74話 敵の目的は?
「ノルンがさらわれたぁ!?」
ひとまず宿に戻り、みんなに現状を説明すると、ユスティーナが一番驚いていた。
バンッとテーブルを叩きながら立ち上がり、大きな声をあげている。
「落ち着いてくれ。目立っているぞ」
「あ……ごめんね、アルト」
我に返った様子で、ユスティーナは椅子に座る。
誰よりも驚いていて、誰よりも動揺しているみたいだ。
同じ竜ということもあるのか、なんだかんだでノルンのことを心配しているみたいだ。
「まだ確定というわけじゃないが、その可能性が高くなってきた」
「アルトはどこでそんな話を?」
「それは、自分なのであります」
同行しているククルが一歩、前に出る。
それから、俺との会話を改めて説明した。
ククルの話を聞いて、みんなが難しい顔になる。
「昨日、話に出た誘拐事件にエルトセルクちゃんが巻き込まれるなんて……」
「なにかの間違いと思いたいですが……この状況では、それも難しいですわ」
「ふむ、どうしたものか」
「みんな、聞いてほしい」
口を開くと、みんなの視線がこちらに集中した。
どうしたらいいか、道筋がわからないこの状況。
ひとまず、俺が舵を取らないといけない。
「さっきミストレッジさんとも話したが、ノルンが誘拐されたと考えて動いた方がいいと思う。間違いならそれでいいが、そうでない場合、初動に左右される可能性が高い」
「ええ、そうね。アルト君の言う通りだと思うわ」
「だから、ノルンが誘拐されたと仮定して動く。といっても、今の段階でできることは少ない。情報が足りないからな」
「っていうことは、まずは情報収集か?」
「グラン、正解だ」
「なら、人数もいることだしバラけた方がいいな。俺は……」
「待ちなさい、アホ兄さん」
「ぐぁっ!?」
すぐに駆け出そうとするグランの頭を、ジニーがパァンッ! とはたいた。
いい音がしたが、大丈夫だろうか……?
「どこで、どんな情報を、どういう風に集めるのか。そういうことを決めていないのに、飛び出そうとしないでくれる。アホ兄さん」
「わ、わかった……俺が悪かったから、頭をポンポン叩かないでくれ」
「まったく……それでアルト君、どうする?」
「そうだな……」
少し考えてから、それぞれに指示を出す。
グランとジニーはコンビで動いた方が効率がいいと思い、一緒に情報収集をしてもらう。
求める情報はシンプルに、ノルンを見かけたかどうか。
それと、行方不明になった子供の手がかり。
おそらく、ノルンは行方不明になっている子供たちと同じところにいるだろうから……
こちらの情報も集めておいて損はないだろう。
アレクシアとテオドールは、コルシアの憲兵隊に話を聞いてもらうことにした。
普通なら俺たち学生の相手なんてしてもらえないが……
二人は五大貴族の生まれだ。
二人ならば、憲兵隊に話を聞くこともできるだろう。
家の力を頼りにするため、少し気が引けるが……
ノルンのためだ。
この際、手段は選んでいられない。
そして、ククルも憲兵隊のところへ。
さきほどの犯人たちが、そろそろ目を覚ましているかもしれない。
犯人たちを捕まえた張本人であり、聖騎士のククルなら、尋問が許されるだろう。
なにかしら、情報を手に入れてくれたらと思う。
最後に俺とユスティーナの二人は、ノルンの行き先を探す、というものだ。
簡単に見つかるのなら苦労はしないが……
ユスティーナ曰く、ワンチャンスあるらしい。
ユスティーナとノルンは同じ竜。
しかも、共に数の少ない希少種。
それ故に、共感性というか同調性というか、そういったものがあるらしい。
近くにいけば、なんとなく、相手の存在を感じ取ることができるとか。
街をくまなく歩き回れば、うまくいけばノルンの気配を察知することができるかもしれない。
まあ、そこまで都合よくいくとは思えないし……
敵のアジトがこの街にあるという前提の作戦だ。
すでに街から離れていたら、どうしようもないが……しかし、試してみる価値はある。
「じゃあ……そういう感じで頼む」
「はい、任せてくださいませ」
「ボク、がんばるよー!」
みんな気合たっぷりだ。
それだけノルンのことを心配しているのだろう。
「いこう!」
「「「おうっ!!!」」」
――――――――――
俺はユスティーナと一緒に街に出た。
ユスティーナの感覚を頼りに、街のあちらこちらを歩いてノルンを探す。
これで見つかってくれればいいのだが……
「うーん……なんか、ピンとこないなぁ」
捜索を開始して30分ほどしたところで、ユスティーナは一度足を止めて、眉を寄せて小首を傾げた。
「やはり難しいか?」
「ううん、そんなことはないよ。ノルンの気配は感じるよ」
「本当か!?」
「うん。この街のどこかにいることは間違いないかな。街の外に連れて行かれた、ってことはまずないと思うよ」
街の中にいるか外にいるか。
それを判別できただけでも、けっこうな進展だと思う。
しかし、ユスティーナの顔色は晴れない。
むしろ、さっきよりも悪くなっていた。
「どうしてそんな顔を?」
「んー……アルトに心配かけたくないから、黙っておこうかとも思ったんだけど……でも、そうしたら余計に心配をかけちゃうよね」
ユスティーナはなにかを決心した様子で、そっと口を開く。
「どうも、ノルンの気配が薄いんだよね」
「薄い……?」
「なんていうか、気配が揺らいでいるというか存在感がなくなりかけているというか……ひょっとしたら、ノルンになにかあったのかもしれない」
「それは……!」
「命に問題がある、っていうわけじゃないと思うんだ。ただ、ひょっとしたらこの前みたいに、操られているとか……そういう問題が起きているのかも」
「もう少し、詳しい状況はわからないか?」
「うーん……ごめん。ボクも気配を探るのが限界というか、これ以上は……もうちょっと近くに行くとかすれば、精度は上がると思うんだけど」
ユスティーナが口を濁す。
その気持ちはよくわかる。
30分かけて街を歩き回ったけれど……
未だノルンに繋がる手がかりは得ていない。
この街にいる、ということがわかっただけでも大きな進展ではあるが、居場所に関しての手がかりはゼロだ。
そして、30分で踏破できたのは街の1割以下。
ノルンが見つかるまで、全体を探すとなると、単純計算で5時間以上かかることになる。
もちろん、それは運が悪い場合の計算で、運が良ければもっと早くに見つかる可能性はあるが……
ノルンの無事がかかっている状態で、できるだけ賭けに出るようなことは避けたい。
「どうしよう、アルト……?」
ユスティーナも焦りを覚えているらしい。
困った顔でこちらを見つめてきた。
正直なところ、俺もどうしたらいいかわからない。
ただ、ここで俺が不安を覚えていることを表に出すわけにはいかない。
男としての矜持もあるが……
それ以上に、そんなことをしたら、ユスティーナも不安にさせてしまう。
それだけはダメだ。
女の子に頼りにされている以上、男として、その期待には応えないといけない。
どうする?
どうすればいい?
俺は必死になって頭を回転させて……
一つ、策を思いついた。
ユスティーナがノルンの存在を感じ取るには、もっと近くにいかないといけない。
しかし、広い街のどこかに潜んでいるであろう犯人たちを探すことは難しい。
それならば、いっそのこと……
「一度、宿に戻ろう」
「アルトでも打開策が思いつかないの……?」
「いや、一つ思いついたことがある。ただ、それは危険も伴うから……まずはみんなの進展具合を聞きたい」
みんながノルンに繋がる手がかりを得ていたのならば、それでよし。
そうでない場合は……
「行こう」
――――――――――
帰り道も、念の為にノルンの手がかりを探しつつ、宿に戻った。
その後、みんなと合流をした。
残念ながら、みんなもノルンの手がかりを得ていないらしい。
これ以上、時間をかけたくない。
いつノルンの身に危険が及ぶかわからない。
なので、危険を伴うとしても、行動に出ないといけない。
そう判断した俺は、思い浮かんだ策……囮作戦をみんなに話した。
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