58話 おしかけ転入生
「えー……というわけで、新しく当学院に入学したノルン・エルトセルクさんです」
「んっ!」
翌日。
授業が始まる前に、ノルンが転校生として紹介されていた。
一人、寮に残しておくことはかわいそうという話になり……
かなり強引ではあるが、入学してもらうことにした。
またユスティーナの力を頼りにしてしまい、複雑な気分ではあったが……
当のユスティーナはノルンのことをなんだかんだで同じ竜として気にかけていたらしく、今回の無茶な頼みを快く引き受けてくれた。
ちなみに名字がユスティーナと同じなのは、ユスティーナの父が保護者になったからだ。
本来ならば俺の役目なのだけど……
やはりまだ俺は子供で、それだけの大役を担うことができないという問題があった。
あと、ユスティーナが、俺とノルンが同じ名字になったら結婚しているみたいでやだ! と猛反対した。
そんな経緯もあり、ノルンは一時的にではあるがエルトセルク性を名乗ることになった。
「それでは、エルトセルクさん……えっと、ややこしいですが仕方ないですね。とにかく、みんなに挨拶を……」
「んっ!」
「あっ、エルトセルクさん!?」
ノルンは先生に挨拶を促されるが、それを無視してこちらに駆け寄ってきた。
そのままぎゅうっと抱きついてくる。
「えへ~♪」
ノルンはうれしそうにしていて……
「「むうううっ」」
ユスティーナとアレクシアが頬を膨らませていた。
もう少しで一学期が終わるというのに、最後の最後でもう一波乱起きそうな予感だった。
というか、すでに起きているのかもしれない。
――――――――――
ノルンは俺の後ろの席になった。
座学などは言葉が通じないノルンはさっぱり理解できない様子で、とてもヒマそうにしていた。
ちょくちょく俺の背中をつついたり、構ってというように鳴いたり……
そのうちスヤスヤと寝てしまった。
先生はこめかみの辺りをひくつかせていたが……
そもそもノルンは竜なので、座学などを受ける必要はない。
ただ単に俺と一緒にいたいという理由で、人の姿を取り、一緒に授業を受けているだけだ。
なので、テストで悪い点を取っても問題はない……というか、そもそもノルンは……ついでにユスティーナもテストを受ける必要がない。
だから、寝ていても問題はない、というわけだ。
そのことを先生も理解しているらしく、しかし堂々と居眠りをするノルンを腹立たしく思っているらしく……
複雑な顔で授業を続けていた。
……今度、ノルンにきちんと授業を受ける必要性があることを教えないといけないな。
――――――――――
「ん~♪」
体育の授業中……ノルンはご機嫌な様子でグラウンドを駆けていた。
座学と違い、体を動かすことは好きらしく、犬のようにあちらこちらを走り回っている。
もしも竜の形態になっていたら、尻尾がブンブンと左右に揺れていただろう。
ただ今はマラソンではなくて、ボールを使った球技の最中だ。
走り回るだけでは意味がない。
先生も困った様子で……しかし、あまりにもノルンが楽しそうにしているものだから注意もできず、そのまま放置されていた。
「こーら」
「はぅんっ!?」
ユスティーナがノルンを止めて、こつんとげんこつを落とした。
「好き勝手して他の人を困らせたらダメだよ」
ユスティーナも転入当時は、色々とやらかしていた気もするが……
それは口にしないでおいた。
「うぅ……」
同じ竜だからなのか、言葉は通じなくてもなんとなくはわかるらしく、ノルンはしょぼんと肩を落とした。
きちんと反省しているみたいだ。
ノルンは話をすればきちんと聞いてくれるんだよな。
ただ言葉が通じないから、なかなか説得することが難しくて……
まあ、この辺りは気長にやっていくしかないだろう。
その間の先生の胃痛などは……すまないが、我慢してもらうしかない。
「やあ、アルト」
「ん? ……ああ、テオドールか」
振り返ると体操服を着たテオドールがいた。
今日の体育はテオドールのクラスと合同なのだ。
「アルトは休憩中かな?」
「ああ。一度に全員はプレイできないからな。テオドールは?」
「僕も休憩さ。アルトも見ていただろう? 先ほどの僕の鬼も裸足で逃げ出すほどの活躍を。あれほどの活躍をした後だから、さすがに疲れてしまってね」
すまん。
まるで見ていない。
「あの子は……元気そうにしているな」
テオドールは自然な感じで隣に座り、グラウンドの一角で戯れているユスティーナとノルンを見た。
「しかし、アルトの懐は大きいな」
「なんのことだ?」
「操られていたとはいえ、一度は刃を交わした竜を受け入れてしまうとは……なかなかできることではないと思うぞ」
「そういうものだろうか?」
「そういうものだ」
「ふむ」
「さすが、僕の一の友だ。僕は誇らしく思うよ」
先の事件以来……
テオドールはアレクシアに無理に迫ることは止めた。
今は普通の友人として接している。
しかしどんな心変わりがあったのか、今度は俺に絡むようになった。
絡むといっても兄のセドリックとは違い、友人としてちょくちょく声をかけてくるようになった。
俺に助けられたことを深く感謝して一の友になろう……と、いつだったか言われたことがある。
やや思い込みが激しいところがあるものの……
なんだかんだでテオドールは悪いヤツではなくて、むしろ裏表のない心を持つ、気が良いヤツだ。
アレクシアの一件は忘れて、俺たちは友情を結ぶことにした……というわけだ。
「ところで、君は誰を選ぶんだい?」
「なんの話だ?」
「決まっているだろう、恋人の話だ」
なんとなくではあるがテオドールの言いたいことを理解した。
「エルトセルク殿、エルトセルク嬢……ややこしいな。それとイシュゼルド嬢にステイル嬢。四人もの女性から愛されているではないか。しかも、皆素敵な女性だ。君がうらやましいよ」
「俺にはもったいない話というのはわかるが……」
「もったいないということはないではないか。君は金竜章だけではなくて、先の活躍で銀竜章も授かったではないか」
そうなのだ。
暴走するエンシェントドラゴン……ノルンがあのまま王都に進行していたら、どれだけの被害が出ていたか。
それを食い止めた功労者として、銀竜章を授かることになった。
ユスティーナの力によるものが大きいと思っているが……
その場で一部始終を見届けていた竜騎士の証言で、俺の超高度からのダイブなどが語られることになった。
それがトドメとなり、叙勲となったわけだ。
俺には過ぎたもののような気がするが……
周囲の勧めもあり、素直に受けておくことにした。
「それで、アルトは誰を選ぶのかな?」
「それは……」
「ふむ、まだ決めかねている様子だね」
「情けないことに、そういう方面は今までからきしだったからな」
「それは珍しい。僕なんて、そちらの方面のことしか考えてこなかったよ。はっはっは」
それはそれでどうかと思うが。
「僕としては、エルトセルク殿が本命だと思っていたが……どうなんだい?」
「ユスティーナは……大事な存在だと思っている」
ユスティーナがいなければ、俺はセドリックのいじめから逃れることはできず、自分で立ち上がることもできず……
きっと、未だに底辺を這いずっていただろう。
今の俺があるのはユスティーナのおかげだ。
それは間違いない。
ただ、それが恋心かどうかとなると判断に迷ってしまう。
英雄になることばかりを考えて、そういう方面に関心を持ったことがないため……
それとユスティーナの隣に立つにふさわしい男といえるか、まだまだ微妙なところであり……
なかなか答えを出すことができない。
アレクシアに対しても同じようなものだ。
彼女の好意はうれしく思うが、それにどう答えていいかわからない。
ジニーは……そもそも、俺に好意を持っているのだろうか?
テオドールの勘違いで、ただの友達という線が濃厚なのだけど……
ノルンに関しては、なんともいえない。
好かれているという自覚はあるが、動物に懐かれているような感覚もあり……
今は意思疎通ができるようにならないと、どうにもいえない。
「正直なところ、なんともいえないな。ユスティーナたちには悪いと思うが、今しばらく時間がほしいところだ」
「ふむ。君は誠実なのだね」
「ずるずると答えを伸ばしているのに?」
「それだけ真剣に彼女らのことを考えている、ということだろう? 誠実だよ。僕にはとてもじゃないけれどできないことさ」
「そう言ってもらえるとうれしく思う。ありがとう」
「一つアドバイスをするなら……いっそのこと、全員を選ぶというのも手ではあるけどね」
「全員、って……」
「知っているだろう? アルモートは一夫多妻が認められている。この国は女性の方が多く、男性が少ないからね。特にアルトのような優秀な者ならば、その血をたくさん残すために、多くの妻を迎えることが一般的とされている。皆、妻として迎えたらどうだい?」
「簡単に言ってくれるな……」
王都では一夫多妻が普通なのかもしれないが、俺がいた田舎はそこまで一般的ではなかった。
だから、テオドールの提案にすぐに答えることができなかった。
ただ……それならば誰も傷つけることはないのだろうか?
誰一人傷つけたくないというのは、わがままで……甘い考えなのだろうか?
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