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71話 激動の三日目

 コルシア滞在三日目。


 窓から差し込む陽光で目が覚めた。

 いつの間にかベッドに潜り込んでいたノルンを起こさないようにどかして、窓の手前に移動する。

 軽くカーテンを開けると、澄んだ青空が見えた。

 今日もコルシアは気持ちのいい天気だ。


 今日はコルシアの観光地を見て回る予定だ。

 あと、土産店を覗く。

 そんな予定を立てていた。


「あうー」


 寝ぼけ眼を擦りながらノルンが起きた。

 ちなみに、ユスティーナは変わらずに寝ている。


「悪い、起こしたか?」

「うあっ」

「そっか。ならよかった」

「あうあう」

「ん? えっと……ああ、そうか。散歩に行きたいんだな?」

「あう!」


 そうそう、と言わんばかりにノルンが大きく頷いた。

 ずっと一緒にいるせいか、言葉は通じなくても、なんとなくノルンの言いたいことがわかるようになってきた。

 ノルンもこちらの言葉を理解しているような節を見せて、こうしてある程度の意思疎通が行えている。


 まあ、それだけではさすがに不便なので、折を見て言葉を教えないといけない。

 あと記憶も取り戻さないといけないし……やらなければいけないことはたくさんだ。


 とはいえ、今は夏季休暇中。

 ノルンにもおもいきり羽を広げてほしい。


「行ってくるといいさ。ただ、迷子になるかもしれないから遠くには行かないように。わかるな? 遠くに行くのはダメだ」

「あう!」


 ノルンは了解と言うように頷いた。

 それから寝間着に手をかけて……


「っ」


 慌てて俺は後ろを向いた。

 背後で衣服が擦れる音がする。

 ノルンが寝間着から私服に着替えているのだろう。


 色々と覚えてきているが……

 できることなら羞恥心なども覚えてほしい。

 言動が子供みたいではあるが、体は俺たちと変わらないのだから。


「あうっ」


 もういいよ、というような感じの声がして振り返る。

 私服に着替えたノルンが、どこか誇らしげな顔をしてこちらを見ていた。

 その頭を撫でてやる。


「よく一人で着替えることができたな。えらいぞ」

「にへ~」


 ノルンはご機嫌だった。

 尻尾があれば、ぶんぶんと左右に揺れていただろう。


 寝間着はあちらこちらに散らかっていたが……

 まあ、そこは追求しまい。


「あう!」


 どこで覚えたのやら、ノルンはびしっと敬礼をして部屋を出ていった。

 これだけ気持ちのいい天気だから、散歩したくてうずうずしているのだろう。


 そんなノルンを微笑ましく思いながら、俺は未だ寝ているユスティーナを起こすことにした。




――――――――――




 おかしい、と思い始めたのは朝食の時間になってからだ。


 あれから30分ほどが経ち……

 みんなも目を覚まして、一階に降りて合流した。

 グランはまだ眠そうにしていて、あくびをこぼしていた。

 たくさん寝たいという気持ちはわからないでもないが、そうなると観光する時間がなくなってしまう。


「ほら、これでも飲んでおくといい」

「おう……ありがとな、アルト」


 宿の女将から水をもらい、グランに渡した。

 普通の水だけど、多少は眠気覚ましになるだろう。


「んー、今日の朝ごはんはなにを食べようかなー? ここの料理どれもおいしいから、迷っちゃうよー」

「私としては、こちらのトーストセットをオススメしますわ。コルシアだけで取れる果物のジャムがついてくるみたいですわ」

「おー、それはいいね!」


 ユスティーナはうきうき顔でメニューを見ていた。

 その隣でアレクシアもうきうき顔になっていた。

 二人共、わりと食いしん坊らしい。

 まあ、この宿の料理はどれもおいしいからな。

 気持ちはわかる。


「ねえねえ、アルトくん」

「うん?」

「ところで……エルトセルクちゃんは?」


 ジニーがそんなことを尋ねてきた。


 ユスティーナとノルン、どちらもエルトセルク姓なのでややこしい。

 俺は名前で呼んでいいことになっているが、みんなはまだ難しいらしい。

 なのでユスティーナのことはさん付けで、ノルンのことはちゃん付けで呼び、それぞれ区別していた。


 一応、ノルンも俺たちと同い年なのだけど……

 幼い感じがするので、ちゃん付けでも似合っているのだった。


「散歩に出た」

「まだ? ちょっと遅くない?」

「そう言われると……」


 遠くには行かないように言っておいたから、この近所の散歩のはずだ。

 それほど時間はかからないはずなのだが……


「もしかして、なにかあったのか……?」

「うーん? 私から話を振っておいてなんだけど、それはないんじゃない? エルトセルクちゃん、竜だよ? しかも、エンシェントドラゴン。軍隊でも用意しない限り、エルトセルクちゃんをどうこう、っていうのは難しいと思うよ」

「それもそうか……」


 見た目の幼さに勘違いしてしまいそうになるが、ジニーが言う通り、ノルンは竜だ。

 並の人間が敵う相手ではないし、どうにかしようと思ったのならば、それこそ軍隊でも用意しないといけない。

 軍隊を用意しても、蹴散らされてしまうかもしれない。


 だから心配はいらない。

 ただ散歩が長引いているだけだろう。


 そう考えるのが正しいはずなのだけど……

 なぜか嫌な予感がした。




――――――――――




 そして……嫌な予感は的中する。


「さすがに遅すぎる」


 朝食を食べ終えて、軽くおしゃべりをして……

 それでもノルンは戻ってこない。

 散歩に出て、かれこれ1時間近く経っていた。


「もしかして、ノルン、迷子になっているのかなあ……?」

「それならまだマシだが……」

「ん? アルト、それどういう意味?」

「いや……なんていうか、もっと悪いことになっているような、そんな予感がするんだ」

「もっと悪いこと……」

「俺の気のせいで済めばいいが……とにかく、ノルンを探しに行こう。俺とユスティーナとグランとテオドール、それぞれ街に散って探そう。行き違いを防ぐために、アレクシアとジニーはここに残ってくれないか?」

「はい、わかりましたわ」

「もしもエルトセルクちゃんが戻ってきたら、すぐにアルト君に伝えるね」


 役割を決めた後、すぐに街に出た。

 それぞれの担当箇所を巡り、ノルンを探す。


 俺は裏路地の方を担当した。

 細く狭い路地を駆けて、ノルンの姿を探す。


「ノルン! いないか、ノルン!?」


 「あう」という返事を期待して声を飛ばすけれど、返ってくるものはない。

 それが焦りを生むことになり、嫌な予感がどんどん膨らんでいく。


 頼むから杞憂であってくれよ!


 半ば祈るようにそう思いながら、裏路地を駆けた。

 探して……

 探して……

 探して……

 しかし、ノルンの姿はどこにも見つからない。

 街の人に聞き込みをしてみたけれど、目撃情報は出てこない。


 おかしい。

 目撃情報がまったく出てこないのは、どういうことだ?

 誰かしら、ノルンのことを見ていてもおかしくないはずなのに……

 これじゃあまるで、神隠しに遭ったように突然消えたみたいじゃないか。


「……この音は?」


 とある音を耳にして、俺は足を止めた。

 耳を澄ませる。


「こっちだ!」


 刃と刃が激突する甲高い音。

 なにかしらの手がかりになるかもしれないと思い、俺は今まさにトラブルで起きているであろう方向に駆け出した。


 いくつかの角を曲がり、直線を駆け抜けて……

 そして現場に到着する。


 覆面を被り、全身黒尽くめの格好をしたいかにも怪しい者が5人。

 それらに取り囲まれるようにして、ククルの姿があった。

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
別の新作を書いてみました。
【堕ちた聖女は復讐の刃を胸に抱く】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。

【ネットゲームのオフ会をしたら小学生がやってきた。事案ですか……?】
こちらもよろしくお願いします。
― 新着の感想 ―
[一言] あぁっもぅ…アルトの阿呆ーーっ! …とも言い切れないんだろうが、やはり油断した事は否定出来ないな、アルトくん… 万が一、ノルンがノコノコと戻ってきたとしても、アルトには責める権利は無い、…
[一言] ノルンに敬礼を教えたのはグランと見た(笑)
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