452話 始祖竜の祝福
色はシルバー。
特に細工のないシンプルな指輪だ。
手にとって見ると、思っていたよりも軽い。
まるで紙を持っているかのようだ。
「この指輪は……?」
「それは、私の力を込めた指輪かな。身につけると、私の祝福を受けることができるよ」
「祝福?」
「一日一回。10秒だけっていう制限時間があるけど、私の力を使うことができる」
なんだ、その無茶苦茶な能力は?
始祖竜の力を使うことができるなんて、すさまじいアイテムだ。
下手をしたら、これ一つで国が傾くかもしれない。
そんなとんでもないアイテムなのだけど……
「んー……そんな効果はどうでもいいからさ」
ユスティーナは、どうでもいいと言い切ってしまう。
「それ、ボクにもくれない?」
「うん? それはいいけど……君、神竜なんだから十分強いじゃない」
「だーかーらー、あなたの力とか、そういうのはどうでもいいの。ボクはただ、アルトとおそろいの指輪がほしいの!」
それくらい察してよ、という感じでユスティーナが言うけれど、それはなかなか難しいと思う。
色々な意味で、ユスティーナは竜としては規格外だからな。
思考回路も規格外だ。
「まあ、もう一つくらいなら問題なく作れるけど……」
「じゃあ、ちょうだい! ボクも迷惑をかけられたんだから、当然の権利だよね!?」
「あ、うん」
始祖竜が押されていた。
グイグイと行くユスティーナは無敵なのだろうか?
「じゃあ……」
始祖竜は、祈るように両手を合わせた。
そして目を閉じて、深く集中する。
ふわふわと、ホタルのような光がどこからともなく現れた。
それらは始祖竜の手の間に吸い込まれていく。
「……よし」
ややあって、始祖竜が目を開けた。
そのまま両手も開いてみると、さきほどの指輪が一つ、生成されていた。
「はい、どうぞ。できたてのホカホカだよ」
クレープみたいに言わないでほしい。
「わーい、ありがと!」
ユスティーナは、さっそく指輪をつけた。
……薬指に。
「ねえねえ、アルト。どうかな? 似合っている?」
「えっと……うん、そうだな。よく似合っているよ」
「えへへー」
うれしそうに、ふにゃりと笑うユスティーナ。
そんな彼女を見ていたら、愛しい、抱きしめたいという感情が唐突に湧いてきた。
その気持ちを表現するかのように、俺も指輪をつける。
……薬指に。
「アルト……?」
「えっと……どうだろう?」
「……うんっ! うんうんうん! すごくすごく、すごーーーくいいよ!!!」
やや恥ずかしかったけど……
でも、これで正解だったみたいだ。
「ユスティーナ」
「うん?」
「これからも、よろしく」
「うんっ! ボクの方こそ、よろしくね!」
ユスティーナがにっこりと笑う。
太陽のように明るくて、いっぱいの元気で満たされていた。
よかった。
俺はこの笑顔を守ることができた。
失うことなく済んだ。
……本当によかった。
「はぁ……これ、私のやったことで、このバカップルをさらに仲良くさせただけ? なんか、すごく疲れた……」
そんな始祖竜のぼやきが聞こえてきたのだけど、ひとまず聞こえないフリをしておいた。