63話 聖騎士
「あれは……!?」
別の馬車が魔物の群れに襲われていた。
街道には簡易の結界が設置されているし、馬車そのものにも結界が搭載されている。
しかし、街にあるような完全なものとは違い、街道に設置されている小型の結界や馬車に搭載できる持ち運びタイプのものは効果が弱い。
小さな力を持つ魔物が近寄ってくることはないが、強い力を持つ魔物は、結界なんて無視して襲ってくる。
魔物の群れはオオカミに似ている。
ただし、背中に翼が生えていて、牙は鋭く口からはみ出すほどに長い。
王都から離れたところに生息している魔物なのだろう。
見たことはないが……
結界を意に介していないところを見ると、それなりに強いのだろう。
俺はいざという時のために用意しておいた槍を手に取り、すぐに馬車の外へ……
「待つんだ、アルト」
「どうして止める?」
救助に向かおうとしたら、テオドールが言葉で制止してきた。
「君は正義感が強いから焦るのもわかるが……よく見てみるといい。僕らの出番はなさそうだ」
「なに?」
改めて馬車を見てみる。
魔物の群れは十数匹ほどで、完全に馬車を取り囲んでいた。
ネズミ一匹逃さないような絶対の構えだ。
しかし、いつになっても襲いかかろうとしない。
ジリジリと前に出て……
けれどもすぐに後退してしまう。
まるでなにかを恐れているような反応だ。
「どういうことだ……?」
「見たままだろう。魔物が恐れるような存在がいるのだろうね」
テオドールの言葉に反応してというわけではないだろうが、馬車から一人の人影が降りてきた。
やや幼さが顔に残っているところを見ると、歳は俺たちと同じくらいだろう。
それに背が低い。
まるで子供みたいだ。
しかし、体つきはわがままだ。
出るところは出ていて、引っ込むところは引っ込んでいる。
男の視線を惹きつけるような魅力がある。
髪は長く……サイドポニーというやつだろうか?
片側にまとめて流していた。
飾り気のないシンプルな服を来ているが、それが逆に彼女の魅力を引き立てている。
彼女ならばどんな服でも構わない、というような感じだろうか。
スカートをたなびかせながら馬車から降りると、背中に手を伸ばす。
その背には……巨大な剣があった。
「魔物たちよっ、自分が相手になるのであります!」
女の子は自分の身の丈よりも大きい剣に振り回されることなく、しっかりと両手で構えた。
こう言ってはなんだが、異様な光景だ。
あの子、どのようにしてあんな巨大な剣を持っているんだ?
普通なら持ち上げることすらできないと思うが……
「ガァッ!」
女の子が剣を構えたことで、魔物たちも覚悟を決めたらしい。
一匹が牙を剥き出しにして飛びかかる。
「ふっ!」
斬。
気がつけば女の子は巨大な剣を振り抜いていた。
一瞬遅れて魔物の体が綺麗に縦に両断されて、左右に分かれて地面に落ちた。
「なっ……速い!?」
今の攻撃、視認することができなかった。
女の子の手元がブレたかと思うと……
次の瞬間、剣が振り抜かれていた。
どれだけの膂力があれば、あんな芸当ができるのだろうか?
いや、膂力だけの問題ではない。
技術も相当なものだ。
女の子は巨大な剣を自分の体の一部のように扱っている。
「やぁあああっ!」
仲間が一瞬でやられたことに魔物の群れが怯む。
それを見た女の子は、今度は攻撃に転じた。
爆発的な加速で魔物の群れに突っ込む。
これも速い。
じっと集中して見ていないと、女の子の姿を見失ってしまいそうだ。
「えぇいっ!」
女の子は魔物の群れの中心に飛び込み、巨大な剣を円を描くように振り回した。
その速度はすさまじく、剣圧で空気が揺れてしまうほどだ。
そんな一撃を受けて無事でいられるはずもなく、まとめて5匹の魔物が両断された。
「グルァッ!!!」
残りの魔物の群れが同時に襲いかかった。
そうでもしないと女の子を倒せないと判断したのだろう。
地面を駆けて、背中の翼で空を飛び……
ありとあらゆる角度から魔物の牙が女の子に迫る。
しかし、女の子は動じない。
今度は剣をまっすぐに前に向けて構える。
そして、超高速の刺突を繰り出した。
「ふっ! はっ! やっ!」
ただ超速で突きを繰り出すだけではない。
飛びかかる魔物と魔物の間に巨大な剣を滑り込ませるようにして、一度に数匹をまとめて屠る。
それを1秒間の間に数回……だと思う。
だと思うというのは、やはり見えなかったからだ。
気がついたら魔物の群れが一掃されていたため……そうではないか、という予測を立てただけにすぎない。
なんなんだ、あの子は……?
見た目は俺たちと同じくらいなのに、デタラメな力がある。
「ふぅ、こんなところでありますか」
魔物の群れが掃討されて、女の子は小さな吐息をこぼした。
しかし、その死角にもう一匹、魔物が……
「このっ……!」
「ギャンッ!?」
俺はその場から槍を投擲して、女の子に襲いかかろうとしていた最後の一匹をしとめた。
女の子は冷静に振り返る。
その顔に驚きに類する感情は浮かんでいない。
俺が手を出すまでもなく、気がついていたみたいだ。
ちょっとバツが悪いが……
手を出した以上、声をかけないというのも失礼な気がして、俺は槍を回収した後、女の子のところへ向かう。
「すまない、余計なお世話だったか?」
「いいえ、そんなことはありませぬ。助かりました。あなたの助力に感謝するであります」
女の子はぺこりと頭を下げた。
本当は俺の助けなんていらなかっただろうに……とてもまっすぐな子なのだろう。
「俺は、アルト・エステニア。王都の竜騎士学院に通っている」
「なるほど、竜騎士でありましたか」
「15歳で入学したばかりだから、まだ見習いだけどな」
「見習いなのに、あれほどの鋭い攻撃を? なるほど、エステニア殿はとても強いのでありますな」
「そう……か?」
「はい。とても強いと思うのでありますよ」
どう考えてもこの子の方が強いのだけど……
それでも、そう言われることは素直にうれしく思う。
それにしても、独特のしゃべり方をする子だな?
アルモートではあまり聞かない口調だ。
「はっ!?」
突然、女の子がビクンッとなった。
「失礼しました! 名乗り遅れていました!」
そんなことを気にしていたらしい。
真面目な子みたいだ。
「自分の名前は、ククル・ミストレッジといいます。聖国フィリアにて、聖騎士を務めているのであります!」
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