゃ」
つむじ、ごめんね。タイムセールなら、駄菓子も買い放題だもんね。
「……音なんか、聴こえないな」
ユウくんが、眉をひそめる。たったそれだけの仕草なのに、爽やか。リア充って、やっぱり違うよね。
「僕の腹時計の音だけなのてす」
つむじが、なぜか嬉しそうに言う。つむじ、食べるのが大好きだからな。
「ならば、僕のマントの音を……」
「サトケン、静かにして」
「ご、ごめん、ハコちゃん」
ドギマギして小さくなるサトケンは、マントとハコちゃんが好きなんだよね。
問題の音楽室に着いたけど、なにも聴こえないな?
「………」
「ユウくんどう?」
中を覗いて見てもらってるのだが、異常はない。
「あんたたち、なにしてるの!?」
いきなりの大声にびっくり!?振り返れば、そこには音楽の先生のノクターン=スティール先生。
昔は、プロを目指して、コンクールに何度も出てたと言う噂です。
スタイルバツグンのモデル体型。アタックして撃沈した教師は星の数ほどいるらしい。
「ノクターン先生、ごめんなさい」
「怒鳴られることしてないのです」
「……あ、いや、ごめんなさいね。最近、音楽室の変な噂で、イライラしてるの」
そう言って、苦笑すると、気をつけて帰りなさいねと、立ち去る。
あれ?なに、この違和感。これは、もしかして。
つづく