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83話 援軍

「うっ……これはちょっと、まずいかも……」


 幽鬼のような顔になっているたくさんの子供たちを見て、ユスティーナが怯んでしまう。

 仕方ない。

 かなりの迫力があるし……


 それ以前に、さすがに、この子たちと戦うわけにはいかない。

 ノルンは竜なので、ある程度の加減は効くが……

 この子たちは普通の人間なので、怪我をさせずに、ということはかなり難しい。


 しかも、さっき逃げていた時よりも数が多い。

 もしかしたら、この施設にいる子供が全員、集まっているのでは……?


「アルト、ど、どうしよう……?」

「これは、俺たち二人で対応しても、手に余るな……くそっ」

「それじゃあ、僕はこれにて失礼させてもらいますよ。君たちは、この子供たちと遊んでいてください。まあ、この手で竜の王女を殺せないことは残念ですが……今は、この体を手に入れただけでよしとしましょう」


 ユスティーナを殺せないことが残念?

 こいつ、やはり……


「さあ、行きなさい」


 考える時間は与えないというように、ゼノが命令を下した。

 その命令に疑問を抱くことなく、忠実に従い、子供たちが一斉に部屋に流れ込み、襲いかかってきた。




――――――――――




 海水浴場を抜けて、さらに奥へ1時間ほど歩いた場所に、それはあった。


 ゴツゴツとした岩場の一角に、小さな建物が建てられていた。

 大きな扉が正面に一つ。

 小さな扉が側面に二つ。

 正面の扉が物資搬入の経路で、側面の扉は人が出入りするためのものだろう。


 長年、潮風を浴びてきたためか、金属でできている扉部分は錆びていた。

 しかし、それは表面だけのもので、内部までは腐食していない。

 現に、触れてみると、扉からはギシギシという錆びついた特有の音は聞こえてこない。

 もっとも、鍵がかかっているため、開けることはできないが。


「まさか、こんなところに、こんなものがあるなんてね」

「どういう場所か知らねえが、怪しさ大爆発って感じだな」

「爆発してどうするのよ……」


 施設の前には、グランとジニーとテオドール……それと、アレクシアとククルの姿があった。

 アルトたちの場所を特定した後、場所を伝えて、合流したのだ。


「ここから、エステニア殿とエルトセルクさんの反応があったのでありますか?」

「ああ、間違いないぜ。今も反応がある。ほら」


 グランは魔道具を取り出して、それをククルに見せた。

 グランが言うように、魔道具は目の前の建物に強い反応を示していた。


「だとしたら、厄介なのであります」

「どういうことなのですか?」


 アレクシアの質問に、ククルは難しい顔で答える。


「ここに来る前に、資料を漁っていたのですが……ここは、戦時中に使われていた避難所兼軍の仮本部らしいのであります。広大な敷地を持ち、また、部屋も多いそうです。無策で突入しては、逆に、エステニア殿に迷惑をかけるような事態になるやも……」

「そう言われてしまうと、どうしたらいいか、迷ってしまいますわ」

「でも、ここでのんびりしてるヒマはねえぞ。急がないと、二人がどうなるか……っていうか、今この瞬間も、ピンチかもしれねえし」

「そこなのよね……」


 ジニーは、悩ましいという様子でため息をこぼした。


「急がないといけないけど、でも、無策で突入するわけにもいかないし……ミストレッジさん。コルシアの憲兵隊は?」

「すみません……情報を提供していただくことはできたのですが、実際に隊を動かすとなると、確たる証拠……あるいは、現場を見つけないことには難しく」

「それもそうよね……」

「ただ、出動の準備はしていただいたのであります。こちらの魔道具を使い、自分が連絡を入れれば、30分ほどで駆けつけてくれるのであります」


 そう言いながら、ククルは手の平サイズの魔導を取り出して見せた。

 グランたちが使用しているものと似た魔道具で、遠く離れたところに合図を送ることができるという代物だ。

 シンプルな機能しか備えていないものの、その分、精度に優れていて、遠く離れた場所でも問題なく使うことができる。


「いっそのこと、証拠は見つけた、っていうことにして今、魔道具を起動してもいいんじゃねえか?」

「……アホ兄さん」

「てめえ、またアホって言ったな!?」

「グランの言う方法はオススメできないな」


 テオドールが説明をするように口を開く。


「万が一、犯人がここにいなかった場合、空振りとなってしまう。すでに犯人が他の場所に移動していた場合、かなりのロスを強いられることになる。それはまずい。それと、ミストレッジ嬢にも迷惑がかかってしまうね」

「うっ、それは……確かにまずいか」


 グランもククルに迷惑をかけるつもりはないらしく、悩ましげな顔になった。

 そんなグランに対して、ククルは平然と言う。


「いえ、気にしないでください。それくらいのこと、自分にとっては迷惑でもなんでもないのであります。それよりも、エステニア殿たちの安全の方が優先されるのであります」


 この子、聖人君子か?

 聖騎士だから、似たようなものか?


 この場にいる、ククル以外の全員が、そんなことを思うのだった。


「どうする? ミストレッジさんの言うように、一番気にするところは、アルト君たちの身の安全だと思うの。そこが失敗したら、元も子もないわ。リスクは高いかもしれないけど、でも、すぐに突入するのもアリだと思うわ。みんなはどう思う?」


 ジニーが場をしきり、仲間たちに問いかける。

 すぐに答えられることではなくて、少し、沈黙が降りた。


「……ミストレッジさんに問題がないのならば、私はすぐに突入したいと思いますわ」


 まず最初に口を開いたのは、アレクシアだった。

 慎重に、己の考えを並べていく。


「ミストレッジさんに迷惑をかけてしまうかもしれませんが……それでも、なにかが起きてからでは遅いです」

「僕もイシュゼルド嬢の意見に賛成だね。犯人がここにいないという可能性は、かなり低いだろう。アルトやエルトセルク嬢が失敗するとは、どうしても思えない」

「っていうか、時間をかければかけるだけ、犯人が別の場所に行く可能性が高くねえか? アルトやエルトセルクさんも、さすがに、長時間犯人をここに留めておくことは難しいだろうからな。そんな理由で、俺も今すぐ突入に賛成だ」

「悔しいし屈辱だけど、あたしも兄さんと同意見よ」

「おい」


 半眼で睨みつけてくるグランは無視して、ジニーが言う。


「内容が内容だけに、今はリスクを考えない方がいいと思うの。そういう風に考えすぎていたら、大事な時を見逃しちゃうから。だから、突入に賛成」


 そうして自分の意見を述べた後、ジニーはククルを見る。

 それから、あなたはどう? と目で問いかけた。


 そんなジニーに対して、ククルはしっかりと頷いてみせる。


「自分も賛成なのであります。全責任は、自分が持つのであります。なので、突入しましょう!」

「ミストレッジさん、話がわかるわね」

「もしも失敗して、責任うんぬんの話が出てきた場合は、私がフォローいたしますわ。そういう時に動いてこそ、貴族としての務めを果たさなければ」

「もちろん、その時は、僕も協力しよう」


 全員の意見が前向きに一致して、それぞれ決意を表明するように、力強く頷いてみせた。

 この時、彼ら、彼女らの意思は一つにまとまる。


「よしっ、いくぜ!」


 その場にいる者を代表するように、グランが大きな声をあげた。

 そして、こういう時のために持ち出しておいた剣を抜く。


 もちろん、真剣だ。

 また、それなりの業物でもある。


「はぁあああっ!」


 グランは大きく剣を振りかぶり、扉に向けて一気に振り下ろした。

 さすがに鉄製の扉を両断することはできないが、鍵を壊すことは簡単だ。

 グランの一撃で鍵が吹き飛んだ。


 突入口は確保した。

 皆の意思は一つであり、迷う必要はない。

 グランが先頭に立ち、扉を開ける。


 そのまま突入しようとして……


「へ?」


 開かれた通路の先から、アルトとユスティーナが駆けてくるのが見えた。

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
別の新作を書いてみました。
【堕ちた聖女は復讐の刃を胸に抱く】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。

【ネットゲームのオフ会をしたら小学生がやってきた。事案ですか……?】
こちらもよろしくお願いします。
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