80話 魂の行き先
「これが、人の魂……?」
光の球体に視線が吸い寄せられる。
惹きつけられるというか、目を離すことができないというか……
神秘的なものを感じ取り、思わず背中が震えた。
「なんていうか……すごいな」
「アルトは、魂を見るのは初めて?」
「そりゃあ、そうだろう。そんな機会は今までなかったし、そもそも、こうして目に見えるものだなんて思ってもいなかったからな。ユスティーナは、見たことが?」
「うん、一応。竜の王女をやっていると、色々なレアケースに遭遇することがあるんだよ。そのレアケースの一つで、ちょっとね」
どういう事件に遭遇したのだろうか?
気になるけれど、今はのんびりと話をしている場合ではないか。
「これらは、全部魂なのか」
棚にズラリとガラスの瓶が並べられていて、そのほとんどに光の球体が収められている。
壮観な眺めだ。
「これは……たぶん、子供たちの魂だよな?」
「うん、そうだと思うな。それ以外に考えられないし……まあ、もしも違う人たちの魂だとしたら、それはそれでとんでもないことになるから、あまり想像したくないかな」
「どうしてこんなところに……?」
「うーん……それが謎なんだよね。このガラスの瓶、普通のものに見えて、魔道具なんだと思う。ただ、そうだとしても、こんなところに魂をぽんと置いておいていいようなものじゃないんだよね……ものがものだけに、保管にはものすごい気を使わないといけないんだけど……」
「ふむ……」
ということは、敵は子供たちの魂を重要視していない、ということだろうか?
もしも問題があるとしたら、ユスティーナがいうように、こんな適当な扱いはしていないはずだ。
でも、そう考えた場合、わざわざ子供たちから魂を抜き取る必要がない。
推理に矛盾が発生してしまい、疑問が生じる。
「うーん……外法を施して、子供たちをああすることが目的だったのかなあ?」
「ありえなくはないが、その意図が不明だな。あんなことをして、どんなメリットがある?」
「子供たちを兵器にするとか? あ、やっぱ今のなし。自分で言っておいてなんだけど、それはないね」
「だな」
子供たちを兵器にしても、大して意味はない。
身体能力は強化されているが、ベースは普通の子供なのだ。
とてもじゃないけれど、兵器と呼べるようなレベルではない。
だとしたら、敵の目的は……
「嫌がらせとか、個人の趣味……とか?」
「ありえなくないだけに、そうだとしたら最悪だな……」
歪んだ趣向、思想が原因だとしたら手に負えない。
「あ、でもでも、狂人が犯人だとしたら、ちょっと頭良すぎるかな? こんなところを用意しているし、どこからか外法の使い方を入手しているし、頭が良い気がするよ」
「どうだろうな? 狂人だとしても、頭の回転が早いヤツはいる。むしろ、狂人だからこそ、っていう部分もあるからなんとも言えないな」
「うーん……悩ましい問題」
「……犯人については、ひとまず保留にしよう。今は情報が足りない。それよりも、この魂をどうにかして、子供たちに戻さないと」
そうすれば、ゾンビのような状態になっている子供たちを助けることができるだろう。
そう思ったのだけど、ユスティーナは難しい顔をする。
「うーん……」
「どうしたんだ? ……もしかして、そう簡単にいかないことなのか?」
「うん……一度分離した魂を肉体に戻すなんて、聞いたことないし……そもそも、分離すること自体がほとんどないことだし……方法がわからないよ。ものすごく丁寧に扱わないといけないものだから、あれこれと色々な方法を試すわけにもいかないし」
「でも、分離できたのなら、元に戻すこともできると思うが?」
「そうなんだけどね。でも、ボクはそこまで外法に詳しくないから、なんとも……」
「そうか……なら、詳しいヤツに聞くしかないな」
「え? 誰のこと?」
「もちろん、この事件の犯人だ」
「なるほど……でも、誰なのか、どこにいるのか、見当もついていないよね?」
「誰なのか、という部分についてはそうだけど、どこにいるのかという部分については違う。ある程度は見当はついている」
「えっ、そうなの!?」
ユスティーナは驚いたように目を丸くして、次いで、ぐいぐいっと迫ってきた。
「犯人はどこにいるの!? もうアルトには全てお見通し!? ねえねえ!」
「……顔が近い」
「あ……ご、ごめんね」
ユスティーナが冷静になり、後ろに下がる。
こういう風に、俺に対しては色々な意味でガードが甘くなるところがあるから、色々と注意してほしい。
「全てお見通しなんてことはないが、犯人の居場所については見当がついた」
「すごいね、いつの間に」
「思いついたのはたった今なんだけどな」
それも単なる閃きのようなもので、情報を積み重ねて、分析して、導き出した結果ではない。
「それでそれで、犯人はどこにいるの?」
「まず間違いなく、この施設のどこかにいる。魂なんてものを抜き取り、利用目的は不明であれ、保管しておくなんてこと、普通はしない。それをしているということは、ここなら絶対に見つからないという自信があるからだ」
「そうだね……でも、そうなると、ボクたちも犯人を見つけることは難しいんじゃあ……?」
「見つける必要はないさ」
「え?」
「向こうから来てもらえばいい」
――――――――――
今でこそコルシアは一大観光地として栄えているが、昔は海沿いに面した、特に特徴のない街だった。
隣国からは遠く、国の奥に位置していたため、戦時中は民の避難場所として利用されていた。
海岸沿いにある施設もそのうちの一つだ。
地上だけではなくて、地下にも広がっているために、外からはわかりにくいが、広大な敷地を持つ。
その広さは、街の三分の一ほどだ。
ただ、ほとんどの人は施設のことを知らない。
はるか昔に作られた避難施設のことを覚えている人は、すでにこの世を去っている。
資料は残されているが、あまりにも時間が経ちすぎているため、大半が消失してしまっている。
時折、入り口を見かける人はいるが、ここはなんだろう? と首を傾げる程度で、具体的なことを追求するつもりはない。
故に、最近になって人が出入りするようになっても、誰もそのことに気づくことはなかった。
その施設の内部……
光のない廊下を、一人の男が歩いていた。
15歳くらいの若い男だ。
その顔は中性的で、ともすれば女に見える。
そこが魅力的に映り、異性を魅了するほどに綺麗だ。
「~♪」
男は鼻歌を歌いながら、ゆっくりと通路を歩いていた。
宝くじが当たった、というような感じで機嫌がよさそうだった。
「もうすぐ……もうすぐ僕らの願いが叶います。長かったですね……でも、ようやくここまで来ることができました。あと少しです……ふふっ。あの力を使い……」
不意に男の足が止まる。
足を止めた理由は、男が持つ魔道具にあった。
特定の部屋に侵入者があった場合、音で教えてくれるという魔道具を持っていたのだけど、その魔道具が警報音を鳴らし始めたのだ。
「侵入者が……? まさか、どうして……?」
男は怪訝そうな顔になり、魔道具の誤検知を疑う。
しかし、すぐに思い直した。
もしも誤りでなければ、面倒なことになる。
あの部屋の重要度は最優先ではないが、それでも、重要なことに変わりはない。
そう考えた男は、小走りに駆けた。
『よかった』『続きが気になる』など思っていただけたら、
評価やブックマークをしていただけると、すごくうれしいです。
よろしくおねがいします!




