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93話 シールロック

「……ごめんなさい」


 ユスティーナは頭を下げて、全身を縮こまらせて、ものすごく申し訳なさそうにしていた。

 ついでに言うと、耳が赤い。

 たぶん、申し訳なさと同時に、ものすごく恥ずかしい思いをしているのだろう。


 その理由は……


「はっはっは、まさか、竈の煙を見て焦るとはね」

「ふふっ、エルトセルクさんは、おっちょこちょいさんなのね」

「うぅ……」


 ユスティーナは、ますます恥ずかしそうになる。


「父さん、母さん。それくらいにしておいてくれ」

「ああ、すまんすまん」

「ついつい、ね」


 父さんと母さんは、茶目っけのある笑みを浮かべた。

 まったく。

 俺とは違い、二人共、ややいたずら癖があるからな。

 注意しておかないといけない。


「うぅ……まさか、竈の煙と火事の煙を間違えちゃうなんて……恥ずかしい」


 そうなのだ。

 ユスティーナが見た煙は、竈から出た煙で、家などが燃えていたわけじゃない。


 最初は魔物などの襲撃があったのかとヒヤヒヤしたが……

 ほどなくしてユスティーナの勘違いとわかり、安心した。


 ただ、考えてみれば、ユスティーナが勘違いするのも無理はない。

 王都などでは、火を起こすのに魔道具を使用しているが……

 シールロックのような辺境では、そういう魔道具は普及しておらず、釜戸などを使うしかない。

 ユスティーナは竜で、ましてや王都から出たことはないだろうし、勘違いしても仕方ないと言えた。


 なにはともあれ。


 ユスティーナの勘違いの後、我が家へ移動して、自己紹介をして……

 今に至る、というわけだ。


「それにしても、アルトが帰ってくるとは手紙で聞いていたが、これほどたくさんの友達を連れてくるとはな」

「しかも……ふふっ、こんなにかわいらしいお嬢さんたちも一緒なんて」


 母さんは、ユスティーナ、ノルン、ジニー、アレクシアの順に見て、なにやら意味深な笑みを浮かべた。

 きっと、あれこれと恋愛っぽいことを考えているのだろう。


 そういう関係では……いや、完全に否定することもできないか。

 彼女たちから好意を寄せられていることは事実で……

 照れ隠しにそれを否定するようなことはしたくない。


「まあ……母さんがなにを考えているか、その辺りについては黙秘とする」

「あらあら。じゃあ、後で根掘り葉掘り話を聞いても構わないのね?」

「……それは勘弁してほしい」


 昔から、母さんは「彼女はまだ? いつ紹介してくれるの?」なんてことを聞いてきたからな。

 俺のことを心配してくれているのだろうが……

 恥ずかしいのでやめてほしい。


 あと、下手したら、「孫はいつ?」なんてことを聞いてきそうだ。

 本気で勘弁してほしい。


「なにはともあれ……」


 仕切り直すように父さんが言う。


「よく帰ってきたな、アルト」

「元気なあなたの顔を見ることができて、うれしいわ」

「……ただいま」




――――――――――




 実家は宿をやっているため、みんながやってきても問題はない。

 一応、金は払うつもりでいたのだが……


「息子と、その友達から金を取れるわけがないだろう」


 と、断られてしまった。

 素直に甘えることにして、俺達はそれぞれの部屋に移動した。


 ちなみに、俺は客室ではなくて、自分の部屋だ。

 母さんが毎日掃除をしてくれていたらしく、長い間不在にしていたのだけど、隅々まで綺麗になっていた。

 感謝だ。


 そして……夜。


 母さんの手料理がふるまわれるのだけど……

 俺達だけじゃなくて、村中の人が宿に集まっていた。


「おう、本当にアルトじゃねえか! 久しぶりだな、おい。元気してたか?」

「おいおいおい、なんだよ、そのかわいい子たちは!? お前、まさか抜け駆けしたのか!?」

「えっ、アルト君の彼女なの? えー、ちょっとショックなんだけど……」


 入れ替わり立ち替わり、懐かしい顔がやってきて、色々な言葉をかけてくれる。

 村にいた頃の友達や知り合いだ。

 誰も彼も懐かしい。


 四ヶ月ほど離れていただけなのに……

 特に、ホームシックにかかっていたわけでもないのに……


 やはり、村のみんなと会うことができるのは、すごくうれしい。

 改めて、シールロックに帰ってきたんだな、と実感した。




――――――――――




 久しぶりの故郷を楽しみ、アルトはシールロックの村人と交友を深めていた。

 アルトも村人も、共に笑みを浮かべている。

 久しぶりの再会がうれしい、と表情で表している。


 ただ、喜び以外の感情を持つ村人もいた。


「へぇ、そうなんだ。アルト君も、色々とあったんだね」

「そうだな、色々とあったよ」

「ふふっ、男の顔をしているね」

「からかわないでくれ」

「本気なんだけどなー」


 村の女性は、わずかに頬を染めていた。

 それと、やや落ち着きのない様子を見せていた。


 ただ、それはほんの小さな違和感にすぎないため、アルトが気がつくことはない。

 気が付いているのは……ユスティーナたちだった。


「むぅ……あれって、どうみてもアルトに気があるよね?」

「そうですわね……私たちと同じ、恋する乙女の目をしていますわ」

「アルト君、故郷だと、かなりモテているみたいね……」


 ユスティーナ、アレクシア、ジニーの三人が、ちょっと離れたところからアルトの様子を観察していた。

 いけないとわかりつつも、止められない。

 恋する乙女は、時折、暴走してしまうものなのだ。


 ……ちなみに、ノルンは幸せそうな顔をして、アルトの母が作る料理を頬いっぱいにして食べていた。

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
別の新作を書いてみました。
【堕ちた聖女は復讐の刃を胸に抱く】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。

【ネットゲームのオフ会をしたら小学生がやってきた。事案ですか……?】
こちらもよろしくお願いします。
― 新着の感想 ―
[良い点] まさに『田舎あるある』が凝縮したような展開でした(笑) [気になる点] 村のアノ娘は…さすがにアルト争奪戦には参加しない…だろう…と思うケド…ウ~ン… [一言] さぁ…問題が発生するのは故…
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