67話 海と水着と再会と
コルシア滞在二日目。
朝早く起きた俺たちは、ササッと軽く朝食を済ませた。
そのまま宿を後にして海へ。
「おーっ、すげえな!」
「うむ。なかなかの絶景だ」
浜辺に立つグランとテオドールは水着姿だ。
もちろん、俺も水着に着替えている。
ちなみに女性陣はまだいない。
男と違い着替えに時間がかかるため、まだ合流していない。
「それで」
「君は誰の水着姿を楽しみにしているのかな?」
グランとテオドールがニヤニヤと笑いつつ、左右からそう問い詰めてきた。
「どういう意味だ?」
「エルトセルクさん二人と、イシュゼルドさん。それとまあ、一応うちの妹も」
「皆、素敵で魅力的な女性ではないか。そんな女性たちの水着姿を見ることができる」
「男として、これ以上の喜びはないよな」
「君は誰の水着姿を楽しみにしているんだい?」
「そう言われてもな……」
「「まさか興味がないなんて言わないだろうな!?」」
「おおう……」
二人が鋭い目をして、おもいきり詰め寄ってきた。
まあ、なんというか……俺も男だ。
女性に対しての興味はあるし、人並みにそういう感情もある。
みんなの水着姿が楽しみだ、という気持ちもある。
ただ……
それ以前に、友達をそういう目で見ていいものかどうか。
そんな迷いが生まれてしまう。
いけないことをしているような気分になり、ひたすら冷静であり続けなければならないというか……
そんな気持ちがあるせいか、二人ほど真剣になることができない。
「おっ、来たぜ」
あれこれと考えている間に、女性陣の準備が終わったみたいだ。
「おまたせいたしました」
最初に姿を見せたのはアレクシアだ。
わがままな体を隠しているのは、やや大胆なビキニだ。
本人もさすがにどうかと思っているらしく、恥ずかしそうに頬を染めていた。
そんな仕草がたまらないらしく、グランとテオドールは鼻の下を伸ばしている。
「まったく、兄さんもテオドールもだらしないんだから」
続けてジニーがやってくる。
彼女が着ているのはスポーツタイプの水着だ。
健康的な魅力を持つジニーにはぴったりで、とてもよく似合うと思う。
「あうっ!」
3人目はノルンだ。
歳は同じなのに、なぜか子供用のキャラクターがプリントされた水着を着ていた。
しかし、不思議と似合う。
精神年齢が幼いからなのか、無邪気だからなのか、その辺りは判別がつかない。
「おまたせ、アルト!」
最後にユスティーナが登場した。
フリルのついたかわいらしい水着を着ている。
ちょっと子供っぽいかもしれないが、しかし、逆にそれがよく似合うと思う。
「ねえねえ、アルト。ボクの水着……どうかな? その、似合う……?」
「あ、ああ……よく似合っていると思う。うん、いいんじゃないか?」
「やった! アルトに褒められちゃった!」
ぴょんぴょんとその場で飛び跳ねて、ユスティーナは喜んでみせた。
そんな彼女を見て、残りの3人がこちらを見る。
「アルトさま、わたしはどうでしょうか?」
「アルト君がどう思っているのか、ちょっとは気になるかなー?」
「あうあう!」
「えっと……3人ともいいと思う。素直にかわいい」
「ふふっ、アルトさまにかわいいと……かわいいと言われてしまいました」
「そ、そうなんだ。そう言ってもらえると、ちょっとはうれしいかな」
「あう!」
ノルン含めて、3人はうれしそうだ。
かわいいと感想を口にするのはややむずがゆいものがあるが、こうして喜んでくれるのなら、素直に口にしてよかったと思う。
「くそっ、どうしてアルトばかり……!」
「僕らは僕らだけの女神を見つけるしかないね」
二人の視線が痛い。
「とりあえず……遊ぶか」
「うんっ!」
ユスティーナが元気いっぱいに頷いて、海に突撃した。
そんな彼女を追いかけて、残りのメンバーも海に駆ける。
「やっほー!」
「きゃ♪」
「いっくよー!」
「うあ!」
ユスティーナが元気よく飛び込み、アレクシアは海の冷たさに体を震わせて、ジニーは波を蹴り、ノルンはバシャバシャと水しぶきを立てる。
それぞれの性格が出ているような気がした。
「俺たちも行こうぜ、アルト!」
「ああ」
遅れて男性陣も海に駆けて、おもいきり夏を満喫するのだった。
――――――――――
海を楽しむあまり、ユスティーナが水かけで小さな津波を引き起こしたり……
アレクシアがナンパされて、ユスティーナが文字通り相手を星にしたり……
ノルンとジニーが砂の城を作っているところを、ユスティーナが波に流されて壊してしまったり……
色々とありつつも、俺たちは海を楽しんでいた。
……今にして考えると、全てのトラブルにユスティーナが関わっているような?
いや、深くは考えるまい。
なんだかんだで楽しいのだから、それでよしとしておこう。
やがて昼となり、たくさん動いたせいで腹が減る。
海沿いにカフェが設置されているため、飲食店には困らない。
今日は弁当などを持ち帰り、浜辺で昼ごはんを食べることにした。
「ねえねえ、アルト。どんなお弁当がいいかな?」
「わたしはここでしか食べられないものがいいですわ」
買い出しは俺とユスティーナとアレクシアが担当することになった。
この組み合わせに特に意味はない。
単なるじゃんけんによる結果だ。
「そうだな。アレクシアの言うように、ここでしか食べられないものがいいんじゃないか?」
「そうだね。ボクも賛成! でも、どんなものがあるのかな?」
「濃い味付けの焼き麺というものがあるらしいですよ。あと、海産物を鉄板で挟んで焼いた、海産焼きというのもおいしそうですわ」
「へー、色々と調べているんだね」
「ふふっ。こうしてお友達と旅行に出かけるなんて、初めてのことなので。とても楽しみにしていて、色々と調べておいたのです」
「なるほど! アレクシアは頼りになるね」
二人はライバルではあるが、仲が悪いということはない。
むしろ、仲は良いほうだ。
こうして笑顔で話をしているところを見ると、ついつい和んでしまう。
「ん?」
ふと、少し離れたところに見知った顔を見つけた。
一人じゃない。
二人組の男に声をかけられている。
とても迷惑そうな顔をしていて、状況から察するにナンパだろう。
「ユスティーナ、アレクシア。すまない、先に店に行っていてくれないか? 少し用事ができた」
放っておくことはできず、二人にそう言うと、俺は駆け出した。
彼女ほどの力があるのならば、そこらのナンパ男なんて相手にならないだろうが……
それでも嫌なものは嫌だろう。
助けるべきだ。
俺は一気に距離を駆け抜けて、ククルとナンパ男たちとの間に割り込む。
「なに、あんた?」
「邪魔なんだけど」
男二人が睨んでくるが、構うことなくククルに視線をやる。
「エステニア殿!? どうしてこのようなところに……」
「ただの偶然だ。出過ぎた真似かもしれないが」
「い、いいえ。そのようなことは……」
やはりナンパで困っていたらしく、ククルはどこかほっとしたような顔をしていた。
魔物を簡単に蹴散らすほどの力を持っているが……
それを人相手に向けることに抵抗があるらしく、手が出せないでいたのだろう。
真面目な人だ。
「あのさー、なんなのあんた? 俺ら今、楽しく話してたんだけど。邪魔しないでくれる?」
「とても楽しそうには見えなかったが。こういうところだ。ナンパをするなとは言わないが、相手が嫌がっているのならば、素直に退くべきだと思わないか?」
「こいつうっとうしいな……消えろよ」
片方の男が苛立ちをあらわにして、拳を振るってきた。
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