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68話 バレた

 ユスティーナの隣に立つために強くなるという目標は今も持ち続けている。

 そのため竜の枷は常に付加している状態だ。

 今は重力5倍というところか。


 それなりの負荷がかかり、水の中にいるように思うように体を動かせないのだけど……

 それでも男の拳は遅いと感じた。

 スローモーションのようで、一つ一つの挙動がハッキリと見える。


「なっ……!?」


 男の拳を手の平で受け止めた。

 そのまま男の拳を掴み、逃してやらない。


「こ、こいつ……!」


 男は手を引いて逃げようとするが、それを許さない。

 ギリギリと締め上げると、男は苦痛に顔を歪めてその場に膝をついた。


「ぐあっ……な、なんだよこの力!?」

「お、おい!? てめえっ、離せよ!」

「そちらが先に手を出してきたんだろう」


 もう一人が殴りかかってくるが、まともに相手をするつもりはない。

 足を払い、転ばせる。

 男が倒れたところで、わざと頭の横を勢いよく踏み抜いた。

 ビシッと石畳にヒビが入る。

 それを見て二人の男が顔を青くした。


「ここまでにしておかないか?」

「お、おい……行くぞ!」

「くそっ……!」


 男たちは恨みがましい視線をよこしながらも、これ以上争うつもりはないらしく、すぐに逃げ出した。

 その背中が完全に消えたところを確認して、改めてククルに声をかける。


「大丈夫か? 余計なお世話じゃなかっただろうか?」

「いえ、そのようなことはありません。とても助かったであります! エステニア殿、あなたに感謝を」


 ペコリとククルが頭を下げた。

 その拍子に水着に包まれた胸が揺れる。

 子供っぽいところはあるが、これだけ魅力的なのだからさっきの男たちのようにナンパをする連中が現れるのだろう。


 というか、どこを見ているんだ、俺は。

 慌てて視線を外す。


「エステニア殿は、どうしてここへ?」

「旅行中っていう話をしただろう?」

「ああ、そういえばそうでした。コルシアといえば海ですからね」

「ミストレッジさんは?」

「自分もバカンスなのであります。まあ、任務も兼ねているのですが」

「任務というと……竜の反応を追うという?」

「はい。ちょうど、このコルシアから反応があったので」

「な、なるほど」


 どう考えてもユスティーナとノルンのことだ。

 ククルは話してわからない相手ではなさそうだから、バレたとしても問題は……いや、楽観視はよくない。

 予想外のトラブルに発展しないとも限らないから、二人のことは秘密にしておいた方がいいだろう。


「ちなみに、どのようにして竜を追っているんだ?」

「こちらの魔道具を使っています」


 ククルはコンパスのようなものを取り出した。


「針が示す方向に竜がいるというシンプルな作りになっています。針の揺れ幅や色の変化などで距離や力を示すこともできますが……その辺りは説明が面倒なので、省かせてもらうのです」

「なるほど、便利な道具だな」

「はい。神が与えてくれた魔道具ですから」


 神のことを語る時、ククルは誇らしそうな顔をしていた。

 フィリアの国の人は、皆そういう感じなのだろうか?


「ちなみに今は竜の反応は……むむむっ、ものすごく近いであります!」

「あっ、見つけた! アルトー!」

「どうしたのですか、突然?」


 タイミングの悪いことに、ユスティーナとアレクシアが俺の後を追いかけてきた。


「ますます反応が強く!? これは……すぐ近くにいるであります! 半径5メートル以内であります!」

「いや、それは……」

「ねえねえ、いつまで寄り道しているの? って……あれ、その子?」

「確か、ミストレッジさんですわよね? このようなところで再会するなんて、奇遇ですわね」

「あ、はい! こんにちは。実は今……って、あれ?」


 ククルがコンパスに似た魔道具を凝視した。

 針はユスティーナをきっちりと刺していて、ガクガクと大きく揺れていた。

 ちなみに色も変化していて、猛烈な赤になっている。


「こ、この反応は……もしかしてもしかしなくても……!?」

「うん?」


 ククルは驚きの表情を顔に貼り付けながら、ビシッとユスティーナを指差す。


「あなたが竜なのでありますか!?」


 ……バレてしまった。




――――――――――




 昼ごはんを買いに行く途中だということを説明して、先に弁当を買い、皆のところへ戻った。

 ククルが一緒だということに皆驚いていたものの、基本的に歓迎してくれた。


 一緒に弁当を食べて……

 それから食後の休憩の間に、ククルに俺たちのことを説明する。

 バレてしまった以上、下手に隠しておくとあらぬ疑いをかけられるかもしれないという判断の結果だ。


 ユスティーナがバハムート、ノルンがエンシェントドラゴン。

 今は人間に変身していて、一緒に暮らしていることを説明した。


 ノルンが過去に操られて暴走したことや、記憶を失っていることについては伏せておいた。

 ククルは良い人のように見えるが……

 実は、職務に忠実で非情な判断を下すこともある、という可能性も否定できない。

 ククルがどういう人なのか、完全に見極めるまでは一部の情報は伏せておくことにした。


「なるほど……まさか、エルトセルクさんが竜だったとは。竜が人間に変身するという話は、一部の者に伝えられていましたが、未だ確認できたことはなく……本当だったのですね」

「うんうん。ボクがバハムートで、ノルンがエンシェントドラゴンだよ」

「あうっ」

「……とても神竜と伝説の竜には見えませんね。あ、いえ。失礼いたしました! 決して侮辱するような意図はなく、純粋に驚き故の発言でありまして」

「別にいいよ、ボクは気にしてないから。それに、ククルは……あ、ククルって名前で呼んでもいい?」

「はい、どうぞ」

「ククルはちゃんとボクたちのことを気遣ってくれているからね。なら、ボクも細かいことは気にしないよ」

「気遣っているとは?」

「アルトはボクたちのこと普通に名前で呼んでるから、感覚が鈍っちゃっているのかな? ほら、ククルはボクたちのことを名字で呼んでくれているでしょ? 竜にとって名前は神聖なものであるっていうことを理解してて、その辺を配慮してくれているんだよ」

「そういえば……」


 忘れがちになっていたが、そういう話になっていたか。

 ククルは竜を調査するために派遣された聖騎士だけあって、その辺りの事情は詳しいらしい。


「しかし、調査対象がこれほどまで近くにいたとは……しかも一度は顔を合わせていたのに気が付かないなんて……くうううっ、自分はまだまだ未熟であります! 情けないのであります!」

「仕方ないんじゃないか? ユスティーナが竜だなんて……しかもバハムートだなんて、普通は思わないからな」

「むう、そうかもしれませんが……しかし自分は……むううう」


 色々と悩んでいるようだ。

 うーんうーんとうなり……ほどなくして、ククルはよしと小さくつぶやいた。


「とりあえず、任務を優先させることにするのであります! 自分の未熟なところは後で鍛え直すということで!」


 わりと前向きな子だった。


「ところで、任務ってなにをするんだ?」

「強力な反応の調査ということだから、すでに完了しているのではないのかな?」


 グランとテオドールがもっともな疑問を口にした。

 それに対して、ククルが首を横に振る。


「このようなことを口にするのはとても失礼なことと承知しているのですが……それでも、あえて言わせてもらうのです。自分はエルトセルクさんたちのことをよく知りません。少しの間、言葉を交わしただけなのです。悪ではないと思いますが……かといって、善と断じることはできないのであります。人に害を成す存在ではないか? 災厄を呼ぶ者ではないか? それについてを、聖騎士として裁定しなければならないのであります!」

「裁定というと、具体的にはどんなことを?」

「色々とあるのですが……まず最初に、自分と手合わせしてくれませんか?」

「えっ」


 ククルとユスティーナが戦う?


「拳を交わすことでわかることもあるのであります。故に、自分と戦ってほしいのです」

「体育会系みたいな考えだな」

「恥ずかしながら、自分は考えることが苦手でありまして……でも、逆に体を動かす方は得意なのです。だから、自分と手合わせしてくれませんか?」

「ん? いいよ」


 ユスティーナは迷うことなく頷いた。

 ものすごく軽いな。

 もう少しくらい迷うなりしてもいいと思うが。


「ボクも体を動かすのは得意だからねー。あれこれと話をするよりも、そっちの方がいいかな」

「なるほど! エルトセルクさんとは気が合いそうなのです!」


 奇妙な友情が生まれつつあった。


 竜と聖騎士……世間に流れている情報通りならば、どちらが上なのだろうか?

 竜は人を遥かに超えた力を持つが……

 聖騎士も神から力を与えられているため、人を超越した存在と言われている。

 良い戦いになるかもしれない。

 少し興味があった。




――――――――――




「よーし、準備運動完了!」

「自分も完了であります!」


 善は急げというわけではないが……

 二人の決闘はすぐに行われることになった。

 ユスティーナ曰く、ちょうどいい食後の運動になる……とのことだ。


 砂浜の一角を借りて、ユスティーナとククルが対峙する。

 それを見た周囲の人は、何事かと見物を開始する。


 綺麗な水着姿の女の子が二人。

 自然と目を惹いてしまうだろう。


 そんな中、ユスティーナが当たり前のように言う。


「ハンデはどうする? ボク、手は使わないようにしようか?」

「いえ、ハンデは不要なのであります」

「え? でも……」

「武器なしの決闘。自分が不利ではありますが……それでも、人形態のエルトセルクさんに負ける気はしないのであります」

「……ふーん。そうなんだ」


 ユスティーナが静かに怒るのがわかった。


 いくらククルが聖騎士といえど、ユスティーナを相手に真正面から挑むなんて無茶だ。

 相手は神竜バハムート。

 人が敵う相手じゃない。


 そう思っていたのだが……


「いくであります!」

「いつでもいいよ」


 俺の方が聖騎士の力を見誤っていた。


「はぁ!!!」

「っ!?」


 ククルが驚異的な加速で飛び出して、痛烈な一撃を繰り出した。

 ユスティーナはガードすることも間に合わず、大きく吹き飛ばされた。

『よかった』『続きが気になる』など思っていただけたら、

評価やブックマークをしていただけると、すごくうれしいです。

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
別の新作を書いてみました。
【堕ちた聖女は復讐の刃を胸に抱く】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。

【ネットゲームのオフ会をしたら小学生がやってきた。事案ですか……?】
こちらもよろしくお願いします。
― 新着の感想 ―
[良い点] …ゥワォっ!?聖騎士メッチャ強えーー!! [気になる点] ナンパ野郎共、出番終わり?…チト残念カモ? [一言] バハムートと聖騎士が闘って、周辺はどれだけの…イヤ、次話でわかりますネ(笑)…
[一言] 「別にいいよ、ボクは気にしてないから。それに、ククルは……あ、ククルって名前で呼んでもいい?」 名前で呼んでよいか聞いたのに、その後はミストレッジ呼びだが?
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