92話 消えない悪意
「……ゼノとザラクが失敗したみたいだな。どうする? 聖騎士も絡んでいるため、釈放させるとなると、かなり面倒になるが……」
「時間はかかっても、助けるべきですよ。彼らは、我々の同胞なのですから」
王都アルモート。
その場末にある酒場で、二人の男が密談を交わしていた。
二人は共に、これといって特徴のない顔、服装をしていた。
だからこそ、誰も気にすることはない。
不審に思うことはない。
昼間とはいえ、堂々とすることで、人々の目をうまく欺いていた。
そこに、一人の乱入者が現れる。
12歳くらいにしか見えない子供が、彼らと同じテーブルに着く。
「君たちさぁ、ゼノとザラクなんかのことを話してるの? 無駄無駄。そんな話をしても、ぜーんぶ無駄。失敗したヤツのことなんて、気にする必要ないじゃん」
子供でありながら、二人の大人にタメ口……いや、それ以上の横柄な口を効いていた。
そのことに、彼らは不愉快そうな顔はせず……
むしろ、かしこまった様子で応対する。
「だが、彼らは同胞だ。見捨てるなどということは……」
「見捨てろなんてこと、僕も言わないさ。でもさー、厄介なんでしょ? なら、後回しにした方がよくない。僕、間違ったこと言ってないよね?」
「しかし、後回しにするということは、先にやらなければいけないことがあるのですか?」
「はぁ……当たり前でしょ。あるに決まってるでしょ。というか、それくらい、自分で気がついてよ。だから、君らはいつまで経っても幹部になれないんだよ」
子供の言葉に、二人の大人は苦い顔をした。
「……我々のところへ赴いたのは、次にやるべきことに参加しろと?」
「それくらいは察することができるんだ。ま、そういうことかな」
「いったい、なにを考えているのですか?」
子供はにっこりと笑い……
狂気の笑みを携えながら、言葉を紡ぐ。
「竜騎士学院を襲撃するのさ」
――――――――――
ガラガラガラと馬車の車輪が回る音がする。
それに合わせて、荷台が不定期にカタカタと揺れる。
石を踏んだり、地面の段差に引っかかっているのだろう。
馬車の窓から見える風景は、ゆっくりと横に流れていて、温かい陽が降り注いている。
そんな風に馬車に揺られながら、俺は空を眺めていた。
「……ふう」
考えることは、コルシアで遭遇した事件のこと。
ゼノとザラク……竜の排斥を謳うカルト集団のことだ。
人と竜は手を取り合ったものの、問題がまったくなかったというわけじゃない。
小さな衝突は度々起きているし……
時に、武力を伴う衝突に発展したことがある。
しかし、今回のような事件は稀だ。
竜を排除するために、あんな事件を起こすなんて……
いきすぎている。
狂っている。
過去に、似たようなカルト集団が暗躍したことはあるが、今回ほどの規模のものはない。
ここまでの大規模な事件は、今回が初めてだ。
なにか、よからぬ意思が、水面下で暗躍している。
そして、それはいつ表面に出てくるかわからず、虎視眈々と災厄を撒き散らす機会を伺っているような……そんな気がした。
俺は、まだ見習いの竜騎士だ。
俺にできることは少ないかもしれない。
それでも、気をつけていこうと思う。
連中がなにを企んでいるか、それはわからないが……
思い通りにさせるようなことはしない。
できる限りの力で、立ち向かっていきたいと思う。
「アールート!」
「あうっ」
突然、ユスティーナが抱きついてきた。
それを真似したノルンも抱きついてきた。
「どうしたんだ?」
「特に意味はないんだけどね。なんとなく、こうしたい気分だったんだ」
「あう!」
その通り、というようにノルンが頷いた。
二人共、俺がカルト集団のことで頭を悩ませていることに、気づいているのかもしれない。
それで、俺の気を紛らわすために、こうしているとか。
そんな気がした。
カルト集団のことは気になるが……
二人に心配をかけるのも申し訳ないし、答えの出ないことをいつまでも考えていても仕方ない。
今は情報が足りない。
ひとまず、頭の隅に追いやるとして……
今は素直に、夏休みの旅行を楽しむことにしよう。
「もうすぐ、アルトさまの故郷なのですね」
「シールロック、だっけ? あたしは行ったことないんだけど、のどかなところなのよね」
「ふふっ、楽しみですわ」
アレクシアとジニーは、あれこれと想像しているらしく、にこにこ笑顔だ。
期待させておいて申し訳ないが、シールロックは本当になにもないところだ。
がっかりしないといいのだけど……
「シールロックに行くのは久しぶりだ。楽しみだね」
「そういえば、テオドールは行ったことがあるんだったか」
「うむ。見識を広めるために、両親の仕事に同行していてね。そこで、たまたまシールロックに立ち寄ったことがあるのだよ」
「なあなあ、どういうところなんだ?」
「ふむ、一言で言うのなら……自然を楽しむことができる村だな。コルシアのような観光施設はないが、その代わりに、自然があふれている。あれは、他ではなかなか見られないと思うよ」
「へー、そう言われると興味が出てくるな」
「俺が言うのもなんだけど、良いところだ」
もうすぐ、故郷に到着する。
両親や故郷の友達に会える。
手紙のやりとりはしていたものの……
学院に入学してからは、一度も顔を見せていない。
約四ヶ月ぶりの再会だ。
そのことを思うと、ますます楽しみになってきた。
「アルト、楽しそうだね?」
「わかるのか?」
「もちろん。だって、大好きなアルトのことだもん!」
「あうっ」
ユスティーナが再び抱きついてきた。
それを見たノルンが、以下同文。
「あっ、でもでも、ちょっと緊張してきたかも」
「なんで緊張するんだ?」
「だってだって、アルトの故郷っていうことは、アルトのお父さんとお母さんに会うんだよね!? ボク、失礼しちゃったりしないかな? 塩撒かれたりしないかな? ウチの息子は竜なんかにはやらん、とか言われたり……あうあう」
「あぅ~」
ユスティーナが慌てて……
それを見たノルンも慌てて、軽いパニックが起きていた。
「大丈夫だ。父さんも母さんもそんなことを言う人じゃない。普通に歓迎してくれると思うし……たぶん、ユスティーナやノルンなら、実の娘のように思ってくれるはずだ。二人共、娘が欲しいとか言っていたからな」
「だとしたら、いいな……うーん、やっぱり、ちょっと楽しみになってきたかも! まだかなー?」
ユスティーナは身を乗り出すようにして、馬車の外を見た。
足をパタパタと揺らして、楽しそうにしている。
そんなユスティーナの真似をするように、ノルンも足をパタパタさせる。
先の事件で、ユスティーナがノルンのためにがんばったことが伝わったらしく……
俺と同じように、ユスティーナにも強く懐いていた。
「あっ!?」
突然、ユスティーナが大きな声をあげる。
「アルトっ、大変だよ! 村から煙が!?」
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