97話 今を形作るもの
「……っていうことがあったのよ」
一通りの話を終えたユリアは、ユスティーナたちの様子を見た。
三人共、すぐに言葉が出てこない様子で、とても複雑な表情を浮かべていた。
「アルト、そんな過去があったんだ……その人間に色々なこと学んで、そして、今があるんだね」
「どうして、あんなに心が強いのかちょっと不思議だったんだけど……納得したわ。全部、その師匠のおかげなのね」
「竜の扱いに長けているのも、納得ですわ。小さい頃から、竜に対する接し方を学んできたのですね。だから、きちんと心を通わせることができる」
「このことは内緒ね」
ユリアは唇に人差し指を当てた。
「私の場合は、アルト君が自慢するような形で色々と教えてくれたんだけど、他の人はあまり知らないことだから」
「アルトが自慢……」
「とてもじゃないけど、想像できないわ……」
「でも、自慢する子供のアルトさまは、それはそれで、とてもかわいらしいと思いますわ」
「あはは。うん、そうだね。確かに、子供の頃のアルト君はかわいかったよ」
当時を思い出すように、どこか懐かしい顔をしつつ、ユリアがコロコロと笑う。
そんなユリアを見て、女性陣三人は妙な焦りを覚えた。
ユリアは、アルトのことは好きではなくて、家族のようなものだと言う。
しかし、アルトの方はどうだろうか?
家族のように親しく……
それでいて、長い間、積み重ねてきたものがある。
もしもユリアがライバルになるとしたら、とんでもない強敵になるのでは?
「「「じー」」」
「えっと……もしかして私、疑われてる?」
コクコクと頷く女性陣三人に、ユリアは苦笑してしまう。
「うーん……本当のことを言うと、ちょっとは気になっているよ?」
「「「やっぱり!」」」
「でも、告白しようとか恋人になりたいとか、そういうことは考えていないかな」
どこか遠い目をして、ユリアは言葉を続ける。
「私じゃあ、アルト君と釣り合っていないから」
「そうかな? ユリアはすごく綺麗だと思うし、性格も良いよね」
「あたしが男なら、むしろ放っておかないかも」
「こんなことを言うのもアレですが、アルトさまも、多少は意識しているのではありませんか?」
「うーん、それはどうなんだろう? そうだとしたらうれしいけどね。でも、やっぱり、私は釣り合っていないと思うんだ」
アルトが村にいる間、一番親しくしていたのはユリアだ。
そのことについては、断言できた。
しかし、その後は?
アルトは隠していたみたいだが……
学院では辛い目に遭っていたと聞く。
その時、ユリアはなにをしていたか?
心配するだけで、なにもできなかった。
いや。
なにもしなかった。
その事実が、心に重くのしかかる。
アルトは、どんな時もまっすぐ前を向いて歩いている。
それに比べて、自分はどうだろう?
前を向いていると言えるだろうか?
正しいことをしていると言えるだろうか?
そう考えた時に、どうしても迷いを覚えてしまう。
ユリアはそう語り……
「だから、私はアルト君には釣り合わないの」
ユスティーナたちは、なにも言えなくなってしまう。
そんなことはないと思っている。
ユリアもまた、真面目すぎるところがあり……
その性格が、自分で自分の足を引っ張っているようにも感じた。
だからこそ、不用意なことは言えない。
ユリアもアルトと同じくらいに真面目で、まっすぐで……
それ故に、頑固者だ。
そんなユリアの考えは、他人が口を出した程度では変わらないだろう。
そうと決めた以上、そうであり続ける。
それが、ユリアという女の子なのだろう。
「……うん、わかったよ。ユリアが決めたことなら、ボクはなにも言わない」
「あたしも。ちょっと納得できないところはあるけど……でも、なんだかんだで、そういう問題はユリアが決めることだものね」
「ですが、もしも心変わりをしたのなら、いつでもおっしゃってください。その時は、良きライバルとして迎えますわ」
「ふふ、ありがとう」
――――――――――
ユスティーナたちの姿が見えないことに気がついて、軽く周囲を見回してみると、ユリアと一緒にいた。
なにやら四人で楽しそうに話をしている。
女の子だけの会話に参加しても大丈夫だろうか?
でも、これは女子会というわけではないし……
まあ、問題ないだろう。
そう判断して、ユスティーナたちのところへ移動する。
「ユスティーナ」
「あ、アルト!」
「こんばんは、アルト君」
「久しぶりだな、ユリア」
手紙のやりとりはしていたものの、直接顔を合わせるのは数ヶ月ぶりだ。
懐かしさから、自然と笑みがこぼれる。
「アルト君、背が伸びた?」
「あまり変わってないと思うが……」
「ううん、伸びたと思うよ。前はちょっと上だったけど、今は見上げないといけないからね」
「そういうユリアは綺麗になったな」
「な、なにを……」
「ああ、すまない。変な意味じゃないんだ。ただ、純粋にそう思っただけで」
「まったく……そういうことは、私じゃなくてエルトセルクさんたちに言ってあげれば?」
「……ユスティーナたちのこと、聞いたのか?」
「ふふっ、色々なお話をしたよ。例えば、アルト君についてとか……ね?」
ユリアが笑い、ユスティーナたちもにっこりと笑う。
いったい、どんな話をしたんだ……?
ユリアは幼馴染だから、俺についての色々な話を知っている。
恥ずかしい秘密を暴露されていたら……
くっ。
そうだと確定したわけじゃないのに、ものすごく恥ずかしくなってきた。
なにも見なかったことにして、早々に退散するべきか?
「ほら、アルト君も一緒にお話しよう?」
「いや、俺は……」
「久しぶりの再会なんだもの。変な遠慮なんてしないで、みんなで楽しく、いっぱいお話をしないとダメよ」
そう言われると、拒否することなんてできなかった。
仕方ないと諦めて、俺はみんなと一緒に過ごすことにした。
……ちなみに、ユスティーナたちがユリアとどんな話をしていたのか、それは最後まで教えてくれなかった。
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