453話 さようなら
ユスティーナの呪いは無事に解呪された。
始祖竜とも和解することができて、100点満点の結末だ。
ただ……
問題が解決したということは、メルクリアとの別れを意味する。
未来からやってきた彼女がいつまでもこの時代に留まるわけにはいかない。
自分がいるべき場所へ戻らないといけない。
そして、その日はすぐにやってきた。
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ユスティーナの問題が解決して。
始祖竜と和解することができた。
協力してくれたみんなへのお礼も兼ねて、店を貸し切ってパーティーでも開こうと考えていたのだけど……
「パパ、ママ……ボク、そろそろ帰るね」
平和が戻ってきた次の日の朝。
メルクリアがそんなことを言う。
「えっ、もう帰るの……?」
「あうー……?」
ユスティーナとノルンが寂しそうな顔をした。
未来の娘だから、ユスティーナはメルクリアのことを大事に想っていたし……
ノルンもメルクリアのことを友達のように想っていたみたいだ。
突然、別れを告げられて、二人共寂しそうな顔に。
「もう帰らないといけないから」
「それは……でもでも、もうちょっといてもいいんじゃない? ほら。アルトがお祝いのパーティーを考えてくれているみたいだから」
「あうあう!」
「……ありがとう、ママ。ノルン」
メルクリアはちょっとだけ涙を浮かべて、二人に抱きついた。
「でも、無理矢理この時代に来たから……すぐに帰った方がいいんだ。ボクがいればいるほど、おかしな影響を与えちゃうかもしれないから」
「……メルクリア……」
「だからママ……ここでお別れ」
「メルクリア?」
メルクリアの体がぼぅっと輝き始めた。
小さな体から光の粒子があふれ……
宙に舞い、消えていく。
光があふれればあふれるほど、メルクリアの体が薄くなっていく。
その時が来た、ということだろう。
「まって! ボク、まだなにもしてないよ!? メルクリアになにもしてあげられていないのに……助けられたのに、娘なのに……ボクは……」
「ううん。違うよ、ママ」
メルクリアはにっこりと笑う。
涙を流しつつも、笑う。
「ママが元気でいてくれる……ボク、それだけでいいの。そうしてくれているだけで、十分なんだ」
「うぅ……そんなこと……」
「でも、その……あのね? わがままを言うなら、もう一回、ボクのことを抱きしめてほしいな」
「メルクリアっ!」
ユスティーナはぎゅうっとメルクリアを抱きしめた。
娘をしっかりと抱きしめた。
「……ママ……」
「あのね? 今、こんなことを言うのはおかしいかもしれないけど、でも、言いたくて……ありがとう、メルクリア。ボクの娘に生まれてきてくれて、ありがとう」
「……うん、ママ。大好き……!」
我慢できず、二人は涙を流す。
そんなユスティーナとメルクリアの隣にノルンが寄り添い……
俺も一緒する。
「ありがとう、メルクリア」
「……パパ……」
「ユスティーナと同じで、帰ってほしくないけど……でも、そういうわけにはいかないんだよな」
「うん……今まで、無理をして残っていたから。これ以上は、もう……」
「そっか……でも、さようならは言わないから」
「え?」
「すぐに会えるから。また、すぐに会える」
「……パパ……うぅ……」
メルクリアの顔がくしゃりと歪む。
ぽろぽろと涙をこぼして……
それを見たユスティーナも思い切り泣いてしまう。
そんな彼女の肩に、そっと手をやる。
俺も泣きそうだけど、それはなんとか我慢した。
「ユスティーナ……ほら、我慢しよう。最後は笑顔で見送らないと」
「うん……うんっ」
ユスティーナは何度か頷いて、泣き笑いのような表情に。
俺は……うまく笑えているだろうか?
「さようなら……メルクリア」
「またな」
「パパ、ママ……うんっ、またね!」
メルクリアは、最後にいっぱいの笑顔を見せて……
そして、ふわっと光が弾けて、消えた。