454話 未来に向けて
「……」
「……」
夜。
寮の屋上で、俺とユスティーナは星を眺めていた。
事件は無事に解決。
始祖竜の祝福も受けることができた。
最高の結果なのだけど……
でも、メルクリアがいないことが寂しい。
「メルクリア……帰っちゃったね」
「……そうだな」
未来からやってきた俺達の娘。
問題が解決すれば帰るのは当たり前で、ここにいないのも当たり前。
でも……
過ごした時間は短くても、とても濃厚だった。
だから、一緒にいるのが当たり前のようになっていて……
こうしていなくなってしまうと、とても寂しい。
「とはいえ、いつまでも落ち込んでいられないか」
「アルト?」
「元気を出そう。俺達のこんなところを見たら、メルクリアが心配する」
「そうだけど……でも……」
「大丈夫」
空を見上げつつ言う。
「すぐに会えるさ」
「え?」
「いや、その……」
改めてこの話をするのは、なんだか恥ずかしいのだけど……
でも、絶対に避けられない話。
今すぐにでも、あれこれと話し合わないとダメだ。
「ユスティーナは呪いが発動しただろう?」
「うん」
「それはつまり、メルクリアが産まれることが確定したわけで……」
「あっ」
ユスティーナも理解した様子だ。
あの時は呪いのことがあって慌ただしく、実感はなかったんだけど……
今、彼女のお腹には新しい命が宿っているはずだ。
「そっか、ボク……」
ユスティーナがそっとお腹を撫でる。
その表情はとても優しい。
それでいていつもと違い、母性のようなものを感じる。
「……うん! もうすぐメルクリアと会えるんだね」
「一応、明日検査をしに行こう」
「えー、別にいらなくない?」
「念のためっていうのもあるし、あと、これからどういう風に過ごしたらいいか、そういうアドバイスをもらいたい」
「あ、なるほど」
ユスティーナがにっこりと笑う。
「ボク、ママになるんだから、そういうところはしっかりしないとだよね」
「そういうことだ」
「えへへー」
ユスティーナはうれしそうだ。
……この後のことも喜んでくれるだろうか?
「ユスティーナ」
「うん?」
彼女をまっすぐに見つめる。
そして、とあるものを差し出した。
「これ……改めて受け取ってくれないか?」
「始祖竜の指輪?」
「自分で用意することも考えたんだけど、これ、始祖竜に認めてもらった証のようなものだから、婚約指輪はこの方がいいかな、って」
「ふぇ?」
信じられない、という様子でユスティーナが目を丸くした。
そんな彼女に、俺は、今必要な言葉を紡ぐ。
「俺と結婚してください」
「……」
ユスティーナの目がさらに大きくなる。
ものすごく驚いているみたいだ。
やはり不意打ちがすぎただろうか?
あるいは、もっとロマンチックな告白にするべきだったか?
「……」
少し不安になっていると、ユスティーナはそっと俺の手を取る。
指先で指輪を撫でて……
再び俺の手に触れる。
そして……
「うん、喜んで!」
極上の笑みを見せるのだった。




