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69話 神竜VS聖騎士

「なっ……!?」


 あのユスティーナが吹き飛ばされた?

 目の前で起きた光景が信じられない。


 もしかして、ククルはいらないと言っていたが、それでもハンデを与えたのだろうか?

 最初の一発は好きにさせるとか、そういう……?


 そんな疑念を抱くが、体勢を立て直したユスティーナを見てそれが間違いであることを知る。


「このっ……!」


 ユスティーナの顔が怒りに燃えている。

 わざとククルの一撃を受けたわけではない。

 今の一撃は完全に予想外のことで……反応できなかったのだ。

 油断もあったかもしれないが、ククルはユスティーナの予想を遥かに上回る力と速度を見せた。


 これが聖騎士の力なのか……?


「確かにこれならハンデなんていらないね」

「不意打ちになるような真似をしてしまい、申しわけないのであります」

「ううん。油断していたボクが悪いからね。気にしてないよ。でも……次はうまくいくと思わないで!」


 ユスティーナが砂浜を蹴る。

 魔法が炸裂したかのように、砂が大きく舞い上がる。


 ユスティーナが消えた。

 いや、あまりに速いために視認することができない。

 影のようなものが超高速で移動して、ククルに迫るのがかろうじて見えた。


「せい!」

「なっ!?」


 驚いたことに、ククルは超高速で移動するユスティーナのことをしっかりと視ていた。

 ユスティーナの拳を避けると、逆にその腕を取る。

 そのままユスティーナを背負うようにして、腰で持ち上げて、掴んだ腕を引いて……ザァッ! と砂浜に投げつける。


「……」


 ユスティーナはぽかんとしていた。

 ただ砂浜の上に投げつけられただけだ。

 肉体的なダメージはほぼないだろうが、精神的なダメージ……というか、ショックは大きいらしい。

 ぽかんとした顔のまま砂浜に寝て、そのまま動くことなく空を見上げている。


「さすが竜……中でも頂点に立つと言われているバハムートの力は、とんでもないのであります。気を抜けば、投げ飛ばされていたのは自分でした」

「……それ、気を抜かなければ投げ飛ばされるのはボクの方、って言いたいの?」


 ユスティーナは我に返った様子で……しかし、冷静ではない様子で、倒れたままククルを睨みつけた。


「はい」

「っ!」

「エルトセルクさん。あなたは確かに強いです。力は聖騎士の自分よりも上でしょう。しかし、技がありません」

「それは……」

「自分は人類の敵と戦うために、力だけではなくて技も磨いてきたのです。自分だけではなくて、昔から研鑽を積んできた人……ご先祖さまたちの思い、技術を受け継いでいるのです」

「くっ……まだ負けたわけじゃないからね!」


 ユスティーナが悔しそうな顔をしつつ、勢いよく起き上がる。

 そんなユスティーナを見て、ククルはどこかうれしそうな顔をしつつ、拳を構えた。


「もう手加減なんてしないからね! 本気でいくよっ」

「望むところであります!」

「えやあああっ!!!」

「せやあああっ!!!」


 神竜と聖騎士が激突する。

 轟音が響いて、砂浜に大穴が開いて、波が蹴散らされて……

 言い方はアレではあるが、巨大な魔物の大決戦という有様になっていた。


「やれやれ……怪我はしないでほしいが、どうなるか」


 俺のぼやきなんて完全に聞こえていない様子で、ユスティーナとククルは大決戦を繰り広げるのだった。




――――――――――




 ユスティーナとククルの決闘という名の大乱闘は1時間ほどで終わり……


「な、なかなかやるね……」

「エルトセルクさんもであります……」


 最終的に、二人の間に奇妙な友情が芽生えていた。

 ユスティーナとククルは笑みを浮かべつつ、最後は握手で締めた。


 拳を交わすことで相手のこと深く理解できる、というククルの理論はあまりに強引ではないかと思ったけれど……

 なんだかんだで仲良くなった二人を見ていると、それもあながち間違いではないのかもしれない。


 その後はククルも含めて、みんなで海で遊んだ。

 泳いで、砂遊びをして、ボールで遊んで……

 これでもかというくらいに海を満喫して、気がつけば日が暮れ始めていた。


「おまたせー!」


 着替えを終えたユスティーナたちが姿を見せた。

 ククルも一緒だ。


「みなさんは、これから夕食なのでありますか?」

「ああ。荷物を置くために、一度、宿に戻らないといけないが……」

「どこで食べるのかもう決まっているのですか?」

「また宿の一階で食べることになるかな」

「でしたら、夕食は自分と一緒しませんか? コルシアには何度か来たことがあり、おいしいお店を知っているのであります」

「おっ、それはいいな!」

「ふむ。聖騎士殿のオススメとやらには興味があるね」


 グランとテオドールがまっさきに賛成した。

 他のみんなも異論はないらしく、反対の意見は出てこない。


「じゃあ、お願いしてもいいか?」

「はい、任せてくださいなのであります!」


 こうして、俺たちは夜もククルと行動を共にすることにした。

 ククルからしてみれば、ユスティーナやノルンに関する調査も兼ねているのかもしれない。

 ただ、そういうことは抜きにしても、俺はククルと仲良くなりたいと思った。

 それくらいに彼女のまっすぐな性格は好ましく、人を惹きつけるものがあった。


 おしゃべりをしつつ海の街を歩いて、宿へ移動した。

 荷物を置くために部屋へ。

 ただククルを一人にするのもどうかと思ったので、ノルンを残しておいた。


 ノルンはククルの調査対象ではあるが……

 今日はそんなことは感じさせないくらいに仲良くしていたし、ノルンもすぐにククルになついた。

 なので問題はないだろう。


「ユスティーナ、寝る前に水着を洗っておこう。明日も使うかもしれないからな」

「……うん」

「別々に洗う方がいいよな?」

「……うん」

「早く荷物を置いて下に行こうか。ククルのおすすめの店、楽しみだな」

「……うん」

「ユスティーナ?」


 さきほどから生返事ばかりだ。

 不思議に思い、振り返ろうとしたら……


「っ!」


 ぎゅっと背中に抱きつかれた。

 肩越しに後ろを見ると、ユスティーナがうつむくようにしていて、わずかに震えているのが見えた。


「うー……うー……!」

「どうしたんだ?」

「……負けた」


 ユスティーナはうつむいたまま、ぽつりとつぶやいた。


「ボク……負けた」

「それは……」

「竜なのに……バハムートなのに……それなのに、人間に負けるなんて……」


 初めて知る敗北の味。

 それはとても苦々しくて……

 ユスティーナの心に棘がチクリと刺さる。


 人間になんて負けるわけがない。

 ともすれば、それは高慢な考えだ。

 実際、ユスティーナは技術を身につけるための訓練をまともにしていないわけで……

 仕方のないこと、いずれ思い知るであろうこと……そういう結論になるのだと思う。


 ただ、それでもユスティーナは悔しく思い、傷ついている。

 そこを見過ごすことはできなくて、見逃すことはできなくて……俺はユスティーナを抱きしめた。


「アルト……?」

「負けるのは悔しいよな。俺はよく負けていたし、ユスティーナの気持ちはわかるつもりだ」

「……アルト……」

「悔しくて悔しくて……歯がゆくて、もやもやして、落ち着かなくて、むしゃくしゃして、泣きたくなって……そういう気持ちは大事にした方がいい。そういうものを乗り越えるために努力しよう、って思えるから」

「……うん」

「とりあえず、今は俺が傍にいるから。だから、落ち着くまでこうしているといい」

「アルトは優しいね」

「そうだろうか?」

「うん、優しいよ。なんで、そんなに優しくしてくれるの? 誰にでも優しいの? それとも……ボクだから?」

「それは……」

「……ごめんね、意地悪言っちゃった」


 ユスティーナがこちらを抱きしめる手に力を入れる。


「もうちょっと、こうしてていいかな……?」

「もちろん」

「ありがとう、アルト……えへへ」

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
別の新作を書いてみました。
【堕ちた聖女は復讐の刃を胸に抱く】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。

【ネットゲームのオフ会をしたら小学生がやってきた。事案ですか……?】
こちらもよろしくお願いします。
― 新着の感想 ―
[良い点] 勝負としてはユスティーナの負けですネ…自分で認めちゃったし。 試合としても、やはりユスティーナの負けですネ…ククルは武器も防具も使ってなかったですし。 まぁ、世間の広さ・人間の強さ・自分…
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