表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
95/459

95話 アルトの昔話・その2

 幼い頃のアルトは、竜騎士によって命を救われた。

 そのことがきっかけとなり、自分も、誰かを助けられるような竜騎士になりたいと願うようになった。


 その日から、アルトは竜騎士になるための努力を始めた。

 面倒と思っていた勉強もしっかりと取り組むようになり、また、独自にトレーニングなどもするようになった。


 全ては、胸に抱いた夢と憧れを叶えるために。


 ただ、事が順調に運んだわけではない。

 田舎故に、どうしても勉学は遅れてしまう。

 まだ、体を鍛えるトレーニングも独学でしかないため、効率的な方法を選ぶことはできない。

 それでも、アルトは熱心に、一途に励み続けた。


 そして……

 ある日、運命の出会いを果たすことになる。


 それは、アルトが10歳の誕生日を迎えた日だった。

 自分の誕生日だというのに、その日も、アルトは朝からトレーニングに励んでいた。

 村の中をランニングして……

 それから、腕立て腹筋背筋などの筋力トレーニングを行う。


 体を鍛えるだけでは竜騎士になることはできない。

 戦うための技術が必要だし、もっと言えば、様々な知識も必要だ。

 しかし、子供故にそんなことはわからなくて、アルトはひたすらに体を鍛えていた。

 いつか、それが夢に繋がると信じて。


「よう」


 筋力トレーニングの2セット目に入ろうとした時、幼いアルトに声をかける者が現れた。


 アルトが顔を上げると、綺麗な女性がいた。

 細身で背が高く、凛とした顔つきをしている。

 女性特有の輪郭をしていながらも、眉がキリっとしているなど、どことなく男らしさも感じるという、どこか矛盾した雰囲気を持つ女性だ。


 女性はにかっと、晴れやかな笑みを浮かべながら、アルトに問いかける。


「ちと聞きたいことがあるんだが、いいか?」

「はい、どうぞ」

「宿を探してるんだが、知らねえか? この村に来るのは初めてなんだ」

「宿なら、ちょうど俺の家がやってますよ」

「おっ、マジか? いやー、ちょうどいいな。こんなことがあるなんて、やっぱり、日頃の行いがいいんだな」


 自分で言うか?

 アルトはそんなことを思いつつ、顔には出さず、言葉を続ける。


「よかったら、案内しましょうか? 小さな村ですけど、それ故に、案内がないと迷ってしまうかもしれないので」

「いいのか? じゃあ、遠慮なく頼もうかな」

「こっちです」


 アルトは女性を案内するために、先に歩き出した。

 その隣に女性が並ぶ。


「そういえば、まだ名乗ってなかったな。俺は、ランだ。よろしくな」

「アルト・エステニアです」

「へー、アルトか。良い名前だな」

「ありがとうございます」


 子供らしからぬ様子で、アルトは冷静に受け答えをする。

 この時から、すでにアルトはこんな感じであった。


 しかし、だからこそ、ランはアルトに興味を持った。

 子供とは思えないくらい落ち着いていて……

 しかも、なにやらトレーニングに励んでいるではないか。


 どんな子供なのだろう?

 疑問に思うまま、ランは尋ねる。


「さっき、アルトはなにをしてたんだ? 筋トレしてたように見えたが……」

「はい、その通りですよ」

「なんだって、そんなことを?」

「俺、竜騎士になりたいんです」

「……へー、竜騎士に」

「それで、そのための特訓を」


 サラリと言うアルトだけど、内心はビクビクしていた。


 竜騎士になると志して、そのことを家族や友達に話したことがある。

 しかし、誰にも本気にしてもらえなかった。


 大人には、子供の他愛のない話と片付けられてしまい……

 同世代の子供たちには、そんなの無理だと否定されてしまった。


 そんな経験があるために、アルトはランの反応が気になった。


「なるほどな……良い夢じゃねえか!」


 ランは笑うわけでもなく、適当にあしらうわけでもなく……

 心底感心した様子で、にっこりと気持ちのいい笑みを見せた。


「笑わないんですか?」

「あん? んなことするわけねえだろ」

「でも、俺は子供だから、竜騎士になれるわけがない……って」

「確かにアルトは子供だな。でも、男だ」

「あ……」

「男の夢を笑うなんてこと、できるわけねえよ。それに、俺は人を見る目はあるつもりでな。アルトはウソをついていないし、真剣に竜騎士になりてえと思ってる。それがわかる。だから、俺は応援するぜ」

「……ありがとうございます」


 初めて、自分の夢を認めてもらうことができた。

 そのことがとてもうれしく、アルトは涙さえ浮かべてしまうのだった。

 それに気づかないフリをして、ランは適当な話をした。




――――――――――




「よう」


 翌朝。

 アルトがいつものようにトレーニングに出かけようと外に出ると、そこにはランの姿があった。

 アルトを待っていたらしく、手招きをする。


「おはようございます」

「おう、おはよう。今日は良い天気だな」

「挨拶をするために、俺のことを?」

「いや、そんなんじゃねえさ。ちと、提案したいことがあってな」

「提案?」

「アルトは竜騎士になりたいんだろ? なら、俺の講義を受けないか? 実は俺、元竜騎士なんだよ」

「えっ!?」


 思わぬことを告げられて、アルトは、ついつい大きな声を出してしまう。


 まさか、憧れの竜騎士が目の前にいるなんて。

 普段は子供らしからぬ冷静なアルトではあるが、今この時ばかりは、年相応に興奮してはしゃいでしまう。


「本当ですか!? ランさんは、本当に竜騎士なんですか!?」

「元だけどな。本物だぜ。ほら」


 ランは懐から記章を取り出した。

 それは、竜騎士に就任した者に送られる記章だ。


「わあ……す、すごいです! 俺、本物の竜騎士と話をしているんですね!」

「いや、だから元だって言ってるだろ」


 ランは苦笑しつつ、話を続ける。


「で……アルトさえよけりゃ、講義をしてやろうかな、って。案内してもらった礼と、宿で世話になってる礼だ」

「いいんですか?」

「構わないさ。俺としても急ぐ旅でもないからな。ここらで、のんびり過ごすのも悪くない」

「じゃあ……お願いします!」

「おうっ」


 アルトはうれしそうにしつつ、その場で屈伸などをして、体をほぐし始めた。

 そんなアルトを不思議そうに見つつ、ランが宿に入ろうとする。


「なにしてんだ、お前?」

「え? 稽古をつけてもらえるんじゃないんですか?」

「ばーか。俺は、講義をしてやる、って言っただろ。人の話はちゃんと聞け」

「講義……ですか?」


 アルトは不思議そうな顔をした。


 竜騎士になるために知識がいらない、なんてことは思っていない。

 しかし、それはあくまでもオマケ的な要素で……

 魔物を打ち倒す力がなければ、竜騎士になることは叶わないのではないか?


 アルトはそう考えていた。

 しかし、そんな考えをランは否定する。


「強いに越したことはねーけどな。でも、それなら竜騎士である必要はねえんだよ。騎士なり冒険者なり、それらをやった方がいい」

「それは……そうかもしれないですね」

「お、今の話を理解するか。アルトは才能があるかもしれねーな」

「そうなんですか?」

「大抵のヤツは、力ばっか求めるからな。その他に目を向けねー。でも、竜騎士の場合はそれじゃあダメだ。力だけじゃなくて、竜のことを見ないといけない」

「竜を……?」

「そうだ。竜騎士は、俺ら人だけで完結しない。竜と共に歩まなくちゃいけねー。そこら辺をしっかりと心に叩き込んでおかねーと、良い竜騎士になることはできねーのさ」

「なる……ほど?」


 アルトは真面目に話を聞いて、その結果、軽く首を傾げた。

 ランの言うことは正しいように思えるが、ただ、なぜそう思うのか、過程が自分でも理解できない。

 なんとなく、そう思っただけなのだ。


 悩むアルトを見て、ランが笑う。


「ははっ、今は深く考えなくてもいいさ。その感覚を大事にすればいい。知識やら心構えは、アルトなら、後々で自然と身につくだろ」

「がんばります!」

「じゃ、さっそく講義をするか」

「はいっ、お願いします! 師匠!」

「師匠か……こそばゆいが、まあ、悪い気分じゃねえな」


 この日……

 アルトはランに弟子入りをした。

『よかった』『続きが気になる』など思っていただけたら、

評価やブックマークをしていただけると、すごくうれしいです。

よろしくおねがいします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
別の新作を書いてみました。
【堕ちた聖女は復讐の刃を胸に抱く】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。

【ネットゲームのオフ会をしたら小学生がやってきた。事案ですか……?】
こちらもよろしくお願いします。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ