究極のゲーム『WPG』の、おまけのようなその2
WPGを体験した子供達とジョン・ハンター先生がアメリカ国防総省ペンタゴンに招かれたことがある。
子供達を記者とする疑似記者会見で、子供達がアメリカ国防総省の職員にした質問を紹介しよう。
「ナイジェリアの安全保障の問題は、アメリカの安全保障とどのような関わりがありますか?」
「ヨーロッパの累積責務危機に対して、大統領はどんな対策をとっていますか?」
「アルカイダによるアメリカへの攻撃にパキスタンが関係しているとしたら、アメリカはどうしますか?」
「もしイランが独自の核兵器を保有したら、サウジは自国も核兵器を保有する必要があると感じるでしょうか? それに対して大統領はどうするでしょうか?」
「メキシコの麻薬戦争は国防総省の軍事計画にどのように影響しますか?」
「アメリカはあらゆる代償を払ってでも中国から台湾を守るつもりがありますか?」
この質問をしたのは、九歳十歳の子供達である。
それもWPGを経験し、架空の世界の架空の国で、似たような問題を解決してきた政治の経験者達でもある。
自分を大人だと思う人達は、この子供達の質問に答えを出せるだろうか?
また、WPGに参加した中学生のレポートには。
『世界が抱える問題も、関係者の数も膨大ですが、基本的な仕組みは似ているように感じます。
自分の国の富のことだけでなく、力を合わせて全体の利益になるように解決すべき問題は山ほどあります。
全体最適を目指す方法として、過去に社会主義という壮大な実験がありましたが、結局は指導者や権力者が自己の個別最適を目指してしまい、体制が崩壊しています。
このように、実際の世界の問題を全体最適を実現しながら解決するのはそんなに簡単な問題ではなさそうです。たくさんの専門家が知恵を出し合って協力しなければなりません。
政治や経済の専門家だけでなく、例えば生物や、物理、芸術、文学など幅広い知恵を持つ人との協業が必要なのだと思います。加えて、世界中の叡智を集めるためには、文化や言語、宗教も異なる人との共創も大切です』
もうこの中学生に国会議員をやってもらってはどうだろうか?
個人的に現職の国会議員がWPGをプレイしたなら、どんな結果が出るのか見てみたい。
まさか、国会議員はみんなクビにして、WPG経験者の小中学生を国会議員にした方がマシというような結果が出たりしないだろうか?
WPGは2011年にドキュメンタリー映画が公開されたことがきっかけで広まった。
2014年秋にNHKスーパープレゼンテーションでも放送された。
『小学四年生の世界平和』の中で、度々出てくる言葉が『エンプティスペース』
直訳すれば何も無い空間。
空っぽで何も無いところでありながら、今はまだ見えないだけで、やがては発想と創造力で何かが産まれるのを待つ。その為の空っぽの場所、エンプティスペース。
このエンプティスペースこそが、子供の教育に必要なものである、と本には書かれている。
テストの答を子供に教えるのでは無く、エンプティスペースを子供に与えて、自由に埋めさせることが、これからの社会を担う子供に必要な教育だと、ジョン・ハンター先生は言う。
ジョン・ハンター先生は若い頃にインド、中国、日本を訪れ、仏教、道教、東洋哲学を学んでいる。
また、WPGには孫子の兵法が深く関わってできている。
このエンプティスペースの発案には、禅の無の境地とも繋がるものがあるのではないだろうか。
既存の解答に頼るのならば、知ってる人に聞く、調べて見つける、という手段でどうにかなる。
その答が未だに無い、現実にはまだ無い。
そんな未だに見えない解答を見つけるのが、現代人は下手くそになったのかもしれない。
地方の過疎化という新しい難題に挑んだ島根県海士町。
この海士町の役所の標語が、
『無いものは無い』
と、何も無いところからなんとかしよう、というものだった。今では人口の増える過疎地という、これまでに無かった政策に挑戦し、成功させた町と呼ばれている。
この海士町の標語とエンプティスペースには、何か繋がるものがあるのではないだろうか。
小島秀夫監督の最新作のゲーム
『DEATH STRANDING』
これまでに無い試みとして、見知らぬプレイヤーと繋がる要素がある。
ただ、自然が広がるだけの何も無い風景。
そこに谷を越えるハシゴを置いておけば、見知らぬ誰かが利用する。
移動に困るところを見てみれば、見知らぬ誰かの作ってくれた橋がある。
ハシゴを置いてくれた人、橋を作ってくれた人に、いいね!を送る。
何も無いところに、物を置く。橋を作る。道を作る。誰かの役に立つといい、という思い遣りで。
それを使った人は感謝を送る。それが人が繋がる新たな価値を作り出す。
『DEATH STRANDING』には、WPGとも、エンプティスペースとも繋がる何かを感じる、ような気がする。
子供達の英知を信じて、エンプティスペースを用意するだけで何も教えないことを重視するWPG。
ただ対応するための答を詰め込むのならば、AIの方が優秀だ。テストの答を教えるだけの教育でできるのは、既存の問題にしか答えられない人間。
未知の難問に挑む知的なスタミナを養うことこそが肝心。しかし、これを評価できる大人がいない。現行の社会ではこれは評価対象外だから。テストで採点できない分野だから。
無の境地とも繋がりそうなエンプティスペースが、遠く海を越えたアメリカで産まれ価値を見い出される。
グローバル化のおもしろいところがここにある。
『小学四年生の世界平和』
著者 ジョン・ハンター
角川書店