48話 時には潔く
「グランとジニーとアレクシアは竜騎士を頼む! 時間を稼ぐだけでいいからな!」
三対一ではあるが、相手は正規の竜騎士だ。
しかも、俺たちの奇襲にすぐに対応して、竜に騎乗した。
二人、行動不能にしているものの……
それは奇襲が成功したからであり、まともに正面からぶつかっていたら、簡単に蹴散らされていただろう。
それだけの相手なのだから、絶対に油断することはできない。
卑怯ではあるが、数で押し込むことにした。
「俺はテオドールをやる!」
槍を構えて、テオドールと対峙した。
向こうも俺との決着を望んでいるらしく、剣を構えて対決に応じてくれる。
「アルトー、がんばれー! そんなヤツ、ぶっとばしちゃえー!」
「オンッ!」
ユスティーナと魔物の声援が聞こえてきた。
ちょっと気が抜けてしまうが……
でも、なにもないよりはいいか。
誰かが近くにいてくれるということを実感できて、とてもありがたい。
「ふふっ、君との付き合いは短いけれど、とても強く印象に残っているよ。僕が……アストハイム家を相手にすると、誰も彼もが恐れ、身を引いてしまう。しかし、君はそんなことはない。兄にいじめられていたというのに、心が折れることはなく……やがてその兄を打倒して、ついにこの僕のところまでうぉうっ!?」
長々とした台詞に付き合うことはできず、体の中心を狙い槍で突いた。
さすがというべきか。
テオドールは動揺しながらも、剣を盾にしてしっかりとガードした。
「不意打ちとは卑怯なっ」
「すまん、あまりにも隙だらけだからつい」
……よくよく考えてみれば試合というわけじゃない。
バトルロイヤルのようなものだから、いちいち戦闘開始の合図なんてない。
すでに戦いは始まっているのだ。
いちいちテオドールに付き合うなんて面倒極まりないし……
そもそも、俺は絶対に勝たないといけないのだ。
アレクシアのために。
ならば遠慮することはない。
勝つためにいこうではないか。
「はぁっ!」
二度目の突きを放つ。
踏み込むと同時に、全身の筋肉を使い……
先ほどよりも鋭い一撃を穿つ。
しかし、テオドールは再び剣を盾に防いだ。
「くっ……やるではないか! さすが僕のライバルだ」
「だから、いつの間にライバルになったんだ?」
「さあ、いくぞ!」
「来い!」
正直なところ……
なにか罠があるのではないか?
ジャスの時のように卑怯な策があるのではないか?
そんなことを頭の片隅で考えていて、警戒していた。
どんなことが起きても対処できるように冷静でありつつ、
罠も突破できるように力も温存していた。
もう一度くらいなら、リミッター解除を使うことができる。
ただ……それらは杞憂に終わる。
テオドールはまっすぐにぶつかってきた。
己の剣技だけを武器に戦い、卑怯な策を弄するということはない。
思い込みが激しいとか、女性関係に問題があるとか……
そういう問題点はあるものの、テオドールは悪い人間ではないのだろう。
こうして武器を交えることでそのことを改めて理解することができた。
テオドールなら、あるいはアレクシアを幸せにできるのかもしれない。
家柄は問題ないし、たぶん、浮気もしないだろう。
家族は大事にしそうだから、暴力の心配もない。
ただ……
肝心のアレクシアがそれを望んでいない。
そして、言葉では伝わらない。
ならば、俺がやることはただ一つ。
アレクシアの剣となることだ。
「くっ、この強さは……!?」
何度も何度も剣と槍を交わして……
激突を繰り返して……
次第に戦況は俺に傾いてきた。
テオドールは強い。
学院に入学したばかりだというのに、かなり剣を使うことができる。
おそらく、独自に訓練を積んでいたのだろう。
しかし、俺も負けていられない。
ジャスと戦った時は、体力が切れるのを待つという方法をとった。
でも、いつまでもそんな方法が通じるとは限らない。
あれから毎日、グランとジニーを相手に特訓をして……
しっかりと対人戦のスキルも習得した。
テオドールのフェイントに引っかかることはなく……
逆にこちらがフェイントをしかけて、隙を誘う。
「ぐっ……なんという!」
テオドールの顔に焦りの色が浮かぶ。
それは次第に大きく強くなり……
汗も流れてきた。
その汗が目に入り、テオドールの動きが一瞬止まる。
ここだ。
最大の隙を見逃すことなく、俺は槍を地面に突き刺した。
そのまま槍を持ち上げるようにして……
空高くに跳躍する。
宙で体を反転させて、改めて槍を構える。
そして、直上からの襲撃。
全体重と落下速度を込めた一撃がテオドールに炸裂した。
「ぐあああああぁっ!?」
テオドールは剣を盾に受け止めようとしたが、その剣が砕けた。
槍はそのままテオドールの腹部を痛烈に打つ。
その体が吹き飛び、山肌の上に転がる。
地面に着地した俺はすぐに追撃に移り、駆けた。
未だ地面に転がるテオドールの前に立ち、槍を眼前に突きつける。
「終わりだ」
「くっ……!」
テオドールは苦痛に顔を歪めつつ、こちらを睨みつけてきた。
その瞳には闘志が燃えている。
まだ諦めないというのか?
それほどまでにアレクシアが好きだというのか?
しかし。
俺を信じてくれたアレクシアを渡すことなんてできない。
こんな俺を好いてくれているアレクシアのために、できることはなんでもやるつもりだ。
手加減、妥協は一切しない。
テオドールがまだ抵抗するというのならば、徹底的にやるだけだ。
「……ふぅ」
そんな俺の覚悟が伝わったのだろうか。
ふと、テオドールは体の力を抜いた。
こちらを睨みつけるのをやめて、苦笑する。
そして……ゆっくりと両手をあげた。
「どうやら僕の負けみたいだな……降参しよう」
その声で、グランたちも動きを止めた。
「リーダーである僕が負けた……つまり、こちらのパーティーの負けだ。戦闘はここまでとする」
テオドールの言葉に、竜騎士は竜から降りて武装を解除した。
「意外と潔いんだな」
「ふっ……貴族として恥は見せられないだけさ。敗北を認めず暴れる方がみっともないからね」
なるほど。
テオドールなりの美学に則って動いている、ということか。
それなら納得だった。
罠の心配はないだろう。
俺たちの勝ちだ。
「アルトさまっ!!!」
とびっきりの笑顔を浮かべたアレクシアが、おもいきり抱きついてきた。
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