46話 狙うべき相手は?
……二日目。
「蒼の連撃!」
アレクシアの魔法が炸裂した。
氷の槍が生み出されて、オオカミに似た魔物の体を貫く。
魔物は悲鳴をあげて地面に倒れ、そのまま絶命した。
しかし、1匹を倒しただけだ。
まだまだ残りはたくさん。
10匹以上はいる。
1匹1匹の力は大したことはないが、群れると厄介だ。
連携をして、ありとあらゆる角度から攻撃をしかけてくる。
さらに、次々と援軍を呼ばれてキリがない。
こんな厄介な魔物、相手をしたくないが……
あいにくと、これも課題の一つなので無視することはできない。
それに、全滅させるのが厄介だからこそ、高いポイントを狙うことができる。
「兄さん!」
「おうよ!」
グランとジニーが絶妙な連携を見せて……
「蒼の一撃!」
「はぁっ!」
そこにアレクシアが魔法で追い込みをかけて、俺がトドメを刺す。
何度か課題をこなして……
ついでに、遭遇した魔物を蹴散らして……
それらのおかげで、連携がだいぶ様になってきたような気がした。
特に練習をしたわけではないが……
必要に応じて習得したというか、気がついたら互いの動きをある程度把握して、それぞれが最適な行動をとるようになった。
校外試験は、こういう学習を兼ねた場なのかもしれない。
「おー、よしよしよし」
「ワフゥ!」
ユスティーナは一人、全面降伏して腹を見せている魔物をワシャワシャと撫でていた。
竜にケンカを売るほど魔物もバカではないらしい。
自分が敵う相手ではないと悟ったらしく、すっかりペットに成り下がっていた。
ユスティーナがそんなことをしている間に、俺たちは順調に魔物の数を減らして……
「こいつで……」
「最後だっ!」
俺とグランの一撃が、それぞれ魔物を吹き飛ばした。
「おつかれさん」
「ああ、グランも」
拳をこつんとぶつけて、互いの健闘を称える。
「ねえ、兄さん、アルト君」
「えっと……まだ一匹残っているのですが、どうしましょう?」
みんなの視線がユスティーナが躾けていたペットに向いた。
……魔物とはいえ、あそこまで野性味をなくした相手を倒すのは気がひけるな。
「アルト、アルト。この子、飼ってもいいかな?」
「……ダメだ、元の場所に捨ててきなさい」
「えー……」
「ペットを飼うことは大変なことなんだ。ましてや俺たちは学生で、学院に通っている間は面倒を見ることができない」
「ボク、がんばるから!」
「そもそも……ソイツ、魔物だからなあ……」
「やっぱりダメかー……」
ダメという自覚はあったらしく、わりとあっさりとユスティーナは引き下がる。
さすがに倒すということはしないで、そのまま見逃した。
ほぼほぼ全滅させたわけだから、たぶん、大丈夫だろう。
ダメだと言われたら……その時はその時だ。
仕方ないと諦めて、また別の課題を探すことにしよう。
――――――――――
幸いというべきか、課題達成は認められた。
獲得したポイントは5。
朝に稼いだポイントを合わせると、全部で40ポイント。
二日目の昼の時点で一日目と同じ数値を稼いでいるから、順調と言えるのではないか?
ただ、他のパーティーがどれだけのポイントを稼いでいるかわからないため、安心はできない。
もしかしたら、テオドールのパーティーは40以上稼いでいるかもしれないからな。
そのことを考えると、やはり……
「……こちらから仕掛けたいな」
午後の行動を決めるべく、一度、拠点にしている小さな洞窟に戻った。
そこで、俺は朝から考えていたことをみんなに伝えた。
「仕掛けるって……他のパーティーにか?」
「バカ兄さん」
「バカって言う方がバカなんだぞ!?」
「そういう子供みたいなボケはいいから。アルト君が言いたいのは、他のパーティーに仕掛けることは間違いないけど、相手は決まっている、ってことよ」
「つまり……テオドールさまのパーティーを狙う、ということですね?」
「アレクシア、正解だ」
今回の校外試験における俺たちの目的は、優勝することでも、上位の成績を収めることではない。
もちろん、上位が取れるのなら取れるに越したことはないが……
なによりも、テオドールのパーティーに勝利することが最優先目的だ。
テオドールのパーティーよりも順位が上なら、最下位から一つ上だとしても構わない。
今回、テオドールのパーティーが低成績をさまよう……なんて期待はしない方がいい。
テオドールの普段の成績は悪くないと聞いているし……
ヤツのパーティーには正規の竜騎士が三人も組み込まれている。
そんなパーティーが低成績になるなんて思えない。
たぶん、トップ5入りはしているのではないか?
そんなテオドールのパーティーに勝つためには、ヤツを直接狙うしかない。
相手は、正規の竜騎士が三人も編成されているパーティー。
かなりの強敵ではあるが……
避けて通ることはできないだろう。
そんな俺の考えを話すと、みんなは納得したように頷いてくれた。
「ああ、いいと思うぜ。俺もそれ以外の道はないと思う」
「相手はかなりの強敵だけど……うん、大丈夫! 私たちが力を合わせれば、きっと勝てるわ!」
「私の力……その全部をアルトさまに預けますわ。どうか役立ててくださいませ」
ユスティーナを見る。
「ユスティーナは……」
「ボクはどんなことになろうと、どんな時であろうと、答えは一つだけだよ」
にっこりとユスティーナが笑う。
「アルトを信じる……ただ、それだけだよ」
ユスティーナからの厚い信頼と親愛を感じた。
ユスティーナだけじゃない。
グランもジニーもアレクシアも……みんな、俺のことを信じてくれている。
今の俺は一人じゃない。
友達がいる。
仲間がいる。
そのことを強く実感して、胸の奥が熱くなるのを感じた。
テオドールのパーティーは強敵だ。
それでも……一人でない今の俺ならば、勝てるような気がした。
「ですが……テオドールさまのパーティーに挑むとしても、どのようにして見つけるのですか?」
アレクシアがきょとんと小首を傾げた。
「そこなんだよな……」
「エルトセルクさんに頼めばいいんじゃねえか? こう、空を飛んで偵察に出てもらうとか」
みんなの視線がユスティーナに向いた。
ユスティーナは首を横に振る。
「最初に言ったけど、ボク、よほどのことがない限りは動かないよ? 勝負に負けたとして……その後、ゲームの基盤ごとひっくり返すような反則技はしてもいいけどね。アレクシアのためだし。でも、今はダメ。あまりボクに甘えられすぎても困るし、できることがある内は自分たちでやらないと」
もっともだった。
「でも……アルトが甘えてくれるなら、ボクとしてはそれに応えたいところもあるんだよねー。アルトがボクを頼りにしてくれる……うへ、うへへへ……いいよね、それ。ボク、アルトならダメ男になったとしても、一生面倒を見てあげるよ!」
「えっと……すまん、その気持ちはうれしいが、さすがにそれはちょっと……」
ユスティーナの愛情は無限なのだろうか?
時々、ちょっとついていけなくなる。
「って、話が逸れたな……さて、どうするべきか?」
皆で考える。
一人ではうまいことアイディアが出てこなくても、皆で考えればなにかしら出てくるような気がした。
「あの……」
やや自信がなさそうな感じではあるが、アレクシアが手を挙げた。
「うまくいくかわかりませんが、一つ、アイディアがあるのですが」
「どんな?」
「えっと……」
アレクシアの策を受け取る。
「なるほど、それは……」
「どうでしょうか?」
「……いいと思う。うまくすれば、いけるかもしれない」
グランとジニーを見る。
異論はない、任せるというように頷いた。
「よし、アレクシアの情報を元に作戦を考える。その後……テオドールと決着をつける!」
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