51話 伝説との戦い
「みんなはサポートに徹して! 隙を見て攻撃して、注意を逸らすくらいで! アルトは逆鱗を探し出して壊して! そのための時間と隙はボクが作るから!」
ユスティーナがみんなに指示を飛ばした。
「逆鱗っていうと、触れたら激怒するというヤツだよな? そんなものを壊して大丈夫なのか?」
竜の逆鱗、なんて言葉が激怒するという意味合いで使われているように、本来ならば触れてはいけないものだ。
ちなみに、数ある鱗の中で一枚だけ逆さを向いている。
それが逆鱗だ。
「大丈夫! 確かに怒ることは怒るけど、それは逆鱗がある種、弱点だから触れられたくないだけ。うまく壊すことができれば無力化できるはず!」
ユスティーナの話によると……
竜の逆鱗は確かに存在するらしい。
ただ、その場所は固定されていない。
人の指紋と同じように個人個人によって異なり、位置はバラバラだという。
おまけにその強度は他の鱗の倍近く。
通常の鉄の武器では傷一つつけることはできない。
「ボク、細かい一点を狙うなんてことできないから」
「かといって、俺に壊すことができるのか……? 手持ちの武器は訓練用の槍だけなんだが……」
「だいじょーぶ! コレを使って!」
ユスティーナはエンシェントドラゴンを牽制しつつ、ぽんっと器用になにかを投げた。
それを空中でキャッチする。
確認すると……
それは竜の鱗だった。
夜の闇を凝縮したように黒い。
「もしかしてこれは……」
「そう、ボクの鱗だよ。お守り代わりにアルトに渡そうと思っていたんだけど、ちょうどいいや。ボクの鱗の方が固いから、それをぶつければなんとかなるはず!」
「わかった!」
「エンシェントドラゴンをなんとかすれば、テオドールも取り押さえることができるな」
「それは私たちに任せて!」
作戦は決まった。
後はうまく立ち回るしかない。
「みんなっ、いくよ!」
ユスティーナが竜形態に戻り……
伝説との戦いが始まる。
――――――――――
巨大な竜と竜が激突した。
周囲の木々は紙のように吹き飛ばされる。
地面に大きな穴が開いて、地震が起きているかのように大地が揺れる。
隙を見て倒れている生徒と竜は避難させておいたが……
もしも避難が遅れていたら、完全に巻き込まれていただろう。
「イケ……っ!」
テオドールの指示で、エンシェントドラゴンがユスティーナの首を狙い噛みついた。
しかし、牙は鱗に阻まれて通らない。
それは作戦だったらしく、ユスティーナはカウンターの一撃を繰り出した。
その場でぐるりと回転して、尻尾を鞭のようにして使い、エンシェントドラゴンに叩きつける。
堅牢な砦を一撃で破壊するほどの威力だ。
エンシェントドラゴンといえど耐えることはできず、その巨体が吹き飛んだ。
木々を十数本まとめてなぎ倒しながら、その巨体が横に沈む。
その隙を狙い俺たちが動いた。
「これでも……」
「くらいなさい!」
グランとジニーがエンシェントドラゴンを狙う……
わけではなくて、すぐ近くに生えている大きな木を切り倒した。
角度をしっかりと計算して、武器を振るう。
大木がエンシェントドラゴンに向けて倒れ込んだ。
固い鱗を突破することはできないが、大木の重みで衝撃を与えることに成功する。
「いくぞ!」
続けてアレクシアと竜騎士たちが動いた。
訓練用の武器で攻撃をしかけるが、当然、ダメージは与えられない。
エンシェントドラゴンはわずらわしそうにしつつ、無視して起き上がろうとする。
しかし、それは失敗だ。
「これならどうですか!?」
竜騎士がエンシェントドラゴンの眼前に剣を投げつけて……
「紅の一撃!」
アレクシアの放つ魔法が剣を爆発、四散させた。
訓練用の剣ではあるが、ほぼほぼ鉄でできている。
それが四散すれば、鉄の刃の雨が降り注ぐようなものだ。
しかも目の前で。
エンシェントドラゴンの瞳も鉄のように固く、貫くことはできないが……
ダメージを与えることに成功したらしく、悲鳴がこぼれた。
「クッ、イマイマシイ……!
「グルルルルルゥ……!」
ほどなくしてエンシェントドラゴンが体を起こした。
怒りのためか、さきほどよりも瞳が赤い気がした。
テオドールもところどころに怪我を負っているが、大したことはないらしい。
ダメージは与えたように見えたが……
それはほんの少しだったらしい。
やはり、ユスティーナが言うように逆鱗を破壊しないといけないようだ。
「ユスティーナ、アレクシア、頼む!」
「うん、任せて!」
「はい、アルトさまのために!」
アレクシアが魔法書を開いて、魔力を収束。
全力で魔法を解き放つ。
「蒼の三連!」
エンシェントドラゴンの足元で水が爆裂して……
それらが急速に冷えて塊、氷となる。
「グルァ!?」
やはりダメージを与えている様子はない。
しかし、足を氷漬けにしたことで動きを封じることができた。
とはいえ、それも一瞬。
エンシェントドラゴンの力に敵うわけがなく、氷はすぐに砕けてしまうが……
「十分っ!」
一瞬の隙をついてユスティーナが突貫した。
さきほどのお返しというように、エンシェントドラゴンの首に噛みついた。
さらに体当たりをしかけて、その巨体を地面に押し倒す。
エンシェントドラゴンはすぐに起き上がろうとするが……
「やらせないよ!」
ユスティーナがのしかかるようにして、その動きを封じた。
「いいぞ、ユスティーナ! そのまま押しつぶしておいてくれっ」
「まるでボクが重いような言い方やめて!?」
潰されないように細心の注意を払いつつ、エンシェントドラゴンの懐に潜り込んだ。
ここまで来ることができたのは、みんなのおかげだ。
みんなの連携のおかげだ。
一人一人は小さな力で、エンシェントドラゴンに対抗することはできない。
しかし、力を合わせて……
息をぴたりと合わせて……
一気に攻撃をしかけることで、こうして追い込むことができた。
力を合わせることができるのならば、例え相手が伝説と言われる竜だとしても……
戦うことはできる!
「見つけた!」
一つだけ逆さを向いている鱗……逆鱗。
コイツは伝承通りに、顎の下に逆鱗があった。
エンシェントドラゴンの上に飛び乗る。
ユスティーナが押さえているが、おとなしくしているわけがない。
ユスティーナから逃れようともがいており、極大の地震に襲われているかのように揺れた。
放り出されそうなところを必死に耐える。
それでいて体を進めて、逆鱗のところへ。
「キサマ!」
「おとなしくしてろっ」
テオドールが掴みかかってくるが、やけに動きが鈍い。
やり過ごせると判断して、進路を変えてすり抜ける。
「これで……」
ユスティーナの鱗を武器のように構えて、おもいきり振り上げる。
「眠れぇえええええっ!!!」
全力でエンシェントドラゴンの逆鱗を攻撃した。
鋼鉄のような鱗と鱗が激突する。
ギィンッ! と甲高い音が響いて……
その後、静寂。
俺は動きを止めた。
ユスティーナも動きを止めた。
他のみんなも動きを止めた。
そして……エンシェントドラゴンも動きを止めた。
誰もが息を止めて見守る中……
エンシェントドラゴンの逆鱗に、ピキリとヒビが入る。
そのヒビは少しずつ全体に広がり……キィイイインッと澄んだ音を残して、粉々に砕けた。
「やった!」
それは誰の声だろうか?
みんなの心の声を代弁するように言うのだけど……
しかし、喜ぶのはまだ早かった。
「クゥ……マダオワラナイ!」
「グゥ……グルァアアアアアァァァッ!!!!!」
テオドールは負の感情に包まれた声を撒き散らして……
エンシェントドラゴンは狂ったような咆哮を上げて、空に飛び立つ。
『よかった』『続きが気になる』など思っていただけたら、
評価やブックマークをしていただけると、すごくうれしいです。
よろしくおねがいします!