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88話 形勢逆転

 ユスティーナとククルの同時攻撃が決まる。

 これにはさすがのゼノも、たまらずに地面に膝をついた。


 少しやりすぎてしまったかもしれないが……

 それでも、これでゼノの動きを止めることができた。

 あとは、このまま拘束して、ノルンを元に戻せばいい。


「終わりだ」

「くっ……!」


 喉に槍の矛先を突きつけると、ゼノは悔しそうにうめいた。

 こちらを睨みつけてくるが、体に力は入らないらしく、動けないでいた。


「おとなしくしてもらうのであります」

「ノルンや子供たちを元に戻す方法、教えてもらうからね」


 ユスティーナとククルも左右を固めて、ゼノの逃げ道を封じた。


 ゼノはうなだれる。

 諦めたのだろうか?

 いや、これは……


「く……くくくっ」


 ゼノが笑う。

 こんなことで、こんなところで終わるわけがないと、嗤う。


「このようなことで僕を追いつめたと、思わないでいただきたいですね」

「……現実が見えていないのか? お前はもう動けない。俺たちに捕縛されるだけだ」

「無駄な悪あがきはよすのであります」

「ノルンの体を人質にするとか、そういうふざけたこともしないでよ? そんなことをしたら、生まれてきたことを後悔させてあげるから」


 ユスティーナは、さらっと物騒なことを口にしていた。

 とはいえ、その怒りも理解できなくはない。

 仲間である竜が傷つけられたのだ。

 竜は仲間意識が非常に強いため、その怒りは理解できる。


「この体を人質に? ははっ、そんな馬鹿なことはしませんよ。この体は、まだまだ使い道がある。この僕が、有用に使ってみせますよ。例えば……こんな風にね!」

「っ!?」


 ゾクリと背中が震えた。


 ゼノから、今まで感じたことのない圧が放たれる。

 それは大気すら振動させて、キィイイインッという耳鳴りを発生させる。

 それに呼応するように大地が揺れる。


「これは……!?」

「アルトっ、まずいよ!」

「こいつ、変身する気であります!」

「なっ」


 こんなところで竜に戻るなんて。

 そんなことをされたら、捕縛は難しく……いや、それ以上に問題だ。


 逃げられるだけなら、まだいい。

 でも、もしも街で暴れられたら?


 とんでもない被害が出るし……

 それに、人と竜の関係に大きなヒビが入る。


 そんなことをさせるわけにはいかない。

 いかないのだけど……

 どうすれば止められる?

 さらに攻撃をする?

 そんなことをすれば、ノルンの体がどうなるか……


「あ、アルト、どうすれば……!?」

「くっ……こうなれば、エルトセルクさんの体が傷つくこともやむをえず、というところなのかもしれません」

「ダメだ!」


 ククルが合理的な判断を下すが、俺は即座にそれを否定した。


 甘い考えなのかもしれない。

 大局を見ることができず、間違っているのかもしれない。


 だとしても。


 ノルンの命を脅かすようなこと、できるわけがない。

 どんなことがあったとしても。

 そこだけは迷うことなく、即座に断言してもいい。


 ノルンを助ける。

 そして、これ以上の被害も出さない。


「俺は、どうやら欲張りになったらしい」

「うん、いいんじゃないかな! アルトらしいと思うよ。ボクは賛成!」

「自分も賛成ですが……しかし、現実問題、どのようにして防げば!?」

「ヤツをノルンの体から追い出す」

「それは……確かにそのようなことができるのならば、今一番の、最善手ではありますが……」

「いったい、どうやって?」


 ククルとユスティーナが、そんな方法あるの? という感じで、疑問顔をこちらに向けてきた。


 策はある。

 しかし、正直なところ、成功率は不明だ。

 数字に換算したら、おそらく、かなり低いと思う。


 ただ、他に方法はない。

 時間もない。

 失敗した場合、全責任を負う覚悟を決めて、突き進むしかない。


「説明しているヒマはない。ただ……俺を信じてくれるか?」

「もちろん!」

「ええ!」


 二人はすぐに頷いてくれた。

 頼もしく、ありがたい。


「なら、二人はヤツを取り押さえて、動けないようにしてくれ。この際、多少、手荒になっても構わない」


 了解というように頷くと、二人は左右からゼノを押さえつけた。


「くっ、まだ僕の邪魔をするつもりですか。諦めの悪い!」

「ノルンの体、返してもらうよ!」

「あなたのような卑劣な犯罪者、見逃すわけにはいかないのであります!」


 二人にガッチリと押さえつけられて、ゼノが表情を歪ませる。

 邪魔をされているせいか、思うように変身ができないらしい。

 二人を引き離そうとするが、ダメージを受けた体では難しく、ただもがくだけだ。


 そんなゼノの顔に、再び槍の矛先を突きつけた。


「なんのつもりですか? もしかして、僕を……この体ごと殺してしまうと? ははっ、そんなことできるわけがない。ハッタリはよしてもらいましょうか」

「ハッタリだと思うか?」

「……なに?」

「そのまま、ノルンの体を悪用させるわけにはいかない。それは絶対、だ。これ以上、お前の好きにさせるようなら……殺す」

「……ふん、つまらないウソを。君は甘い人と聞いていますよ。この体を必要以上に傷つけることはできないはずです」

「確かに、傷つけたくない。しかし、ノルンのためを思えばこそ、時に、非情な決断をくださなければいけない」


 俺はさらに矛先を寄せた。


「まさか、本気なのですか……?」

「本気だ」


 これ以上の言葉は不要というように、槍を構えた。

 弓を引くような体勢で、一撃必殺の威力が出せるように。


 そんな俺を見たゼノは、顔をひきつらせる。

 こちらの覚悟を悟ったのだろう。


「ば、バカな……本気で、この体を……そんなことできるわけが、いや、しかし……」

「一撃で終わりにする」

「ま、待ちなさい! そんなことをしていいのですか!? この体は……」

「ノルンの体だ。でも、これ以上貴様に悪用されるなら、解き放つことも、俺の役目だ」

「まっ……!?」


 ゼノがなにかを言いかけるが、待つわけがない。

 最大限の力を込めて、槍を放つ。


「っ!!!」


 こちらの本気を感じ取り、ゼノは瞳に恐怖の色を浮かべた。

 こんなヤツであれ、死ぬことは怖いらしい。


 そんなところに怯えるとは、以前のカルト集団のヤツとは大違いだ。

 覚悟もなにもない、ただの犯罪者でしかない。


 そんなゼノがとった行動は……


「……」


 突如、ゼノの体から力が抜けた。

 手足が落ちて、首がガクリと垂れる。


 それを見た瞬間、俺は全力で槍の軌道を逸らした。


 ガッ!


 矛先がノルンの頬をかすめてしまうが、それだけで済ますことができた。


 代わりに、ノルンの体から、ふわりと光の球が浮き上がる。

 おそらく、ゼノの魂だろう。


「ふう……うまくいったみたいだな」


 緊張が解けて、俺は吐息をこぼして……

 それから、小さな笑みを浮かべた。

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
別の新作を書いてみました。
【堕ちた聖女は復讐の刃を胸に抱く】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。

【ネットゲームのオフ会をしたら小学生がやってきた。事案ですか……?】
こちらもよろしくお願いします。
― 新着の感想 ―
[一言] とんだチキンな犯罪者でしたね。
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