表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
61/459

61話 トラブルと和みと

「ねえ君、見かけない顔だけど、最近働き始めたの?」

「かわいいよね。仕事いつ終わり? よかったら一緒に遊ぼうよ」

「えっと、その……」


 さきほどまで一緒に働いていたジニーの姿が見当たらない。

 そんなことを思っていたら、奥のテーブル席にジニーを見つけた。


 なにやら二人組の男の客に積極的に話しかけられていて……

 ジニーはとても困った顔をしていた。


「マグナさん、少し問題が」

「うん? どうしたんだい?」


 調理で忙しそうにしているところ申しわけないが、マグナさんに判断を求めることにした。

 ここが外ならすぐに割って入るが……

 店に影響があるかもしれないと考えると、ためらってしまう。


 事情を説明しようとして……


「こらっ、なにしてるの!」


 それよりも先にユスティーナが動いた。

 ジニーを背中にかばうようにして、男たちと対峙する。


「ナンパとかそういうの目的なら、やめてくれないかな? ここはそういうお店じゃないんだよ」

「エルトセルクさん、私は別に平気だから……というか、あまり騒ぎにしたらまずいというか……」

「ダメだよ」


 迷うような顔をするジニーに、ユスティーナはきっぱりと言う。


「嫌なことはハッキリと嫌って言わないと」

「それは……」

「というか、ジニーが困っているのに放っておくことなんかできないし。ボクたち、友達じゃない」


 ああ、なんていうか……

 ユスティーナはどんな時でも、いつでもまっすぐなんだな。

 そんなところがとてもうらやましく思う。


 同時に、判断に迷ってしまった自分のことを恥ずかしく思った。

 店に迷惑をかけてしまったとしたら、それはマグナさんに申しわけなく思うが……

 ただそれよりも、ジニーが……友達が嫌な思いをしているのに、それを放置するなんてこと、したらいけないのだ。


 目が覚めた俺も間に割り込み、ジニーとユスティーナの前に立つ。


「お客さま、なにか問題が?」

「アルト!」

「アルト君!」

「……悪い、迷ってしまった」

「ううん、いいよ。アルトなら、なんだかんだで助けてくれるって思っていたから」

「ありがとね、アルト君。うれしいよ」


 迷うことではなかったな。

 そう思いつつ、二人の男を見る。


「別になんでもないすけど? っていうか、邪魔なんで消えてくれません? なあ」

「ああ、俺らは別に……って、ま、マジか!? なんでこんなところに……」


 片方の男が俺を見て顔色を変えた。


「ん? どうしたんだよ?」

「やばい……すぐ外に出るぞ」

「なんだよ、急に。こんなガキに舐められていいのかよ?」

「ばかやろう! こいつはアルト・エステニアだ! この前、偶然、顔を見たことがあるからわかる!」

「なっ……それって、金竜章と銀竜章を授かったっていう……?」


 男二人は顔を見合わせて……


「「さ、さようなら!」」


 慌てて会計を済ませて素直に店を後にした。


「さっすがアルト、有名人だね!」

「はは、喜ぶべきなのか……」

「よかった、問題なかったみたいだね」

「あ、マグナさん」


 奥からマグナさんが姿を見せた。

 話の途中で出てしまったから、何事かと気になっていたらしい。


「すみません、余計な心配をかけるようなことを言って」

「いいんだよ。仕事も大事だけど、君たちのことも大事だからね。姪っ子のためにありがとう」


 マグナさんは笑顔でそう言うと、再び奥の厨房に戻った。

 それだけを言うために出てきたらしい。

 マグナさんの発言は、俺のことを認めてくれたような気がして、素直にうれしく思う。


「それじゃあ、ボクたちもがんばろうね」

「そうね」

「ああ」


 ユスティーナの言葉に俺とジニーは頷いて、再び仕事に励んだ。




――――――――――




 男性陣は何度か交代を繰り返して、表と裏を行き来した。

 そうしているうちに忙しい昼食タイムが終わり……

 穏やかな午後の時間が訪れる。


 俺は再び表に出ることになるが……


「なんだ?」


 店の一角に人だかりができていた。

 トラブル……というわけではなさそうだ。

 悲鳴やら怒号やらは聞こえない。


 だとしたら、いったい……?


「よし、できた!」


 マグナさんが厨房から出てきた。

 その手に皿を持っている。

 フルーツや生クリームでデコレーションされた、やわらかそうなプリンが乗っていた。


「マグナさん」

「お、アルト君かい。今度は君の番なんだね」

「はい。それ、オーダーですか? 俺が持っていきますよ」

「ああいや、これはそういうものじゃないんだ。大丈夫、僕が持っていくよ」

「?」


 客のものじゃないとしたら、誰のものなのだろうか?

 不思議に思いマグナさんの後をついていく。


「んぅ~♪」


 店の奥にノルンがいた。

 俺たちがアルバイトをしている間、ここで待機しているはずなのだけど……


 なぜかホットケーキを食べていた。

 唇の周りや頬をシロップでベトベトにして、幸せそうに頬張っている。


「やあ、ノルンちゃん。新しいデザートを持ってきたよ」

「わぁ!」


 マグナさんがプリンを差し出すと、ノルンの目がキラキラと輝いた。

 見た目は俺たちとさほど変わらないのだけど、中身は小さな子供だ。


 スプーンをぎゅっと握りしめて、プリンを口に運ぶ。

 そのまま今度は生クリームとカラメルシロップで口元をベトベトにして、マグナさん特製のデザートを堪能する。


「どうだい? おいしいかい?」

「んっ!」

「そうかいそうかい、そう言ってくれるとおじさんもうれしいよ」


 言葉はないけれど、ノルンが喜んでいることはわかる。

 うれしそうにプリンを食べるノルンを見て、マグナさんはでれっとした顔になった。

 まるで初めての孫を溺愛する祖父のようだ。


「えっと……マグナさん、これはいったい?」

「見ての通りさ。おやつの時間だから、ノルンちゃんに色々と食べてもらおうかな、って」

「えっ」

「ああ、お金のことは気にしなくていいよ。僕が好きでやっていることだからね」

「しかしそれはもうしわけないというか……」

「いいんだよ。一料理人として、ノルンちゃんみたいな子に僕が作ったものを食べてもらえるなら、これほどうれしいことはない」


 ノルンは相変わらず、とても素敵な笑顔でデザートを食べていた。


 なんとなくではあるが、マグナさんの気持ちがわかるような気がした。

 自分の作った料理を、こんなにもおいしそうに食べてもらえたら……料理人にとってはこの上なくうれしいことだろう。


 とはいえ、さすがにタダというのは悪い。

 俺がノルンの保護者なのだから……

 きちんと代金は払わないといけない。


 そう言うと、マグナさんはやはり気にしないでいいと言う。

 その説明もしてくれる。


「アルト君、他のお客さんを見てごらん」

「えっと……?」


 言われるまま周囲を見てみると……

 パンケーキを頼んでいる人がたくさんいた。

 それから新しくプリンを注文する人がいた。


 皆、ノルンを見ている。

 マグナさんと同じようにデレデレだった。


「ノルンちゃんはとてもおいしそうに食べるからね。他のお客さんも、こぞって同じものを注文しているんだ」

「なるほど」

「ノルンちゃんは宣伝上手の看板娘だね。おかげで売上も大幅アップ。これだけのことをしてもらっているんだから、デザート代なんて安いものさ。だから本当に気にしなくていいよ」

「えっと……わかりました。なら、今回はお言葉に甘えさせてもらいます」


 ありがとうございますと頭を下げた。


「んっ……んぅ!」


 ノルンがこちらに気がついて、プリンをすくったスプーンを差し出してきた。


「俺にくれるのか?」

「んぅ!」

「ありがとう」


 一口、プリンをいただいた。

 ノルンが「おいしい?」というような顔でこちらを見てくるので、その頭を撫でてやる。


「おいしいよ。ありがとうな、ノルン」

「あぅ♪」


 ノルンはとてもごきげんな様子でにっこりと笑い……。


「むぐぐぐ……あの子、侮れない!」

「わたしもなでなでしてほしいですわ……」


 後ろでユスティーナとアレクシアが嫉妬して、ジニーが苦笑するのだった。

『よかった』『続きが気になる』など思っていただけたら、

評価やブックマークをしていただけると、すごくうれしいです。

よろしくおねがいします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
別の新作を書いてみました。
【堕ちた聖女は復讐の刃を胸に抱く】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。

【ネットゲームのオフ会をしたら小学生がやってきた。事案ですか……?】
こちらもよろしくお願いします。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ