73話 連れ去られた先で
「……あぅ?」
薄暗い場所でノルンは目を覚ました。
はて? と小首を傾げる。
なぜ自分はこんなところにいるのだろう?
散歩をしていたはずなのだけど……
不思議に思いつつ、ノルンは立ち上がろうとした。
しかし、立ち上がれない。
体を動かそうとした。
しかし、動かすことができない。
暗い中目を凝らしてみると、足が荒縄で縛られていた。
両手も後ろで縛られていた。
「うぅ……」
それを見て、ノルンは自分の身になにが起きたのか思い出した。
アルトと一緒に旅行。
海沿いの街は風が気持ちよく、朝日も心地いい。
そんな街を散歩することは、ノルンにとってとても楽しいことだった。
にこにこ笑顔で散歩をしていたのだけど……
突如、覆面を被った者たちが現れて、ノルンを捕まえようとしてきた。
ノルンは抵抗しようとしたものの、アルトに暴れてはいけないと言われていたことを思い出して、どうしたものか迷ってしまう。
その隙をついて、襲撃者たちはノルンの口と鼻を布で覆った。
布は特殊な匂いがして、なにかしらの薬品が染み込んでいた。
ノルンは意識が遠くなり……
気がつけば薄暗い場所にいた、というわけだ。
「んぅ……!」
アルトから暴れるなと言われているが、人間相手でなければいいだろう。
そう判断して、ノルンは手足を縛る枷を力任せに引きちぎった。
「あう?」
自由を取り戻したノルンは立ち上がり、周囲をキョロキョロと見る。
おそらく、どこかの建物の内部なのだろう。
倉庫らしく、色々な荷物が置かれている。
ただ、窓の類は一切ない。
部屋は暗闇に包まれていた。
そんな中でも視界を確保しているのは、ノルンが竜だからだ。
普通の人間ならばこうはいかない。
「だ、誰……?」
ふと、暗闇の中から声が聞こえた。
ノルンは振り返り、部屋の隅を見つめる。
よくよく見てみると、自分以外に人間がいた。
男の子と女の子が一人ずつ。
どちらも幼い子供だ。
特に顔が似ているというわけではないから、友達かなにかなのだろう。
二人は互いに寄り添うようにして、震えながら、ノルンを見ていた。
ノルンのことがはっきりと見えているわけではないが、声や雰囲気から、誰かがいることは理解しているのだろう。
「あう」
「ひゃ……!?」
ノルンが応えるように声を出すと、女の子は驚いたように震えた。
男の子も恐怖に震えていたが、それはそれ、これはこれ。
男の矜持を見せて、女の子を背中にかばう。
「な、なんだよ、おまえ……誰なんだよ!?」
「あうー……」
言葉がわからないノルンは困った顔をした。
ただ、言葉のニュアンスから、男の子と女の子が怯えていることは、なんとなく理解した。
「あうっ!」
なので、とりあえず笑うことにした。
こちらに敵意がないことを伝えることにした。
そう考えたノルンは、にっこりと笑った。
しかし、光が一筋もない暗闇の中では、普通の人間はノルンの表情を判別することなんてできない。
子供たちは、ノルンがなにをしたかなんてわからないが……
「その声……わたしと同じ女の子?」
「も、もしかして……おまえも捕まったのか?」
声を聞いて、ノルンが女の子であると理解したらしい。
子供たちから警戒の色が消えた。
ただ、ノルンはなにが起きているのかさっぱり理解できず、首を傾げる。
「あうー?」
「これ……きっと、あれだよな? 最近噂になってる誘拐事件……」
「そ、そんなぁ……わたしたち、どうなっちゃうの……?」
「わからないよ……でも、誘拐された人が帰ってきたことはない、って」
「うっ、うううぅ……そんなぁ」
ノルンと出会ったことで、子供たちの心のバランスが崩れてしまったのだろう。
最悪の未来を想像して、涙声で絶望している。
そんな子供たちの様子を、ノルンは敏感に感じ取っていた。
言葉がわからない分、そういう感情などには敏感なのだ。
子供たちが泣いている。
泣くことは悲しいこと、嫌なことだ。
なんとかして止めたい。
でも、どうすれば?
「あううう……」
ノルンはあれこれと考えて、考えすぎて、知恵熱を出してしまいそうになった。
普段、ものを考えるということをあまりしないため、こういうことは苦手なのだ。
それでもたくさん考えて、
「んっ!」
閃いた。
こんな暗いところにいるから気分が落ち込んでしまうのだ。
明るいところに出て、散歩をすればいい。
そうすればきっと笑顔になる。
そんなことを考えたノルンは、とりあえず、手近な壁を壊そうとした。
アルトから暴れるなと言われているが、子供たちのためなら問題はないだろう。
たぶん。
そんな言い訳を自分にしつつ、ノルンは拳を振りかぶり……
「いけませんね」
突如、第三者の声が乱入した。
その声を耳にして、ノルンはビクリと震えて振り返る。
嫌な予感がする。
背筋がざわざわとする。
ノルンは険しい表情で暗闇の中に視線を走らせた。
「むぅ……!」
これは敵だ。
直感で危機感を覚えたノルンは、敵を粉砕するべく、拳を……
「あ……」
攻撃しようとしたところで目眩がした。
立っていることができず、その場に座り込んでしまう。
そのまま、ノルンは意識を失った……
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