最終話 あなたに……
……数カ月後。
季節は春。
綺麗な花びらが舞い踊り、街を彩ってくれる。
空は青く、どこまでも澄んでいた。
雲ひとつない快晴で、太陽の光がとても眩しい。
でも、それは今日という日を祝福してくれているかのようだった。
なぜなら今日は……
――――――――――
「……」
控え室のイスに座る俺。
鏡を見ると、きっちりとした礼服に身を包んだ俺。
服に着られているというか……
着こなせている感じがしないため、どうにも落ち着かない。
「ふぅ」
深呼吸をして気持ちを落ち着かせようとするものの、無理だった。
心臓はバクバクと高鳴り。
視線をあちらこちらに飛ばしてしまう。
情けない。
でも、一方で仕方ないとも思う。
今日は人生の晴れ舞台。
それは……
「アルト」
コンコンと、扉をノックする音。
それと、ユスティーナの声が聞こえてきた。
「どうぞ」
「えっと……し、失礼します」
とても緊張した感じの声。
ややあって扉が開いて……
「……」
「アルト?」
「……」
「ね、ねえアルト。なんで無言なの? ボク、そんなにおかしい?」
「あ、いや……」
ユスティーナは白いドレスを身にまとっていた。
ウェディングドレスだ。
彼女と一緒に選んだものだけど、着ているところは見ていなかった。
ふんわりとボリュームのあるドレス。
ユスティーナはどちらかというと小さい方だけど、でも、とてもよく似合っている。
ふんわりとしたドレスが彼女の魅力を引き立てているというか……
視線が引き寄せられて離すことができない。
「うぅ……」
あ、しまった。
俺があまりに無反応なものだから、ユスティーナが泣いてしまいそうだ。
「ごめん。ユスティーナがあまりに綺麗なものだから、ついついぼーっと」
「ホント?」
「本当だ」
「えへへ~♪ よかった、アルトにそう言ってもらえて」
よかった、機嫌を直してくれたみたいだ。
「でも……うん、本当に綺麗だ」
「そ、そうかな?」
「なんていうか、ずっとそのままでいてほしい」
「ずっと!?」
ユスティーナの顔がどんどん赤くなる。
「そう言ってくれるのはうれしいんだけど、でも、さすがにドレス姿をずっとっていうのは厳しいかな」
「残念だ……」
「ふふ、アルトったら子供みたい」
「そうなるくらい、ユスティーナが綺麗なんだ」
「あわわ」
耳まで赤くなった。
「でも、そんな風に子供っぽくしていたらダメだよ?」
「そんなつもりはないんだけど……」
「アルトは子供じゃなくて、もう親なんだからね」
そう。
始祖竜の騒動からしばらくの月日が流れていて……
ユスティーナは無事、子供を産むことができた。
元気な女の子。
名前は、もちろん……メルクリアだ。
そして……今日は、俺とユスティーナの結婚式。
まずはメルクリアのことに専念しようと、式は後回しにしていたのだけど……
最近はだいぶ落ち着いたため、式を挙げることになった。
「ねえねえ、アルト」
「うん?」
「ボク、かわいい?」
「かわいいというか、綺麗だ」
「えへ、えへへ~♪」
ニヤニヤでいっぱいだ。
このまま式に出たら大変なことになるかもしれない。
「うれしいのはわかるけど、本番ではしっかりしてくれよ?」
「むう。逆にアルトは落ち着きすぎ」
「そうでもないさ」
これでも、ものすごく緊張している。
朝食をほとんど食べられなかったくらいだ。
でも、同時にワクワクしていた。
ユスティーナと結婚する。
愛する人と家庭を築いて、新しい生活を始めることができる。
それは、とても楽しいことだろう。
幸せなことだろう。
「……」
まさか、俺が家庭を持つなんて。
一年前の俺は、こんなこと夢にも思わなかっただろう。
しかも、相手は竜の女の子。
神竜。
自分で言うのもなんだけど、色々と規格外すぎる。
でも……
規格外ということは大きな問題じゃない。
大変なことはあるだろう。
困難に襲われるかもしれない。
だけど、ユスティーナと一緒なら……
メルクリアが、家族がいれば、なんでも乗り越えていけるはずだ。
そう信じていた。
「ねえ、アルト」
ユスティーナがそっと俺の手を取る。
そのまま、まっすぐにこちらを見つめてきた。
「ボク、すごく幸せだよ。すっごすごくすごーーーく幸せなんだ!」
太陽のような笑顔を浮かべて、明るい声で言う。
元気いっぱい。
それだけじゃなくて、女の子としての艶もあるというか……
今度はこちらが照れる番だった。
「アルトはどう?」
「俺も幸せだよ。世界で一番の花嫁を迎えることができて、本当に幸せだ」
「えへへ♪」
ユスティーナがくねくねと悶えた。
照れているのだろう。
「ボク、アルトと出会うことができてよかった」
「俺も、ユスティーナと出会うことができてよかったよ」
「……アルト……」
「……ユスティーナ……」
互いに見つめ合う。
彼女は、しっとりと潤んだ瞳をこちらに向ける。
なにを期待しているか、すぐに理解した。
本来なら、もう少し後で……
式の途中にするものだけど、ちょっとくらいフライングをしてもいいか。
そっと顔を寄せて……
「んっ」
唇と唇を合わせる。
そっと触れるだけのキス。
でも、ユスティーナの温もりと愛情を感じることができて、胸が幸せでいっぱいになる。
「アルト」
ユスティーナが甘い声で俺の名前を口にした。
「ボクは、あなたに一目惚れしたんだ。その責任、とってね?」
これで完結となります。
400話以上の長い連載に付き合っていただき、ありがとうございました。
やりたいことは全部やってしまったかな、というのが完結の理由となります。
本当は主人公とヒロインが結ばれたところで終わりを迎える予定でしたが……
その時点では敵も残っていたりしたため、修学旅行編をやって。
その後、もう少し二人の仲を詰めておきたいと思い、未来の娘編をやって。
やり残したことがなくなったため、区切りのいいところで終わりにしよう、
と考えて最終回とすることにしました。
たくさんの人に読んでいただき。
たくさんの応援をいただき。
本当にありがとうございました。