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47話 二日目の激戦

 テオドールのパーティーは山を少し登ったところを拠点としていた。

 やや傾斜はあるが、休憩をする分には問題はない。


 見通しはいい。

 敵に見つかりやすいというリスクはあるが、反面、奇襲を受ける可能性も低い。


 リスクとリターンを秤にかけて、テオドールは山を拠点にすることを選んだ。

 こちらには正規の竜騎士がいる。

 正面からの勝負ならば、まず負けることはないだろう。


 しかし、奇襲となれば話は別だ。

 万が一が起きる可能性はある。

 そのため、奇襲される可能性を限りなく減らすという選択肢をとったのだ。


 校外試験二日目。


 数々の課題を達成して……

 さらに複数のパーティーに打ち勝つことで、テオドールが獲得したポイントは120に達していた。

 アルトの三倍だ。

 そのことをテオドールは知らないが……

 これだけの数を、このペースで稼いでいけば勝てるだろうと確信していた。

 それだけの手応えを得ていた。


 故に、油断をする。

 故に、自身が奇襲されると考えていない。




――――――――――




「……本当にいたね」


 山を少し登り、手頃な大きさの岩の影に隠れて、そっと前方の様子をうかがう。

 テオドールと三人の竜騎士……それと竜の姿があった。


「ぶっちゃけ、私、成功確率は半々くらいと思ってたよ」

「俺も……」

「提案した私が言うのもなんですが、実は私も……」


 テオドールを見つけた方法。

 それは……


「よしよしよしっ、わーしゃしゃしゃしゃしゃ。君はえらいねー」

「ワフッ」


 今朝、ユスティーナが手懐けたわんこがいた。

 いや、わんこではない。

 ユスティーナに腹を見せて完全服従の姿勢をとっているが、一応、あんなでも魔物だ。


 その魔物は、口にハンカチを咥えている。

 以前、アレクシアがテオドールから無理矢理プレゼントされたものだ。


「魔物を犬代わりにして、テオドールの持ち物の臭いを嗅がせて追跡する……本当にうまくいくとはな」


 俺も成功確率は低いと思っていた。

 他に手もないし、うまくいけば儲けもの。

 ダメなら別の手を考える……あるいは他の策を組み合わせて成功確率を上げる、というように考えていた。


 それなのに……

 まさか、試しにやらせてみたところ、一発でテオドールの居場所を割り出すことができるなんて。

 このわんこ、思っていた以上に優秀だ。

 後で褒美をやらないといけないな。


「ねえ、アルトぉ……」


 ユスティーナがうるうるとしつつ、こちらを見た。

 わんこもくぅーんと鳴きながら俺を見た。


「……わかった。飼ってもいいぞ」

「やったー!」

「ただし、きちんと世話をするんだぞ。許可を取るところまでは俺も協力するが、その後の世話はユスティーナがきっちりすること」

「うんっ、ボク、がんばるよ!」

「……なんか、エルトセルクさんがアルトの娘に見えてきたな」

「……不思議ね、兄さん。私も同じことを考えていたところよ」

「あ、あはは……」


 さて……寸劇はここまでにしよう。

 校外試験、最大の山場が目に前にある。

 気合を入れて乗り越えないといけない。


「アルト、作戦はどうする?」

「そうだな……」


 考える。

 テオドールはともかく、正規の竜騎士が三人というのが限りなく厄介だ。

 竜騎士たちをどうにかしないと勝ち目はない。


「……奇襲を仕掛ける。二人がかりで、弓と魔法書を持つ竜騎士をまず最初に倒す。武器からして後衛だろう。奇襲には弱いはずだ」

「正規の竜騎士相手に、不意打ちが通用するかしら? 仮に通用したとしても、初撃で戦闘不能に陥らせるのはかなり難しいと思うんだけど……」


 ジニーの疑問はもっともだ。

 なので、保険を用意する。


「ユスティーナのおかげで、ちょっとした技を覚えたところだ。ソイツを使えば、たぶん、問題ない」




――――――――――




 岩場の影に身を潜めて、それぞれ配置についた。

 武具を構える。

 いつでも動き出せるように足に力を入れる。


 グラン、ジニー、アレクシアを順に見る。

 三人はいつでもいいというように頷いた。


 手を見せてサインを送る。

 カウントダウン……開始。


 3……2……1……


「翠の三連!」


 カウントゼロと同時に、アレクシアが風の魔法を放つ。

 強風が吹き荒れた。

 攻撃力はないものの、嵐の中で動くことはできない。


 数秒ではあるが、竜騎士たちの動きを封じることに成功する。

 そして……その数秒があれば十分だった。


「まずはっ!」

「一人っ!」


 グランとジニーの連携が炸裂して、弓を持つ竜騎士を倒す。


「いくぞっ!」

「紅の一撃!」


 俺もアレクシアと合わせるように動いて、魔法書を持つ竜騎士に痛烈な打撃を与えた。


「バカなっ、奇襲だと!?」

「くっ……なかなかやる!」


 テオドールは動揺を見せていて、最後の竜騎士は、さすがというかすぐに迎撃体勢に移っていた。

 そちらはグランとジニー、アレクシアの三人に任せる。

 俺は、弓と魔法書の竜騎士にトドメを刺す。


 トドメを刺すといっても殺すわけじゃない。

 ただ単に、行動不能に陥らせるだけだ。


 そのための技は……


「ユスティーナ!」

「うんっ」


 竜の枷を解いてもらう。

 体にかかる負担が消えて、自由に動けるようになる。


 竜の枷を受けている状態では力が制限されるが……

 言い換えれば、力をずっと溜めている状態、ということになる。

 最近、そういう風に進化することができた。

 だからこそ、戦いの最中でも、よほどのことがない限りは竜の枷はそのままにしておいた。


 そして今、それを解除する。

 さらに蓄えていた力を一気に、全て放出する。

 普段、体にかけられているリミッターを解除して……

 限界を超えた力を発揮する。


 これが切り札の一つだ。


 人は普段は30%くらいの力しか発揮することはできない。

 それ以上は体が壊れてしまうため、セーブされているのだ。


 しかし、竜の枷を受け続けることで、力を溜めることが可能になり……

 それを使用することで、俺は意図的に30%以上の力を出すことができるようになった。

 体にかかる負担は大きく、短時間だけではあるが……

 かなりの力を出すことができる。


「はぁっ!!!」


 60%の力で竜騎士二人を槍で薙いだ。

 二人はガードをするが……

 そのガードを破壊して強烈な攻撃を叩き込む。


 訓練用の槍に殺傷能力はないが、とんでもなく頑丈だ。

 槍が竜騎士の鎧を打つと、ヒビが入る。

 そのまま吹き飛ばされた。


 さすが正規の竜騎士。

 まだ意識は失っていないみたいだが……

 今ので骨が折れるかヒビが入ったかしただろう。

 ほぼほぼ行動能力を失った様子で地面に膝をついていた。


「ふぅ」


 体のセーブを元に戻した。

 リミッターを解除していた時間は10秒ほどだけど……

 たったそれだけなのに体のあちこちがギシギシと悲鳴をあげていた。


 今の俺では長時間使いこなすことは難しい。

 もっと精進しないといけないな。


「なかなかやるな、アルト・エステニアよ……さすが僕のライバルだ」


 テオドールが剣を構えつつ、こちらを睨む。


 いつの間にライバルになった?


「だが、僕は負けない! 必ずやアレクシアを救い出してみせよう!」


 テオドールの宣言にアレクシアが不安そうな顔になる。


「アルトさま……」

「大丈夫だ、アレクシアは守る」

「はい」


 俺は槍を構えて……


「いくぞ!」

「「おうっ!!」」


 グランとジニーが応えて、アレクシアも魔法書を構えて……

 テオドールとの最後の決戦が始まる。

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こちらも読んでもらえたら嬉しいです。

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