90話 いざ黒幕の元へ
「あんたがどこの誰で、どんなことを企んでいるかなんて、まるで興味ないし知らないけどね! でもでも、そんなもの、アルトが打ち砕くからね!」
「そうですわ! こちらには、アルトさまがいらっしゃるのですから。どんな悪事も、アルトさまが暴いてくれます!」
いや、待て。
そこまで強い信頼を向けられても、対応に困るのだが……
もちろん、もう一人の黒幕を逃がすつもりはない。
ただ、絶対とは言い切れないし、俺も失敗することはある……というか、ざらだ。
とはいえ、だ。
ここまで強く信頼されているのだから、それに応えたいと思う。
それが男、っていうものだろう。
「ユスティーナとアレクシアの言う通り、こちらこそ、お前を逃がすつもりはない。テンプレートな台詞ではあるが、首を洗って待っていろ」
「くははっ、楽しみにしているよ」
悪意が消える。
どんな方法を使っていたかわらかないが、通話は終わりらしい。
「あーもうっ、なんかムカツクやつなんだけど! 笑い方とか話し方とか、いちいち勘に触る! むかー!」
「同感ですわ! あの方、完全にアルトさまを見下していましたわ。見下されるべきなのは、どちらなのか……きっちりと話をつけないといけませんね!」
ユスティーナとアレクシアが、よくわからない方向で怒っていた。
気持ちはわからないでもないが、少し落ち着いてほしい。
ヤツを見つけて、捕まえることは必須だ。
しかし今は、他にやらなくてはいけないことがある。
「アルト、これからどうしようか? もちろん、今のふざけた人間は絶対におしおきするけど……」
ユスティーナは、自分の手に視線を落とした。
そこには、しっかりと掴まえられて逃げられないでいるゼノの魂が。
「これ、どうしようか? ぷち、っと潰しちゃう?」
「さすがに、それはダメだ。コイツは法で裁かれるべきであって、俺たちが私刑にするわけにはいかない」
「うーん、わかるんだけどね。でもでも、人間って面倒だなあ」
「堪えてくれ。ユスティーナからしたら面倒かもしれないが、ただ、そういう風にして人は今まで生きてきて、学んできたんだから」
「うん、わかったよ。アルトがそう言うのなら」
「ひとまず、子供たちのことをなんとかしなければいけないのであります」
「ああ、その通りだ。ノルンのこともある」
まずは、ノルンや子供たちをなんとかしなければいけない。
それから、コルシアで暗躍していた、ゼノの相棒の逮捕。
それは誰なのか?
もう大体の検討はついている。
「そのためには……ん?」
そこまで話したところで、俺は、こちらに勢いよく飛んでくる光の球に気がついた。
――――――――――
初老の男の名前は、ザラク・ハンフリーズという。
その身分は、コルシアの街の領主だ。
ザラクは、元はただの平民だ。
権力を持たず、普通の暮らしを送っていた。
そんな彼の人生が変わったのは、妻と結婚した時のことだ。
それまでのザラクは、平々凡々と生きてきたため、特にコレといった宝物を持たずにいた。
強いて挙げるならば、生きていくための金が宝ということか。
そんなザラクではあるが、妻になる女性と出会い、結婚することで、宝物を得た。
ありきたりな答えになるが、妻が宝物になったのだ。
ザラクは幸せになった。
しかし、幸せになるということは、幸せであることを失う可能性も得たということだ。
結婚して1年が経ち、ザラクは幸せな日々を過ごしていた。
しかし、そこが人生の絶頂だった。
突如、妻が病に倒れたのだ。
その後、竜を媒介とする特殊な病と判明した。
ザラクの妻は、国の支援を受けて、最大級の治療を受けた。
しかし、その甲斐なく他界してしまう。
幸せの絶頂から絶望の底に叩き落されたザラクは、妻の死を嘆いて、そして……悟る。
竜が妻を奪ったのだと。
竜がいなければ、妻が死ぬことはなかったのだと。
そして……ザラクは、竜の排斥を謳うカルト集団の仲間となった。
彼は狡猾だった。
幼稚なデモ活動を行うことはなく、また、無意味な犯罪行為に走ることもしない。
己を磨いて、鍛えて……
国の役人になった。
そこで足を止めることなく、さらに勤勉に働いた。
そうすることで、前コルシア領主の目に止まることになった。
そして、後を継いでほしいと言われるほどの信頼を勝ち取り……今に至る。
ザラクの目的は、国の内部に潜り込むこと。
また、その権力を使い、同胞を密かに助けること。
その二つだ。
今の権力を手に入れるまで、数十年の歳月を費やすことになったが、彼は後悔していない。
妻の仇を討つことができる。
憎き竜を排除することができる。
その想い……いや、執念だけがザラクを突き動かしていた。
「ようやく、今の地位を得ることができた。今まで以上に、大きく深く活動することができる。それだというのに……やれやれ、まいったな。面倒な相手がやってきたものだ」
竜の王女と、神の加護を受けた聖騎士。
当初は、自分達の計画を加速できるのではないかと喜んだが……
思っていた以上に手強い相手だった。
計画が打ち崩されてしまい、同胞が捕まってしまった。
「しかし、問題はないか」
自分は領主で、権力がある。
少々、遠回りな手段を使うことになってしまうが、同胞を釈放させることはできる。
一度、捕まってはしまうが、それは仕方ない。
また、正体もバレていない。
尻尾も掴ませていないという自信がある。
相手はなにも知らない。
所詮、知恵の回らない子供だ。
一度、時間を空けて……
なにもないだろう、ハッタリだったのだろうと油断したところを、一気に刺してしまえばいい。
ザラクは、そんな風に考えをまとめた。
しかし……それが計算違いであること、思い上がりであることを、すぐに思い知ることになる。
「し、失礼しますっ!」
ザラクのいる執務室に、警備の兵が駆け込んできた。
ノックをするのも忘れてしまうくらいに慌てている。
「どうしたんだい?」
警備の兵の無作法に眉をひそめつつ、ザラクは冷静に問いかけた。
「そ、その……憲兵隊が……」
「憲兵隊? 彼らがどうかしたのかな?」
「えっと、その……」
口ごもり、肝心なことを言わない警備の兵に、ザラクは苛立ちを覚えた。
口調を荒くして問いかけようとするが、
「代わりに、俺たちが告げようか」
「ザラク・ハンフリーズ。あなたを、誘拐の共犯、及び、禁忌魔法の着手、及び、公務執行妨害の容疑で逮捕するのであります!」
――――――――――
「なっ……!?」
俺たちが領主の館に突入すると、ザラクは……今回の事件のもう一人の黒幕は、驚きを隠せない様子で目を大きくしていた。
その手から、ぽろりとペンが滑り落ちる。
床に落ちたペンは、やけに大きな音を立てて、転がった。
「ど、どういうことだ……なぜ、お前たちがここに!?」
「いいのか? そんなに動揺したら、自分が犯人と告げているようなものだぞ」
「くっ……」
……などということを口にするが、今更の話だ。
俺たちは、コルシアの領主……ザラク・ハンフリーズがもう一人の黒幕という確信を得て、動いている。
でなければ、憲兵隊を伴い、領主の館に突入するなんてことはできない。
「……いったい、なんのことかな? 事情が飲み込めない。説明してくれないか?」
ザラクはしらばっくれる。
ここにきて、まだごまかせると思っているのだろうか?
なら、その甘い考えを打ち砕いてやる。
「あんたが犯人だという証拠は3つある。まず最初に、犯行に使用されていた、旧避難所の所有権だ。あんたがここの権利者になっている」
所有権を調べるのは、多少難航したけれど……
ククルががんばってくれたおかげで、数時間で調べることができた。
「次の証拠は、これらの命令書だ」
「それは……」
ザラクの直筆のサインが記された、外法に関する資料請求書だ。
外法の内容は、魂の移動など。
これを偶然と言い張るのは、かなり厳しいのだけど……
「それがどうした? どれも状況証拠のみで、私が関わっているという決定的な証拠にはならないね。そんなもので、こんなことをしたのかな? だとしたら、残念だ。君たち全員、タダで済むと思わない方がいい」
「慌てるな。証拠は3つあると言っただろう?」
「……」
「最後の証拠は……証言だ」
「証言だと? はっ、証人がいるというのなら、連れてきてもらおうか」
ザラクは鼻で笑う。
ゼノが裏切るわけがないと思っているのだろう。
それと、被害者である子供たちは魂が抜けているため、そんなことは不可能だと思っているのだろう。
でも、そんな考えは甘い。
「ノルン、おいで」
「あうっ!」
俺の声に反応して、ノルンが部屋に入ってきた。
さらに、その後ろに、誘拐された子供たちが続く。
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