91話 かくして一つの事件は終わる
「なっ……!?」
ノルンと、誘拐されていた子供たちが現れて、ザラクは今までにないほどに動揺した。
それはそうだろう。
魂を抜き取り、元に戻す方法を知らないはずの俺たちが、ノルンたちを元に戻しているのだから。
うまく元に戻すことができた鍵は、ノルンだ。
ゼノを倒して、ザラクとの話を終えた後……
その場にノルンの魂が現れたのだ。
勝手に拘束を抜け出して、一人、俺を追いかけて飛んできたらしい。
色々と規格外であり、常識が通用していないが、竜ということなら納得だ。
肉体だけではなくて、魂の強度も桁違いなのだろう。
ただ、さすがのノルンも、どのようにして自分の体に戻ればいいかわからず、途方に暮れるように俺の周りをふわふわと浮いていた。
それを見た俺は、とあることを閃いた。
ククルの力を借りるのだ。
正確に言うと、ククルが使っていた、聖騎士だけが使える魔法だ。
あの魔法は、対象の体、心、魂を固定するものだと聞いた。
ならば、それを応用することで、抜け出た魂を元の肉体に固定する……元に戻すことができるのではないか? と考えたわけだ。
賭けとなる部分もあったが……
結果、見事に成功した。
そして今に至る……というわけだ。
「そんな、これは……いったい、どうやって?」
「その、どうやって、というのはどういう意味だ? 普通に考えるなら、どうしてノルンたちが元に戻っている……あるいは、どのようにして元に戻したのか。という風になるが、それで間違いないか?」
「くっ……し、知らないな。いったい、なにを言っているのか……」
「苦しい言い逃れは、それくらいにしてもらおうか。ノルンたちが、あんたを犯行現場で見かけたという証言をしているんだ。そうだよな?」
「あう!」
ノルンと、他の子供たちが一斉に頷いた。
誘拐されたせいか、子供たちは恐怖の色を瞳に浮かべているが……
それでも、逃げることなく、ザラクが犯人だと証言をしてくれている。
そんな子供たちの勇気に、しっかりと応えないといけない。
ザラクは、今日ここで捕まえる。
そして、好き勝手してきたツケを払わせてやる。
「仲間のことが気になったのか、あるいは、実験の進捗具合を確認したかったのか……どちらにしても、あの施設に足を運んだのは間違いだったな。子供たちは、しっかりと覚えていたよ」
「くっ……」
「お前からしたら、子供たちを解放するつもりはなくて、顔を見せても問題ないと思っていたのかもしれないが……残念。そういう慢心が、このような事態を招く」
「子供の証言など、そんなものを信じるなんて……」
「確かに、子供の証言は弱い。ただ、これだけの人数が口を揃えて、お前が犯人だと言うんだ。それならば、証言として十分だと思わないか?」
記憶力や認識能力の問題で、子供の証言能力はやや弱いとされている。
ただ、何人もが同じ証言をすれば?
さらに、そこに竜も加われば?
証拠としては十分すぎるほどだ。
だからこそ、この街の憲兵隊を動かすことができた。
領主の館に乗り込むなんていう、強制的な執行に乗り出すことができた。
「コルシアの領主、ザラク・ハンフリーズ」
ククルが一歩前に出て、憲兵隊から借りたであろう、普通サイズの剣を抜いて、ザラクに突きつけた。
さすがに、愛用の巨大な剣をこんなところで抜くわけにはいかないのだろう。
「あなたを逮捕するのであります!」
ククルの宣言に合わせて、憲兵隊たちが部屋になだれ込んだ。
ザラクの周囲を囲み、逃げ場をなくす。
「……」
ザラクは忌々しそうに、俺とククルと交互に睨みつけた。
ジリジリと、わずかに後退する。
これが物語ならば、ザラクが奥の手を用意していて、最後に一暴れをしたり……
あるいは、隠し通路が開いて逃走を測るところだろう。
ただ、そういうものはないのは、事前の調査によって明らかになっている。
そうでなければ、子供たちを連れて突入なんて真似はしない。
危険がないと判断したからこその行動なのだ。
「……投降しよう」
ザラクは力なくうなだれて、おとなしく両手をあげた。
――――――――――
ザラクは憲兵隊の詰め所に連行されて、そこで取り調べを受けることになった。
当初は固く口を閉ざしていたものの、ゼノの安全をちらつかせると、素直に質問に答えるようになったという。
やや卑怯な方法かもしれないが、テロリストを相手に手段なんて選んでいない。
他の仲間が潜んでいないとも限らないし、早急に情報を得る必要がある。
事件に関しては、しばらくの間、伏せられることになった。
領主がカルト集団に属していたなんてことが公になれば、人々は大きく動揺するだろう。
それと、コルシアの観光地としての価値が下がる。
そのような色々な思惑が重なり、後任が決まるまでは、伏せられることになったのだ。
当然、俺たちにも箝口令が敷かれた。
ユスティーナは、今回の事件を解決したことを誇りたいという気持ちがあったらしいが……
俺としては、連中が罰を受けるのならば、それ以上に望むことはない。
グランなどは、犯人が領主ということで、捜査に甘えが入るのではないか? という心配をしていたみたいだが……
それは無用な心配だろう。
アレクシアとテオドールが、家の名前に賭けて、そんなことはさせないと言っているし……
なによりも、今回の事件、ククルが関わっている。
他国の人……しかも、相手は聖騎士だ。
そんな者の前で不正なんて働けば、国の威信に関わる。
最悪、国家間の問題に発展しかねない。
故に、不正などは働かないだろう、と考えている。
俺たちは、安心してこの街を後にできる、というわけだ。
ただ、謎は残る。
ゼノが使用していた外法は、竜が関係しているはずだ。
その外法を、どうしてゼノが使えるのか?
今後の取り調べに期待するしかないが……
ククルの話によると、ゼノは口が固く、どんなことをしても話さないだろうとのこと。
知りたいのなら、自力で調べるしかないということだ。
まあ、今は保留にしておこう。
さすがに、色々とありすぎて疲れた。
少し休みたい。
そして……
コルシアを出る日が訪れた。
――――――――
「色々とお世話になったのであります」
「それは、こちらの台詞だ」
街の入り口で、ククルと言葉を交わし、握手を交わした。
彼女は、まだこの街に滞在する。
一連の事件の事後処理が一日で終わるはずもなく、その作業に追われているらしい。
その忙しい合間を縫って、こうして見送りに来てくれている。
本来、ククルはフィリアの者なので、事後処理に関わる必要はない。
ただ、聖騎士として途中で放り出すようなことはできないと、積極的に手伝いを申し出たらしい。
ならば俺たちも、と思ったけれど……
それは申し訳ないと、ククル本人に断られてしまった。
実際、時間がないというのもあるが……
そもそも、事後処理のような地道な捜査は経験者しかできない。
俺たちがいても足手まといになるだけだと思い、ククルの厚意に素直に甘えておくことにした。
「みなさんは、この後はどちらへ? 王都へ戻るのですか?」
「シールロックに行こうと思っている」
「シールロック……確か、小さな村でありますな?」
ククルは、どうしてそのようなところへ? と不思議そうな顔をした。
特に隠しておくようなことではないので、説明をする。
「シールロックは俺の故郷なんだ。だから、休みの間に里帰りをしておこうと思って」
「なるほど、そうでありましたか!」
「なにもないところだけど、でも、穏やかな良いところなんだ。フィリアの帰り道にあるから、良かったら寄っていってほしい」
「わかりました。機会があれば、エステニア殿の故郷を拝見させていただくのであります」
そろそろ時間だ。
シールロックの行きの馬車が出発してしまう。
せっかく知り合えたのに、これでお別れというのは寂しいが……
仕方ない。
それに、一生の別れというわけではないからな。
「それじゃあ……」
「あ、その前に、一つお願いがあるのですが」
「うん?」
「えっと……エステニア殿のことを、名前で呼んでもいいですか?」
「そんなことか。もちろん」
「ありがとうであります! あと、できれば自分のことも、名前で呼んでいただけると幸いです」
「ククル」
「アルト殿」
互いに名前を呼んで……
それから、ちょっと照れくさくなり、意味もなく笑う。
「こそばゆいでありますね」
「でも、悪くない」
「はい!」
もう一度、ククルと握手を交わした。
「では……」
「ああ」
「またであります、アルト殿!」
「またな、ククル」
再会を約束して……
俺はククルと別れて、コルシアを後にした。
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